競馬あれこれ 第150号

レース名通りの好メンバーが集結! チャンピオンズCを分析する

チーム・協会
今週末のG1はチャンピオンズC。改称から10回目の節目にふさわしい好メンバーが揃ったダート王者決定戦の傾向を、現在の条件になった過去9年のデータから調べていこう。データの分析には、JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。

前走地方交流重賞出走馬が過去9年で8勝

■表1 【前走クラス別成績】

前走で地方戦に出走していた馬が過去9年で8勝を挙げる一方、前走が中央戦だった馬の勝利は昨年のジュンライトボルトだけ。ただし、2、3着には前走で中央G3を走っていた馬が計9頭入っており、これは前走地方より多い。1着候補は前走地方出走馬から探して、2、3着候補には前走中央G3出走馬も加えるのがひとまずのセオリーと言えそうだ。

前走南部杯出走馬の好走率が高い

■表2 【「前走地方」レース別成績】

前走地方に限った前走レース別成績を見てみたい。なお、JBCの3レースに京都開催の18年は含めない(以下同)。前走JBCクラシックは最多の延べ8頭の1~3着馬を送り出しているが、出走数も多く、見極めは欠かせない。2勝の前走南部杯複勝率5割に迫る有力なローテ。そのほか、JBCレディスクラシック、日本テレビ盃JBCスプリントから各1頭の好走例がある。

JBCクラシック組は意外な傾向

■表3 【「JBCクラシック組」前走着順別・人気別成績】

JBCクラシック組についてデータをふたつ補足する。ひとつは前走着順で、JBCクラシック1着馬は【0.1.0.6】と思わぬ不振で要注意。ただし、今年の1着馬キングズソードは登録がなかった。また、5着以下も合計【0.0.0.10】と振るわない。これらを除いた2~4着馬がJBCクラシック組の好走の大半を記録し、合計【4.2.1.8】という成績を残している。

もうひとつは前走人気。JBCクラシックで1番人気だった馬はチャンピオンズCで【1.0.0.7】と、こちらも意外なほど凡走が目立つ。また、6番人気以下だった馬の好走もない。残されたJBCクラシック2~5番人気が【3.3.1.10】と、ほとんどの好走を記録している。

東西の前哨戦ではみやこS組

■表4 【「中央G3組」前走レース別成績】

中央G3組の前走レース別成績を見ておきたい。1着馬を出しているのは前走シリウスSだけで、昨年はジュンライトボルトがここからG1勝利につなげた。前走みやこSは、そこで4角1~2番手だった馬が【0.2.2.4】、複勝率5割に対し、4角3番手以降だった馬は【0.0.2.23】とチャンピオンズCでは連対に至らない。前走武蔵野Sは苦戦傾向だが、数少ない好走馬のノンコノユメウェスタールンドがいずれも追い込みタイプだったことを記しておく。

中京ダート中距離で勝率50%以上は有望

■表5 【中京ダート1800、1900m実績別成績】

出走時までに中京ダート1800、1900mで勝率50%以上の成績を残していた馬は、チャンピオンズCで複勝率44.4%と手堅い。一方、勝率50%未満だと複勝率13.1%と大きく数字を下げる。勝率50%未満でも好走した6頭(延べ8頭)の内訳を記しておくと、ホッコータルマエコパノリッキーゴールドドリーム、チュウワウィザードはすでに(交流を含む)G1を勝っていた。残る2頭のアナザートゥルースは同年の東海Sで2着、サンビスタは前年のチャンピオンズC4着と、中京ダート1800m重賞で一定の実績を有していた。なお、未出走でも当日1~3番人気に限れば【2.3.1.4】と、有力視される馬であればコース未経験であることを過剰に心配する必要はないかもしれない。

【結論】
登録馬19頭のうち中京ダート1800、1900mで勝率50%以上の馬は、回避予定馬を除いて5頭いる。その中でも今回のデータ分析から有力と思われるのは、JBCクラシック組の好走条件「前走2~5番人気で2~4着」に該当するテーオーケインズ。また、前走シリウスS1着のハギノアレグリアは昨年のジュンライトボルトに続きたいところだろう。もちろん、昨年2着のクラウンプライドも忘れてはいけない。残る2頭のグロリアムンディ、アーテルアストレアもマークはしておきたい。

勝率50%未満の場合は、交流を含むG1馬か、中京ダート1800m重賞で一定の実績が欲しい。この条件から浮かび上がるのは、いずれもG1馬で前走JBCクラシックのメイショウハリオとノットゥルノ。ただし、メイショウハリオはJBCクラシック1番人気馬が不振傾向である点が気にかかる。その点、ノットゥルノJBCクラシック組で好走率の高い「前走2~5番人気で2~4着」を満たし、有力な存在とみなすことができる。

中京ダート1800、1900m未出走の馬では、好走率の高い前走南部杯ジオグリフレモンポップは見逃せないところ。もちろん、5戦5勝の超新星セラフィックコールも注目の1頭だが、前走みやこS組は4角通過が1~2番手だった馬が堅実なところ、11番手だった点は少々気になる。相手が一気に強化されるここでも豪脚が発揮されるかどうか、レースの大きな見どころとなるだろう。

競馬あれこれ 第149号

ジャパンカップ】まだ“上”があったイクイノックス、強さの秘密は生まれ持った「奇跡のバランス」

チーム・協会

イクイノックスがジャパンカップを圧勝、GI・6連勝で総獲得賞金歴代ナンバーワンとなった 

秋競馬の大一番、第43回GIジャパンカップが11月26日、東京競馬場2400m芝で行われ、クリストフ・ルメール騎手騎乗の1番人気イクイノックス(牡4=美浦・木村厩舎、父キタサンブラック)が優勝。道中3番手追走から最後の直線で楽々と抜け出し、GI・6連勝を飾った。良馬場の勝ちタイムは2分21秒6。

 イクイノックスは今回の勝利で通算10戦8勝(うち海外1戦1勝)、重賞は7勝目。総獲得賞金は22億1544万6100円となり、アーモンドアイを抜いて歴代1位となった。また、騎乗したルメール騎手はジャパンカップ4勝目、木村哲也調教師は同レース初勝利となった。

 なお、2番人気に支持された川田将雅騎手騎乗のリバティアイランド(牝3=栗東・中内田厩舎)は4馬身差の2着、さらに1馬身差の3着にはウィリアム・ビュイック騎手騎乗の5番人気スターズオンアース(牝4=美浦・高柳瑞厩舎)が入った。

「信じられない。もう言葉がありません」

ゴール後、イクイノックスとルメール騎手に8万を超える大観衆から声援が送られた 

衝撃的なレコードタイムで圧勝した天皇賞・秋から1カ月。これ以上はもうない、と個人的には思っていたイクイノックスのパフォーマンスだったが、“それ以上”があったのだ。

「直線が速すぎました。この馬の走りが信じられないです。直線ですごい反応をしてくれて、自分でもビックリしました。もう言葉がありません」

 百戦錬磨のルメール騎手ですら、今になってなお舌を巻くレースぶり。それほどまでにイクイノックスがこのジャパンカップで見せた競馬は凄まじかった。あの無敵の三冠牝馬リバティアイランドが全く追いつけない。しかも、徹底マークから川田騎手が懸命にステッキを振るっていたのとは対照的に、ルメール騎手は肩ムチを1発、2発、軽く打ったのみでほぼノーステッキの形。それでいてイクイノックスは涼しい顔で4馬身も前にいるのだから、ルメール騎手と同じか、それ以上に見ていた側も「信じられない!」という気持ちでいっぱいだろう。

 そして敗れたリバティアイランド陣営も「全力で挑ませていただいて素晴らしい走りを見せてくれた中で、イクイノックスはさすが世界一の馬、すごく強かったです」と川田騎手。中内田調教師も「良い競馬をしたと思いますが、相手はやっぱり世界一の馬ですね」と、何の言い訳もなく“世界ナンバーワンホース”の強さに脱帽するしかなかった。

イクイノックスに騎乗することの楽しさ、そしてスリル

天皇賞・秋同様に超ハイペースとなったが、イクイノックスは悠々と抜け出してリバティアイランド以下を完封 

レースは宣言通りパンサラッサがゲートを飛び出してハナを主張すると、番手にタイトルホルダー、それを見る形で好発を切ったイクイノックスが枠なりで続いた。この序盤の攻防をルメール騎手はこう振り返っている。

「1番枠にリバティアイランドがいて、隣の3番にはタイトルホルダーがいたのでその後ろに行きたいと思っていました。イクイノックスは良いスタートをしてくれて、すぐタイトルホルダーの後ろに行けたので、勝てるイメージが出てきました」

 逃げたパンサラッサが刻んだペースは前半1000m57秒6。天皇賞・秋の57秒7より0秒1速い超ハイペースだったわけだが、そんな激流の中を好位からでも脚色鈍らず最後まで最上級のパフォーマンスを発揮できるのがイクイノックスという馬。それは秋の盾ですでに証明されていることであり、この日も単独3番手から鞍上との折り合いはバッチリ、実に悠々と気持ち良さそうにラップを踏んでいた。

「イクイノックスに騎乗する際にはいかに折り合いをつけてスムーズにレースをするかが大事になってきます。折り合いがついてこそ彼のパワーが発揮できる。そうしてイクイノックスと呼応してレースをすることが自分にとって楽しくて、凄くスリルになっているんです。彼が加速していく時のスピードは非常に心地良いですね」

爪の形、骨格、筋肉の柔らかさ、全てが奇跡的な組み合わせ

体格面においてイクイノックスは「生まれながらにして奇跡の組み合わせ、パーフェクトバランス」と木村調教師は語る 

イクイノックスに騎乗すること、ともにレースに臨むことに関してそう表現したルメール騎手。いつもと違ったのはその加速スピードがあまりにも速すぎて言葉を失ったわけだが、同時にその異次元のスピードに触れた8万人を超えるファンからの大歓声を一身に受けて、ゴール後はとめどない感情が涙となってあふれ出た。

「今日はなぜか自分自身、アドレナリンが非常に高まっている状態でした。それで、物凄くたくさんのファンの方が喜んでくれていた姿を見た時に感情がわいてきたんです。泣くことはめったにないんですけど、説明がつかない感情に襲われました。凄く特別な瞬間でしたね」

 ただ強いというだけではない。ファンの心を揺さぶり、そしてジョッキーの魂を揺さぶるスーパーホース。特別、別格……いや、それらを通り越してもはや奇跡のような存在にも思えてくるが、実際にイクイノックスは“奇跡のバランス”で成り立っていると、木村調教師は語る。

ルメール騎手が乗りやすいと言ってくれるのはフットワークのバランスが良いからだと思います。それは生まれ持った体格的なもので、爪の形、骨格、筋肉の柔らかさ、全てが奇跡的な組み合わせでパーフェクトバランスの馬なんだと思います。手前味噌ではありますが、厩舎としてはそのバランスを整えることを重視していまして、ルメール騎手に託す際にはそれが乗りやすい状態になっているのかなと思いますね」

「長く皆さんの記憶にとどめておいてください」

イクイノックスの今後は現時点で未定、次はどのようなプランとなるのか陣営の発表を楽しみに待ちたい 

昨年の天皇賞・秋から国内、海外も含めて負けなしのGI・6連勝を飾り、未知の対戦相手だったリバティアイランドも退けた今、国内にライバルはもういない。となると、“次”は何を狙うのか――それは日本メディアだけの関心事ではなく、海外メディアから真っ先にその質問が木村調教師にぶつけられた。

「まだレースが終わったばかりですので、まずは明日、厩舎に戻ってから馬の無事を確認してから、色々な方向性をオーナーサイドと検討していきたいと思います。今のところ決定していることは何もなくて、このジャパンカップに集中してきましたから」

 来年も現役続行かどうかについても「何もプランは決まっていません」とトレーナー。イクイノックスの次走が連覇を狙う有馬記念になるのか、来年に向けてパワーを温存することになるのか、それとも……。世界最強馬の行く先を様々に想像するのもまた、競馬の楽しみの一つ。しかし、今日ばかりは先走る心をちょっとだけ落ち着けよう。

「美しい瞬間をイクイノックスとともにできて本当に嬉しい。皆さんも信じられないレースを見たと思いますし、特別なシーンを見ることができたと思います。長く記憶に残るレースにもなったと思うので、皆さんの記憶にとどめておいてください」

 ルメール騎手が共同会見の最後に話した言葉通り、2023年のジャパンカップは本当に素晴らしいレースだった。このレースを忘れないためにも(いや、忘れることはないと思うが)、イクイノックスの一完歩ずつ、そして全力を尽くしたリバティアイランド、スターズオンアース、ドウデュースら全馬の走りを、今はただ、ただ噛みしめたい。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第148号

絶対王者イクイノックスに迫れる馬は?

チーム・協会


今週日曜日に行われるジャパンCは、G1・5連勝中のイクイノックス「一強」という雰囲気だ。しかし、他にも実績十分で楽しみな馬が揃った。ジャパンCの過去傾向をJRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用して分析してみたい。

天皇賞(秋)レコード勝ち後は着順を落とす?

■表1 【天皇賞・秋コースレコードで勝利した馬の次走成績、2000年以降】

イクイノックスが前走天皇賞(秋)レコードタイムで勝利したので、それにまつわるデータを調べた。2000年から2022年の間、天皇賞(秋)コースレコードで勝利した馬は3頭いて、いずれも次走はジャパンCに出走した。しかし、03年シンボリクリスエスは3着(1番人気)、08年ウオッカは3着(2番人気)、11年トーセンジョーダンは2着(6番人気)という結果に終わった。トーセンジョーダンの場合は人気よりも走ったので悪い結果ではないのだが、一応3頭ともジャパンCでは天皇賞(秋)よりも着順を落としたことになる。

それでも天皇賞(秋)4着以内馬が有力

■表2 【前走天皇賞・秋組の着順別成績、00年以降】

00年以降のジャパンCにおける前走天皇賞(秋)組の着順別成績を調べたところ、前走1着が勝率21.4%、連対率35.7%、複勝率85.7%と非常に優秀だった。前走4着は連対率36.4%、単勝回収率114%という部分において前走1着を上回っている。前走2着や前走3着の連対率や複勝率も悪くはないので、基本的には前走天皇賞(秋)組は4着以内の馬が有力と言えるだろう。

前走秋華賞1着馬もチャンスあり

■表3 【前走秋華賞組の着順別成績、00年以降】

前走秋華賞1着馬ジャパンC成績(00年以降)は【2.0.2.1】で勝率・連対率40.0%、複勝率80.0%でとても優秀。さらに牝馬三冠競走すべてで連対した馬に限ると【2.0.2.0】で複勝率は100.0%となる。好走したのは09年レッドディザイア(3着)、12年ジェンティルドンナ(1着)、18年アーモンドアイ(1着)、20年デアリングタクト(3着)。こうした実績馬であればジャパンCでも高確率で好勝負になり、勝つチャンスも十分ある。

前走天皇賞(秋)6着以下でも軽視はできない

■表4 【前走天皇賞・秋6着以下から巻き返した馬、00年以降】

先ほどの表2からは前走天皇賞(秋)4着以内が有力という傾向が読み取れたが、6着以下の馬も軽視はできない。例えば、前走6~9着は勝率9.4%、連対率12.5%、複勝率15.6%をマーク。前走10着以下の馬も含めれば、合計8頭(表4参照)がジャパンCで巻き返した。その内、4歳馬は05年ハーツクライ、07年アドマイヤムーン、14年エピファネイア、18年スワーヴリチャードの4頭。いずれも過去に芝2200~2400mのG1で連対した実績があった。

【結論】

牝馬三冠のリバティアイランドが金星に挑む

国内外のG1・5連勝中で実力・実績断然のイクイノックスにやはり注目が集まるところ。これまでのパフォーマンスを考えれば東京芝2400mで馬券から消えることは相当考えづらい。ただ、中3週という詰まったローテーションで競馬をするのは今回が初めて。表1で示した気になるデータもあるので、他馬にも勝機はあるかもしれない。

ここは3歳牝馬リバティアイランドに期待してみたい。同世代の牝馬が相手とはいえ、やはり牝馬三冠達成は偉業。13年のジャパンCで、3歳牝馬ジェンティルドンナが当時4歳で古馬最強のオルフェーヴルに勝った点も、リバティアイランドを後押しする材料になっている。斤量(古馬・牡馬と4キロ差)と、ゆったりとしたローテーション(天皇賞・秋よりも2週長い)がアドバンテージになりうるので、イクイノックスが相手でもかなり迫れる可能性があるとみたい。

イクイノックス以外の古馬で注目したいのは、前走天皇賞(秋)組のドウデュース。2番人気で7着と案外な競馬になってしまったが、この一戦で見限るわけにはいかない。日本ダービー制覇の実績がある4歳牡馬の底力に期待したい。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第147号

京都芝外回り1600m戦で買える騎手は? マイルCS分析

チーム・協会
京都競馬場マイルCSが行われる。秋のマイル王決定戦で、今年は4年ぶりに京都開催となる。阪神開催の昨年は3歳馬セリフォスが優勝。今年も出走を予定しており、連覇なるかに注目だ。今回は近3年の阪神開催を含めた過去10年のデータならびに今年4月にリニューアルオープンした後の京都芝外回り1600m戦の騎手別成績からマイルCSを分析していきたい。なお、データ分析にはJRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。

4歳馬が連対率・複勝率トップ

■表1 【マイルCS過去10年の年齢別成績】

まず表1は過去10年の年齢別成績。3・4・5歳が3勝ずつで並んでいるが、連対率・複勝率では4歳馬が抜けて高い。勝率トップは3歳馬で、17年ペルシアンナイト(4番人気)、18年ステルヴィオ(5番人気)、昨年のセリフォス(6番人気)と4番人気以下の馬が勝利している。

出走数最多の5歳馬は連対率・複勝率で4歳馬に差をつけられている。6歳馬は14年ダノンシャークが優勝も、16年以降は3着以内馬が出ていない。なお、7歳以上の馬は苦戦傾向にある。

前走G1で3着以内の馬が好成績

■表2 【マイルCS過去10年の前走着順別成績】

表2は前走着順別成績。前走3着以内だった馬が大半の8勝をあげ、複勝率も高い。これら前走3着以内馬の前走クラス別成績では、前走G1組が一昨年のグランアレグリアら4勝をあげ、連対率60.0%・複勝率70.0%と非常に高い。
G2組が複勝率31.0%、G3組が同14.3%で、前走クラスが高い方が好走しやすい傾向にある。
なお、前走4・5着はともに複勝率17.6%、前走6着以下は14年1着ダノンシャーク(前走富士S7着)しか好走馬が出ていない。

前走G1で3番人気以内だった馬に注目

■表3 【マイルCS過去10年の前走人気別成績】

表3は前走人気別成績で、勝ち馬10頭はすべて前走3番人気以内だった。その前走クラス別成績では前走G1組が15年モーリスら4勝をあげ、連対率・複勝率50.0%と非常に高い。次いで前走G2組が複勝率26.7%、前走G3組が同20.0%となっている。

マイルCSは過去10年堅めの決着が多く、要因として前走G1において上位人気で3着以内に入った馬が好走している、ということが挙げられる。前走4番人気は2着4回で連対率19.0%、前走5番人気以下からは連対馬が出ていない。

複勝率が高い西村淳也騎手

■表4 【今年の京都芝外回り1600m戦の騎手別成績(全11レース)】

今年4月にリニューアルオープンした後の京都競馬場の芝外回り1600mにおける騎手別成績が表4。先週までに全11レース行われ、松山騎手がトップの2勝をあげて複勝率50.0%、他の9名が1勝ずつ。川田騎手は連対率・複勝率60.0%で松山騎手を上回っている。

また、複勝率71.4%で川田騎手を上回るのが西村淳也騎手。今秋の京都開催では騎乗機会3回で、3着(10番人気)・3着(6番人気)・2着(1番人気)と、いずれも馬券圏内に入っている。

【結論】

連覇のかかるセリフォス、エルトンバローズの上昇度に期待

■表5 【今年のマイルCSの注目馬】

(表5は11/15時点、除外対象馬なし)

連覇がかかるセリフォスは連対率・複勝率が高い4歳馬(表1)、前走G1の安田記念で3番人気2着(表2・表3)と、過去10年の好走データに当てはまる。今回は川田騎手が騎乗予定で、表4のとおり、京都芝外回り1600mの成績も申し分ない。安田記念以来となるが、休み明けも苦にしないタイプで連覇の可能性は十分とみる。

二番手に推したいのがエルトンバローズ。勝率トップの3歳馬(表1)、前走G2の毎日王冠で1着(表2)とマイルCSの好走傾向に合致し、京都芝外回り1600mと好相性の西村淳也騎手が騎乗予定だ。人気勢の多くが差しタイプなのに対して、先行できるエルトンバローズが恵まれる可能性もあるだろう。西村淳也騎手にとってG1初制覇のチャンスかもしれない。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第146号

エリザベス女王杯】ブレイディヴェーグ5戦目でGI初戴冠、天才少女を超える快挙V

チーム・協会

3歳牝馬ブレイディヴェーグがキャリアわずか5戦目でエリザベス女王杯を制覇! 

第48回GIエリザベス女王杯が11月12日、京都競馬場2200m芝で行われ、クリストフ・ルメール騎手騎乗の1番人気ブレイディヴェーグ(牝3=美浦・宮田厩舎、父ロードカナロア)が優勝。好位4番手のインから最後の直線で力強い伸び脚を繰り出し、キャリア5戦にしてGIタイトルを手にした。良馬場の勝ちタイムは2分12秒6。

 今回の勝利でブレイディヴェーグはJRA通算5戦3勝、重賞は初勝利。ルメール騎手は菊花賞天皇賞・秋に続き秋のGIは3連勝となり、エリザベス女王杯は2008年リトルアマポーラ、20年ラッキーライラックに続く3勝目。同馬を管理する宮田敬介調教師は嬉しいGI初勝利となった。

 なお、3/4馬身差の2着には松山弘平騎手騎乗の5番人気ルージュエヴァイユ(牝4=美浦・黒岩厩舎)、さらにクビ差の3着には川田将雅騎手騎乗の3番人気ハーパー(牝3=栗東・友道厩舎)が入った。

1枠1番、スタートの不安が的中、しかし……

今回もゲートを上手く出ることはできなかったがすぐさまリカバリー、最後の直線では自慢の瞬発力を爆発させた 

エリザベス女王杯ではあの“天才”ファインモーションのキャリア6戦を上回る、わずか5戦目での戴冠。現3歳世代の牝馬はリバティアイランドだけではないことをアピールするに十分な勝利だった。

「1枠1番はイヤでした(笑)。厳しいと思いましたね。京都2200メートルはすぐにコーナーがあるのでスタートが悪かったら後ろのポジションになってしまう。ブレイディヴェーグはスタートが上手じゃないから心配しました」(ルメール騎手)

 まず注目されたのはゲートの出方。前走ローズステークスで繰り出した上がり3F32秒9の脚を見れば、相当な能力を秘めた馬だということは明らかなものの、なにせゲートの出が悪い。下級条件ならば、それでも能力の違いで勝てるのだが、上のクラスに行けば行くほど競馬はそう甘いものではなくなる。事実、世代トップクラスが集まるローズステークスでは出負けが響き、後方で苦しいレースを強いられて差し届かずの2着敗戦だった。それだけに同じ轍は踏むまいとルメール騎手も細心の注意を払っていたはずだったが、不安は的中……。

「いつも通りのジャンプスタート、あまり良くなかったです」

 しかし、ここから天性のスピードで自然とリカバリーすると、ペースが落ち着いた向こう正面ではハーパーを見る形での4番手のイン。これも馬自身の学習能力の高さか、あるいはルメール騎手の巧みなエスコートか、いずれにしてもローズステークスと比較すれば、これ以上ない絶好位だった。

ルメール太鼓判「もっと伸びしろがある」

手綱をとったルメール騎手はこれで菊花賞天皇賞・秋に続き、GI・3連勝となった 

「手応えはずっと良かったですね。この馬は瞬発力がすごくある馬ですし、ローズステークスもよく伸びてくれたけど後ろ過ぎました。でも、今回は3番手から直線で前走と同じ脚を使ってくれました。すぐに抜けることができて良かったです」

 昼過ぎから一時雨が降ったことでパンパンの良馬場とはならず、「少し心配していました」とルメール騎手。だが、この点に関してはゲートとは違い、杞憂に終わったことは何よりも最後の伸び脚が示した通り。馬場コンディションの良い四分どころに持ち出すと、アッという間に出走馬唯一のGI馬ジェラルディーナをはじめ並みいる重賞実績馬を置き去りにしてみせたのだった。

 冒頭でファインモーションを上回ると書いたが、キャリア5戦目での古馬GI制覇は今季世界最高評価のイクイノックスに並び、グレード制が導入された1984年以降だと史上2頭目の快挙。2023年の牝馬と言えばもちろんリバティアイランドなのだが、今年もあと2カ月と迫ったところで、またとんでもない怪物牝馬候補が3歳世代から現れた。イクイノックスの主戦でもあるルメール騎手が、ブレイディヴェーグの“可能性”をこう語る。

「まだまだ伸びしろがあると思います。秋から体が大きくなってパワーもついてきました。今日の状態をキープしていけば、これからもGIで活躍できると思います」

アーモンドアイのイメージを重ねて

宮田調教師(左)は開業4年目にして嬉しいGI初勝利となった 

一方、開業4年目で初のビッグタイトルを手にした宮田調教師にとっても、単にGI初勝利というだけではない特別な1勝になりそうだ。と言うのも、宮田調教師はかつて国枝栄厩舎で調教助手を務めており、当時、同厩舎所属として4勝を挙げた牝馬こそがブレイディヴェーグの母インナーアージだった。

「国枝先生や厩舎スタッフの皆さんが大切に育て上げて、無事に繁殖に送り出したインナーアージの子どもでGIを勝てたことが何より嬉しく思いますし、国枝先生、厩舎のみんなにも感謝しています」

 その国枝厩舎からは今回、サリエラが出走しており、師匠の馬を負かしてのGI初制覇は一番の恩返しになったに違いない。そして、国枝厩舎で同じロードカナロア産駒の牝馬と言えば、そう、芝GIではJRA史上最多9勝のアーモンドアイが思い出される。

「アーモンドアイにまたがったことは何回かしかないのですが、どちらかと言えば併せ馬で誘導する機会が多くて、間近で見ていて『本当に凄いな』と思っていました。実際、ブレイディヴェーグ自身は調教の走りを見ていても、前脚の上がり方や可動域も広いですし、最後の瞬発力からも自分の中ではイメージをちょっと重ねています。あれだけの歴史的名馬と比較するのはおこがましいのですが、少しでも近づけるように、ブレイディヴェーグ自身も成長できるように導いていければと思っています」

リバティアイランドとの直接対決は実現するか

来年は牡馬との対決が待っている、そして同い年のリバティアイランドとの直接対決は実現するか 

次走については未定だが、トレーナーによれば「今回はメイチで仕上げましたので、少し休みになるのかな」と、年内は休養の見込みか。ただ、今後の展望については「この子のポテンシャル的には男馬相手でもやれるんじゃないかなという可能性を秘めていると思うので、今からワクワクしています」と、来年の牡馬との戦いを早くも心待ちにしている表情を見せた。

 年上、あるいは同世代のトップ牡馬相手にどれだけの走りを見せてくれるのか――それはもちろん来年の大きな楽しみではあるのだが、それよりもファンが期待するのは同い年のリバティアイランドとの直接対決だろう。最強牝馬の座をかけた頂上決戦、そんなレースがどこかで実現することを願うばかりだ。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第145号

秋の牝馬頂上決戦・エリザベス女王杯を分析する

今週はエリザベス女王杯。1995年までは現在の秋華賞に相当するレースとして行われており、メジロラモーヌヒシアマゾンなどが優勝。3歳(旧表記4歳)・古馬混合戦となった1996年以降ではメジロドーベルダイワスカーレットリスグラシュー、ラッキーライラックといった名牝が優勝馬に名を連ねている。今年は4年ぶりに本来の京都に戻っての開催になるが、阪神で行われた近3年も含む過去10年の傾向をJRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用して分析したい。

好走馬の大半は前走G1・G2

■表1 

過去10年の前走クラス別成績を調べると、3着以内の好走馬30頭中19頭は前走で中央G2に、9頭は中央G1に出走していた。その他の好走馬は2頭しかいないため、前走がG3以下だった馬は大幅な割引が必要になる。また、G2でも京都大賞典組は【0.0.0.13】の不振だ。

3、4歳馬が中心

■表2 

年齢別では4歳が【7.3.6.44】で複勝率26.7%、3歳が【2.4.2.30】で同21.1%をマーク。4歳の好走馬16頭中14頭は前走で中央G2に、3歳の好走馬8頭中7頭は中央G1に出走していた。5歳以上は劣勢だ。

4歳・前走G2組は前走7着以内馬

■表3 

前走でG2に出走していた4歳馬について前走着順別の成績をみると、好走馬14頭はすべて前走7着以内だった。この「4歳」「前走G2」「前走7着以内」の馬は【7.3.4.13】で複勝率は51.9%になる。なお、4歳の好走馬で前走がG2以外だったミッキークイーン(2016年3着、前走ヴィクトリアM2着)は、ここまでの成績が【4.5.0.1】で馬券圏外はジャパンC8着のみ、クラヴェル(2021年3着、前走新潟記念3着)は重賞で【0.1.2.0】と4着以下がなかった。

3歳は秋華賞組か前走1着馬

■表4 

3歳の好走馬は表4の8頭で、うち6頭は秋華賞。一昨年2着のステラリアが秋華賞6着から、昨年2着のライラックが同10着から巻き返しているように秋華賞での着順は気にならない。ただ、秋華賞組というだけでは【2.3.1.24】複勝率20.0%止まり。秋華賞前までにオープン・重賞勝ちの実績がある馬を狙いたい。

残る2頭は前走条件戦1着のラキシスと、オークス1着以来だったラヴズオンリーユー。エリザベス女王杯古馬に開放された1996年以降、前走が秋華賞以外で2着以下だった3歳馬は【0.0.0.8】(外国馬除く)に終わっている。

5歳以上なら2200m以上のG1連対実績馬

■表5 

5歳以上の好走馬は6頭。すべて前走でG1またはG2に出走して5着以内だったが、「5歳以上」+「前走G1またはG2」+「前走5着以内」で絞っても【1.4.1.23】複勝率20.7%と好走確率はさほど高くならない。この条件に加え芝2200m以上のG1連対実績(6頭中5頭)を持つ馬から候補を探りたい。

【結論】

4歳馬ライラック、ルージュエヴァイユが有力

エリザベス女王杯は前走でG2に出走し7着以内だった4歳馬の好走確率が高い(表1~3)。昨年の本競走2着馬(同着)ライラックはその後、牡馬相手に3戦して4、9、17着だったが、牝馬同士に戻った前走の府中牝馬Sで3着。今年も上位争いを期待できそうだ。また、その府中牝馬Sで同馬に先着(2着)した同じ4歳のルージュエヴァイユも有力候補になる。

3頭の登録がある3歳馬ではハーパーが筆頭格。秋華賞組かつ4走前のクイーンCで重賞勝ちを飾っている点がプラス材料だ(表4)。なお、5歳以上で表5の条件をクリアする馬は不在だが、あえて1頭挙げれば昨年の覇者・ジェラルディーナだろうか。前走オールカマーは表5の好走条件「前走5着以内」に0.1秒及ばず6着も、5歳以上でG1連対実績を持つのは本馬1頭だ。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第144号

ドバイWC馬ウシュバテソーロが米ダート競馬の最高峰に挑む ブリーダーズカップ4レースを展望

チーム・協会

米ダート最高峰制覇に期待が懸かるウシュバテソーロ 

ブリーダーズカップクラシック】有力馬の直前回避が続出、ウシュバテソーロとデルマソトガケの勝機拡大

ウシュバテソーロとデルマソトガケが参戦し、日本調教馬として初の米ダート最高峰制覇に期待が懸かるBCクラシックだが、1週前まで上位人気が濃厚と見られていたアルカンジェロやケンタッキーダービー馬メイジなど、決戦を直前に控えて有力馬の回避が続出。早くも波乱の様相を呈している。

本場の一流馬たちが脱落してしまったのは残念だが、ウシュバテソーロとデルマソトガケにとって想定より手薄になった相手関係は追い風。その一方で展開は読みづらくなった。

差し・追い込み型のウシュバテソーロはアルカンジェロが道標になるはずだったが、それが無くなってしまった。遠征前の日本テレビ盃は前々で受ける横綱相撲で圧勝しており、同じ形を取れるなら理想的ではあるものの、地方交流重賞アメリカのダートG1ではペースが違う。川田将雅騎手がどのような位置からレースをするかがカギとなる。

一方、先行したいデルマソトガケはKYダービーで失敗したゲートを決められるか。枠順(5番)は上々で、決めれば圧勝したUAEダービーのような逃げを打てる可能性もある。KYダービーで崩れずに走り抜いた気持ちの強さはあるだけに、最も力を出せる先行策で真価を発揮してほしい。

先行したいデルマソトガケにとって気になる存在はホワイトアバリオとアレイビアンナイト。ホワイトアバリオは前走のホイットニーSで軽快な逃げから圧勝している。内の3番枠でもあり、簡単に先手を許すと厄介だ。ただ、最も逃げにこだわるのはアレイビアンナイトかもしれない。4戦しかキャリアがなく、3勝は全て逃げ。唯一の黒星は先行争いに巻き込まれた結果で、外の12番枠からになった今回は単騎に持ち込むべく主張することも。

前走のホイットニーSを圧勝したホワイトアバリオ 

混戦で各馬が勝機ありと前のめりになるケースもめずらしくない。そうなればウシュバテソーロに願ったりかなったりだが、ゼンダンにとっても同じだろう。通算13戦3勝と勝ち切れない面がある一方で、3着から漏れたのも1回しかなく差し脚は堅実。その1回も不良馬場での4着だ。前走は1年半ぶりに白星を挙げてムードが良く、昨年末から春までサンタアニタパーク競馬場で騎乗していたL.デットーリ騎手の起用が新味を出せば面白い。

この他でG1実績があるのは、前走のペンシルベニアダービーで1着のサウジクラウンと1/2馬身差2着のドリームライクだが、前々走のジムダンディSでKYダービー馬メイジにハナ差の2着もあるサウジクラウンが、未勝利勝ちから直前の条件戦で5着でしかないドリームライクよりも着順通りに信頼性は高い。サウジクラウン陣営は早い段階からBCクラシックを意識しており、直近2戦の不良馬場から良馬場に変わってパフォーマンスを上げるようなら怖い。

ブライトフューチャーとプロクシーも前走のG1ジョッキークラブゴールドCで連対。ただ、1着のブライトフューチャーは重賞初制覇で、他に重賞出走歴が1戦しかなく今回は試金石。当時のJ.カステリャーノ騎手はアルカンジェロ(回避)、その前5戦で鞍上を務めたI.オルティスJr.騎手もホワイトアバリオを選択している。プロクシーはハナ差及ばずの2着も、春には今回と同舞台のG1サンタアニタHで2着。昨年はクラークSでG1勝ちの実績がある。

ミストザカットやクラプトン、セニョールバスカドールは実績や対戦成績から一枚落ちの印象だが、有力馬の回避でもつれる展開になれば活路があるかもしれない。

日本調教馬としてBCターフ初制覇を狙うシャフリヤール 

ブリーダーズカップターフ】強力欧州勢に挑むシャフリヤール、特殊なコースでアメリカ勢も侮れず

歴史的に欧州からの遠征馬が強く、近年はその傾向に拍車が掛かるBCターフだが、今年は10ハロン路線で最強のモスターダフ、英ダービーでワンツーのオーギュストロダンとキングオブスティール、凱旋門賞で3着のオネストなど例年以上に強力な印象。日本から初制覇を狙うシャフリヤールを含めた5頭が拮抗した関係と見る。

主催者想定の1番人気に推されているモスターダフは10ハロンがベスト。本来なら10月21日の英チャンピオンSが目標だったが、道悪を嫌ってBCターフへのスライド参戦を決めた。12ハロンでは5戦してG3の1勝のみという戦績だが、距離に道悪ほどの不安はないということだろう。3月のドバイシーマクラシックではイクイノックスを負かしにいくレースをした上でシャフリヤールに1馬身先着しており、同じように平坦でスピード優先のトラックなら、相応のパフォーマンスを期待できるはずだ。

シャフリヤールにとっては、このモスターダフを逆転することが当面の目標となる。ドバイでは先着されたが、こちらはゲートで後手を踏み不本意なレースを強いられたもの。通算5戦の12ハロン複勝圏からはずれたのもその1戦しかない。サンタアニタパーク競馬場の芝コースは全米屈指の高速トラックで、スピード勝負は望むところ。前走後に受けた喉頭エントラップメントの手術も効果が出ているようで、実力を発揮できれば十分にチャンスはある。

オーギュストロダンはシャフリヤールと同じディープインパクト産駒で、日英のダービー馬対決、そしてワンツー決着という大きな夢の一方を担っている。道悪の英2000ギニーや発表以上に馬場が重くなったキングジョージ6世&クイーンエリザベスSでは思わぬ大敗を喫したが、前走では10ハロンアイリッシュチャンピオンSを快勝。そうした面もスピードが身上のディープインパクト産駒らしい。

また、オーギュストロダンが空輸で結果を出せていないことを考慮し、A.オブライエン調教師は例年の当週火曜日から3日早めて土曜日(10月28日)にアイルランドを出発。現地入り後は順調に調整が進んでいるという。ともに参戦のボリショイバレエは前走を含めてアメリカの芝G1を2勝、ブルームも2年前のBCターフで2着の実績があり、3頭出しで隙のない態勢を整えてきた。

今年の英愛ダービー馬オーギュストロダン 

英ダービーでオーギュストロダンに屈したキングオブスティールは、英チャンピオンSから中1週の強行軍を克服できるか。L.デットーリ騎手への鞍上強化でG1初制覇を果たした前走からの流れは良く、状態次第で連勝も十分にあり得る。また、凱旋門賞で低評価に反発する快走を披露したオネストも、昨年はパリ大賞勝ちや愛チャンピオンSでの2着がある実力馬。復調なったなら再び侮れない存在となる。

遠征馬に押されている地元のアメリカ勢だが、今年の強力メンバーに対して白旗を揚げるのは早い。2012年から2022年までの11回で3勝しかしていないものの、いずれもサンタアニタパーク競馬場での開催という共通点がある。必然か偶然かは分からないが、スタートから坂を下り、ダートコースを横切る特殊な条件が影響している可能性はないか。馬だけでなく、騎手の経験値も見過ごせない。

アメリカ勢で上位を狙えるとすれば、芝に転向して底を見せていないアップトゥザマークと昨年のBCターフで3着のウォーライクゴッデス。アップトゥザマークは今回が初の12ハロンだが、これまで最長の10ハロン(G1マンハッタンS)が横綱相撲の危なげない勝ちっぷりで、脚が溜まれば末脚の威力が一段と増すことも。昨年に続き紅一点のウォーライクゴッデスは距離にこだわっての選択。牝馬限定のBCフィリー&メアターフ(10ハロン)より厳しい相手関係を選んだことに根拠がある。

その他のアメリカ勢は実績的にひと息で、小回りコースの紛れに恵まれるなどしない限り上位争いまでは難しいかもしれない。

主催者想定で1番人気に推されたソングライン 

ブリーダーズカップマイル】ソングラインとウインカーネリアン、前後二段構えで勝機うかがう

枠順抽選後に発表された主催者想定でソングラインが1番人気に推され、日本からの初制覇の期待も大きいBCマイル。しかし、兄妹制覇を狙うモージと夏から好調を維持しているマスターオブザシーズのゴドルフィン勢をはじめ、展開ひとつで結果も大きく変わりそうな多彩なメンバーが集まっている。馬券発売される4レースの中では最も難解と思われる。

10番枠のソングラインにとっては小回り1周のコースでポジショニングが難しいところ。小回りを意識して中途半端に脚を使い、位置を取れないまま最初のターンで外へ張り出されるロスは避けたい。しかし、すんなり先手というタイプではなく、あまり後方になっても終盤の攻防で後れを取りかねない。先行する有力馬をいつでも捕まえにいける位置が欲しい。

その目標となるのがモージだろう。先行力があり6番枠も上々。ソングラインは背後に潜り込んでマークする形を作れるか。4番枠に恵まれたウインカーネリアンはモージのさらに前、あるいは逃げられる可能性もある。モージが後ろを意識してじっくり乗ればウインカーネリアンに、小回りで早めの仕掛けになればソングラインにチャンスと、日本勢の二段構えになると理想的だ。

マスターオブザシーズはソングライン、モージとともに3強と見られているが、気性に難しさがあるため大外の14番枠が課題。積極的に位置を取りにいくと掛かり、前に壁を作ろうとすると後方に追いやられと、どちらを選ぶにもリスクが生じる。中団で馬群の外を走り続けたドバイターフでは、ゴール200m手前の1600m地点を待たずに失速した。

大外の14番枠が課題となるマスターオブザシーズ 

ソングラインとの比較ではカサクリードも争覇圏と見ておくべき1頭。昨年の1351ターフスプリントではソングラインの背後からクビ差に食い下がった。今年の4戦は全て3着以内、前走でG1勝ちと7歳ながら最も充実したシーズンを送っている。

また、シャールズスパイトも日本馬との比較が可能で、ドバイターフでダノンベルーガに2馬身少々の4着、セリフォスにはクビ差先着という力関係。昨年のBCマイルでは2番枠から中団の内ラチ沿いで息を潜め、直線では外に持ち出されて2着に食い込んだ。1番枠の今年も同じような組み立てをできる。

この2頭に挟まれて2番枠のジーナロマンティカは、芝馬の養成にかけてはアメリカきってのC.ブラウン調教師が管理。前走のファーストレディSでは同馬主の僚友インイタリアン(BCフィリー&メアターフに出走)を差し切って2度目のG1制覇とした。牡馬相手の重賞勝ちがなく、今回は挑戦者の立場だが、牝馬の活躍も目立つレースだけに一発あって不思議はない。

同じことはフランスから遠征のケリナにも言える。前走は好天に恵まれた凱旋門賞と同日のフォレ賞でG1初制覇。1/2馬身差の2着に下したキンロスには昨年のBCマイルでシャールズスパイトに次ぐ3着という実績がある。さらに1年前、日本からヴァンドギャルドが初参戦した2021年のBCマイル勝馬スペースブルースはフォレ賞から連勝を決めた。

残りの北米勢ではエグゾルテッドが5月にシューメイカーマイルS勝ち、デュジュールも3月にフランクE.キルローマイルで2着と、今回と同舞台のG1で連対。前走のG2デルマーマイルSではワンツーと地の利がある。マスターオブフォックスハウンズやアストロノマー、モアザンルックス、初めてカナダを出るラッキースコアらは、これまで戦ってきた相手より数段上がるレベルに対応できるか。

海外G1勝ちの実績があるウインマリリン 

ブリーダーズカップフィリー&メアターフ】日本勢2勝目狙うウインマリリン、強敵はインスパイラルとウォームハート

BCフィリー&メアターフは2021年にラヴズオンリーユーが日本調教馬として初のBC制覇を成し遂げた記念すべきレース。すでに結果を出しているだけに、日本の馬が通用するか否かを問うレースではないだろう。香港ヴァーズで海外G1勝ちの実績もあるウインマリリンには当然、勝ち負けの期待がかかる。

スピード優先のサンタアニタパーク競馬場ならウインマリリンの先行力が生きそうだ。昨年は外枠から積極果敢に逃げて2着に粘り込んだインイタリアンが今年は1番枠に入り、ゲートに失敗さえしなければ再び逃げるはず。5番枠のウインマリリンはつかず離れずの位置から追走し、捕まえるタイミングを計るレースとなるだろう。

ただ、インイタリアンの逃げ脚もなかなか強力。昨年の9.5ハロンから100ヤード延び、今回は初の10ハロン戦になるが、この時期には気温の低いケンタッキー州キーンランド競馬場から、太陽が降り注ぐカリフォルニア州サンタアニタパークに舞台が変わり、馬場が軽くなる分だけスタミナはもちそう。楽をさせると後続が捕らえ切れない可能性もある。

L.デットーリ騎手が騎乗する英国のインスパイラル、R.ムーア騎手が手綱を取るアイルランドのウォームハートも手強い実力馬。前者はマイル路線から、後者は12ハロン路線から今回の10ハロンに臨むためポジショニングが判然としないが、昨年はムーア騎手のチューズデーがインイタリアンを差し切っており、ウォームハートが展開の鍵をにぎる存在となるか。ただ、インスパイラルが初の10ハロンを問題にしなければ、マイルG1でも一枚上の瞬発力で次元の違う勝ち方をしてしまうかもしれない。

マイルG1を5勝しているインスパイラル 

日本の競馬ファンにとってはルミエールロックも興味を引かれる1頭だろう。ディープインパクト産駒の英2000ギニー馬サクソンウォリアーを父に持ち、前走は凱旋門賞と同日のG1オペラ賞でフランス二冠牝馬ブルーローズセンから1馬身少々の3着に逃げ粘った。今回は道中でウインマリリンの近くにいる可能性が高い。サクソンウォリアー産駒はヴィクトリアロードが昨年のBCジュベナイルターフを勝っており、アメリカでも結果を出している。

年明けにドバイで重賞を連勝したゴドルフィンのウィズザムーンライトは、今回も対戦する北米勢に近走で完敗しており勝ち切るまでは難しいか。ステートオケージョンはオペラ賞でルミエールロックと差のない5着だが、直線の加速でやや後れを取った。さらにスピードを求められるアメリカの芝では前が崩れる展開などの助けがほしい。

北米勢は前述のインイタリアンが頭ひとつリードしている印象だが、南米出身で今回と同舞台の前哨戦を勝ってきたディディア、仏1000ギニー2着の実績があり、前走はBCマイル有力馬のモージにも迫ったリンディーの勢いも魅力。昨年のカナダ年度代表馬モイラ、これに今年は勝ち越しているフェヴローバーにも上位争いの力がある。

前走が道悪のG3勝ちで見落とされそうなマキューリックも侮れない。4走前のニューヨークSではディディアに先着されたが、勝ち馬が逃げ切る展開で最後方を追走した結果。次戦のグレンフォールズSはウォーライクゴッデス(BCターフに出走)が得意とする12ハロンで差し切っており、末脚が生きる展開になれば見せ場以上も。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第143号

天皇賞・秋】驚愕レコードもイクイノックスには“普通のペース” 「もっと強くなる」次走JCもルメール自信のV宣言

チーム・協会

驚愕の日本レコードタイムでイクイノックスが天皇賞・秋を連覇 

天皇皇后両陛下が観戦される「天覧競馬」となった2023年の天皇賞・秋(10月29日、東京競馬場2000m芝)は、単勝1.3倍の断然1番人気に支持されたクリストフ・ルメール騎手騎乗のイクイノックス(牡4=美浦・木村厩舎、父キタサンブラック)が優勝。ハイペースの中、先行3番手を悠々追走すると、最後の直線も楽々と突き抜けてシンボリクリスエス、アーモンドアイに続く史上3頭目天皇賞・秋連覇を達成した。良馬場の勝ちタイムは1分55秒2の日本レコードタイム

 イクイノックスは今回の勝利で通算9戦7勝(うち海外1戦1勝)、GIは5勝目。騎乗したルメール騎手は天皇賞・秋5勝目、同馬を管理する木村哲也調教師は昨年に続く同レース2勝目となった。

 なお、2馬身半差の2着には横山武史騎手騎乗の6番人気ジャスティンパレス(牡4=栗東・杉山晴厩舎)、さらに1馬身1/4差の3着には川田将雅騎手騎乗の3番人気プログノーシス(牡5=栗東・中内田厩舎)が入線。負傷の武豊騎手から戸崎圭太騎手に乗り替わった2番人気のドウデュース(牡4=栗東・友道厩舎)は7着に敗れた。

驚異の1分55秒2でも「オーバーペースではなかった」

超ハイペースでもイクイノックスにとっては「普通のペース」、最後の直線は楽々と突き抜けた 

この日、東京競馬場では2度、大きなどよめきが起きた。1度目は武豊騎手が第5レース後の脱鞍に際し騎乗馬に蹴られて負傷するというアクシデントのためにドウデュースが乗り替わりになったこと。そして2度目はそのおよそ2時間後、天皇賞・秋の走破時計が電光掲示板に点灯した瞬間だった。

1分55秒2――。

 速い、なんてものではない。競馬ファン、関係者ならば誰もが驚愕する数字であり、それはルメール騎手も同様だった。

「時計を見たときはビックリしました!」

 ただ、実際にレースを体感したジョッキーの驚きと、見ている側の驚きの“質”は若干異なっている。共同会見でルメール騎手は今回のイクイノックスの走りとレースのペースについての実感をこう明かした。

「イクイノックスは向こう正面で落ち着いてくれたし、ハミを落として自分のペースで走ることができました。普通のペースだと感じていて、イクイノックスはトビもスムーズでしたし全然力を使っていないから3番手でちょうど良いペース。だから、こんなに速いペースだと思っていなかったです」

 外枠からジャックドールが果敢に飛ばして前半1000mが57秒7。これだけでも相当に速い時計であるのに、当のイクイノックスにとっては“普通のペース”だというのだ。そして、これだけの速い流れの中を3番手で追走しながら、さらにスピードアップした後半1000m57秒5という激流の中を余裕たっぷりに差し切ったのだから、これはもう驚きを通り越して、もはや恐ろしさすら感じてしまう。そんな、傍から見れば神がかりのレースであっても鞍上の体感としては「全然オーバーペースではなかった」。だから、ルメール騎手の「驚いた」というのは単純に「時計が速くてビックリ!」ではなく、「こんなに速い時計が出ているとは思っていなかった」という意味での「驚き」だったのだ。

変幻自在、それこそがイクイノックスの強さ

世界ナンバーワンホースの実力を存分に披露、世界中の競馬ファンが驚いたに違いない 

3月のドバイシーマクラシックを制したその日から「イクイノックスは世界のスターホースになった」とルメール騎手。そして、このレースでマークしたレーティング129という数字は、無敗で凱旋門賞を制したフランスの3歳馬エースインパクトの128を上回り今季世界ナンバーワンだ。それだけにこの天皇賞・秋は日本だけでなく、海を越えて世界のホースマンや競馬ファンが注目していたに違いない。その中でイクイノックスは想像の上を軽く超えていくレースをやってみせた。

「彼は今日から“スーパースター”になりましたね」

 ちょうど1年前の天皇賞・秋から、これでGIは5連勝。そのレース内容を改めて振り返ると、ドバイシーマクラシックの逃げ、宝塚記念の追い込み、そしてこの天皇賞・秋で見せた教科書通りの好位抜け出しと、まさに変幻自在のスタイルであり“型”というものがない。しかし、これこそがイクイノックスのスタイルであり、強さなのだとルメール騎手は力を込める。

「レースはペースにもよりますし、スタート、競馬場のコース、相手メンバーにもよります。でも、イクイノックスは何でもできる。スタートが遅かったら、じゃあ後ろから行って最後に脚を伸ばそうと思うし、スタートが速かったら、OK、スタミナがあるから逃げても大丈夫と思う。本当に素晴らしい馬。ジョッキーにとっては楽、簡単です(笑)」

リバティアイランドと初対決へ「勝つ自信あります」

予定通りなら次走は1カ月後のジャパンカップ、3歳三冠牝馬リバティアイランドと初対決だ 

シルクレーシングの勝負服とルメール騎手で思い出す名馬と言えば、そう、GI・9勝のアーモンドアイ。日本競馬史上最強牝馬の呼び声も高い女傑との比較についてジョッキーは「どちらの馬もほとんど完ぺき。同じレースを走ったらどっちが強いか分からない(苦笑)」と語っており、この言葉だけでもイクイノックスの能力の高さがうかがい知れるものだが、GI連続勝利に関してはアーモンドアイと並ぶ5連勝を達成した。そして次走、予定しているジャパンカップ(11月26日、東京競馬場2400m芝)を勝てばその女傑を超えて、テイエムオペラオーロードカナロアに並ぶ史上1位タイのGI・6連勝となる。

「彼はもっと良くなるし、強くなるし、タフになる。今回は休み明けでしたけど、馬体はすごくパンプアップして、大人になっていました。ジャパンカップでもレコードタイムを出せるかどうか分からないけど、次も素晴らしい競馬ができると思います」

 そのジャパンカップには1つ年下の3歳三冠牝馬リバティアイランドも出走を表明しており、新たなライバルストーリーが刻まれることになりそうだ。

「もちろん、勝つ自信はあります」

 ルメール騎手はきっぱりと宣言したが、「リバティアイランドはすごく良い馬。三冠馬はリスペクトしないといけないし、よくマークして、集中しないといけない」と、楽に勝てる馬とは微塵も思っていない。ただ、今日、これだけのパフォーマンスを見せた上に「もっと強くなる」というイクイノックスを止められる馬などいるのだろうか――ジャパンカップではどのようなパフォーマンスと時計で世界中の競馬ファンを驚かせてくれるのか、1カ月後が今から楽しみではある一方、今のイクイノックスならばどれだけの走りを見せたとしても、もう驚けないのかもしれない。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第142号

激戦必至! 注目の天皇賞(秋)を制するのはどの馬か!?

チーム・協会

【by JRA-VAN

今週日曜日に行われる天皇賞(秋)は注目の大一番だ。連覇を狙うイクイノックス、昨年の日本ダービー馬ドウデュース、G1初制覇を狙うプログノーシスを中心に強豪馬が激突する。昨年の牝馬二冠馬・スターズオンアースが回避となったのは残念だが、激戦必至、好レースが期待できそうだ。天皇賞(秋)の過去傾向をJRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用して分析してみたい。

1番人気が抜群の好成績

■表1 【2000年以降の人気別成績】

2000年以降における人気別成績を調べたところ、1番人気が【12.5.2.4】で勝率52.2%、連対率73.9%、複勝率82.6%と抜群の好成績だった。2番人気も連対率と複勝率が高く、5番人気以内の成績が比較的良かった。6番人気以下は好走率がかなり下がり、15番人気以下の好走はなかった。

3~5歳が中心で6歳以上は苦戦

■表2 【2000年以降の年齢別成績】

年齢別成績を調べたところ、3歳と4歳の好走率がほぼ互角。それに比べて5歳は若干劣る程度だが、6歳と7歳以上は大きく成績が落ちている。6歳以上は明らかに不振で、3~5歳が中心となる一戦だ。

前走は安田記念日本ダービーが優秀

■表3 【2000年以降の前走レース別成績】

前走レース別成績(表3には3着以内のあったレースおよび出走機会が10以上あったレースのみ掲載)を調べたところ、最も勝ち星を挙げていたのは毎日王冠(6勝)だが、出走頭数もケタ違いに多かったため、好走率は平凡だった。出走機会が10以上あったレースの中では、安田記念が【2.2.1.6】で最も好成績だった。出走機会はわずか5だが、日本ダービーも【2.0.1.2】で優秀だった。前走宝塚記念複勝率が30.2%と高かった。また、前走札幌記念は単・複の回収率が良かった。

前走宝塚記念組は10着以下でなければチャンスあり

■表4 【前走宝塚記念組の前走着順別成績、2000年以降】

前走宝塚記念組の前走着順別成績を調べたところ、前走1着は【0.1.2.2】で複勝率は60.0%と高いが、未勝利だった。前走2着は【2.1.1.4】で最も優秀。前走5着【1.1.1.2】や前走6~9着【1.1.0.8】の巻き返しも警戒する必要がある。ただし、前走10着以下は好走例がなかった。

前走札幌記念対馬が有力

■表5 【前走札幌記念組の前走着順別成績、2000年以降】

前走札幌記念組の前走着順別成績を調べたところ、前走1着【2.1.2.5】と前走2着【1.1.0.3】だけが好走を果たしており、好走率もなかなか優秀だ。一方、前走3着以下は好走例が全くなかった。

【結論】

イクイノックスとプログノーシスに注目

昨年の本競走から国内外のG1・4連勝中のイクイノックスが、おそらく1番人気に支持されるだろう。2000年以降、シンボリクリスエス(02年・03年)とアーモンドアイ(19年・20年)の2頭が天皇賞(秋)連覇を果たしている。ウオッカ(08年1着・09年3着)ほどの強い馬でも果たせなかった例があるので決して油断はできないが、今年4歳で年齢的にも充実期を迎えているイクイノックスが中心であることは揺るがない。強敵になる可能性があった前走安田記念組と日本ダービー組の出走がないという点も、地味ながら追い風だ。

前走札幌記念を圧勝したプログノーシスも注目の一頭。前走同組からはヘヴンリーロマンス(05年)やトーセンジョーダン(11年)、モーリス(16年)が勝利を飾っており、昨年はパンサラッサが2着と好走した。プログノーシスにも勝利のチャンスはあるはず。

ドウデュース京都記念1着→ドバイターフ出走取消という異例のローテーション。しかし、実績は十分で普通に考えれば有力馬の一頭。21年朝日杯フューチュリティSでは、セリフォスとダノンスコーピオンを下しており、この2頭も後にマイルG1を勝った。22年日本ダービーではイクイノックスをクビ差下して勝っている。ハイレベルな東京芝2000mの戦いにも十分対応できるはずだ。

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競馬あれこれ 第141号

菊花賞】マックイーンの再来、遅れてきた大物ドゥレッツァが世代最強を証明!

チーム・協会

【クラシック最後の一冠・菊花賞ルメール騎手騎乗のドゥレッツァが5連勝で一気の頂点に立った

3歳クラシック三冠レース最後の一冠、第84回菊花賞が10月22日、京都競馬場3000m芝で行われ、クリストフ・ルメール騎手騎乗の4番人気ドゥレッツァ(牡3=美浦・尾関厩舎、父ドゥラメンテ)が優勝。大外17番枠スタートから1周目で先頭を切る積極騎乗を見せると、2周目3コーナー下りでいったん3番手に控えるも最後の直線で再び後続を突き放し、2着に3馬身半差をつける快勝で世代最強の座に就いた。良馬場の勝ちタイムは3分3秒1。

 今回の勝利でドゥレッツァはJRA通算6戦5勝、重賞は初勝利。騎乗したルメール騎手は2016年サトノダイヤモンド、18年フィエールマンに続き菊花賞3勝目。同馬を管理する尾関知人調教師はクラシックレース初勝利となった。

 なお、2着には2番人気に支持されたジョアン・モレイラ騎手騎乗の日本ダービー馬タスティエーラ(牡3=美浦・堀厩舎)、さらに1馬身半差の3着には1番人気の支持を受けた横山武史騎手騎乗の皐月賞馬ソールオリエンス(牡3=美浦・手塚厩舎)が入った。

想定外の猛ダッシュ「じゃあ、プランを変えて逃げよう」

【想定外の猛ダッシュ「じゃあ、プランを変えて逃げよう」

淀3000mの長丁場を乗り切るには何といっても前半の折り合い、スムーズさが大事。それだけに1周目の並び、特にドゥレッツァの位置取りに多くの人が驚いたに違いない。当事者である尾関調教師ですら想定外だったというのだ。

「ジョッキーとは前半を静かに行くか、アグレッシブに行くかで話はしていましたが、基本的にはお任せでした。僕としては静かなプランで行くのかなと思っていたのですが、蓋を開けてみたらアグレッシブなプランでしたからね(苦笑)」

 調教師の裏をもかく名手の独創性……には違いないのだが、実際のところはルメール騎手も“前半は静かに行こう”、つまり控える競馬で行こうと思っていたのだという。ところが、ドゥレッツァ自身が人間の思惑などどこ吹く風の猛ダッシュ。これで静かなプランを捨ててアグレッシブなプランで行かざるを得なくなった、というのが本当のところのようだ。ルメール騎手もトレーナー同様に時折、苦笑いを浮かべながら1周目を振り返った。

「フライングスタートですごい脚を使ったので(笑)、じゃあ、プランを変えて逃げようと判断しました」

 ジョッキーの想定とは真逆のダッシュでハナを切ったとなると、その後の折り合いが難しくなりそうなもの。とりわけドゥレッツァは逃げる競馬も初めてだけに、なおさら馬がパニックになったとしてもおかしくない。しかし、この初体験ということが功を奏した。

「ドゥレッツァはこれまで逃げたことがなかったので、ハナを取った時に馬がビックリして物見をしたんです。それで馬が冷静になってリラックスしてくれましたし、息も入った。その後はマイペースで走ってくれましたね」

 レース前のプランからはまったくかけ離れた位置取りとなったものの、引っかかることもなく手の内に入れてしまえばもうこちらのもの。なぜなら、ルメール騎手にはドゥレッツァの長距離適性に絶対的な自信を持っていたからだ。

「この馬は絶対にスタミナがあるから、冷静に走ってくれたら3000mは絶対に行けると思っていました」

「イン追走・3角下りは我慢」が淀の長距離攻略の鉄則

【逃げて、いったん控えて、最後は突き放す――まさに変幻自在の騎乗を見せたルメール騎手、天皇賞・春と合わせて淀の長距離GI連勝となった

そして、名手の真骨頂は2周目の向こう正面を過ぎてから。そのまま逃げに徹してハナにこだわるのではなく、後続がペースを上げたと見るや、これに付き合わずパクスオトマニカ、リビアングラスの2頭を先に行かせて自身は3番手のインにいったん控える選択をしたのだ。

「京都の3000mは長いです。大外を回したら3200mを走ることになってしまうから無理ですし、インを走りたい。そして、向こう正面の坂が大事。ここで我慢をしないといけない。だから3番手に控えました」

 まさに変幻自在とも言える騎乗だが、今春の天皇賞・春もジャスティンパレスで制しているルメール騎手の淀長距離レース攻略の鉄則――それが「イン追走・3角下りは我慢」。周囲の急激なペースアップにも惑わされずに、これをきっちり遂行した結果、ドゥレッツァのラストの豪快な伸び脚につながったというわけだ。

「4コーナーの動きも良かったですし、直線ではパワフルストライドを使ってくれました。ドゥレッツァが能力を見せてくれたと思います。逃げることはリスクがありましたけど、馬の状態は完璧でした。だから、リスクを取りました。みんなビックリしていましたけど(笑)、勝てて良かったですね」

ルメール太鼓判「トップホースになれる」

【12月の香港国際競走にも登録しているというドゥレッツァ、次走での古馬との対決に注目だ

未勝利から5連勝で一気に世代の頂点へと立ったドゥレッツァ。それだけではない、重賞初挑戦での菊花賞勝利はグレード制を導入した1984年以降、1986年メジロデュレン、1990年メジロマックイーンの兄弟以降、史上3頭目だという。兄デュレンはその翌年に有馬記念を制し、弟マックイーンは天皇賞・春連覇を果たすなど一時代を築くチャンピオンホースとなった。では、ドゥレッツァの将来性はどうだろうか?

「今日は強い3歳馬の中ですごく良い競馬ができました。2000m以上のレースなら絶対にGIレベルの結果を出せると思います。古馬は強いけど、彼はもっとタフになれると思いますし、長い距離でトップホースになれると思います」

 ルメール騎手がこう太鼓判を押す一方で、尾関調教師も「将来を楽しみに大事に使ってきた馬ですが、この時点でGIを勝ってくれて、思った以上の成長度です。今後、3000m級も選択肢になりますし、ここまでチャンピオンディスタンスで走ってきた馬でもありますから」とジョッキー同様、2000~3200mの幅広いレースをターゲットとして捉えている。香港国際競走にも登録しているとのことで、年内に走るとすればジャパンカップ有馬記念、香港のいずれかになりそうだ。

 23年ぶりとなった菊花賞でのダービー馬vs.皐月賞馬の対決だったが、結果は春二冠未出走どころか重賞すらも初挑戦だった馬の下剋上で幕。しかも、タスティエーラ、ソールオリエンスが揃って凡走した中での波乱ではなく、この2頭が能力を出し切った中での真っ向勝負で2、3着に負かしているのだからフロックなどはあり得ない。正真正銘、ドゥレッツァが実力で勝ち取った価値ある最後の一冠だ。まさに遅れてきた大物、牝馬三冠を達成したリバティアイランドと同じドゥラメンテ産駒からまた1頭、3歳世代の真打ちが菊の季節に現れた。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第140号

3年ぶりの京都開催の注目点は? 菊花賞分析

チーム・協会

2023/8/19 新潟 11R 日本海ステークス 1着 4番 ドゥレッツァ 

今週は京都競馬場でクラシック三冠の最終戦菊花賞が行われる。京都での開催はコントレイルが優勝した2020年以来、3年ぶりとなる。今回のデータde出~たでは、2013年以降近10年の菊花賞のレース傾向ならびに京都芝3000mにおける注目ポイントから今年の菊花賞で狙える馬を探っていきたい。なお、データ分析にはJRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。

好走馬の大多数は前走3着以内

■表1 【菊花賞近10年の前走着順別成績】

まず表1は前走着順別成績。好走馬の大多数が前走3着以内に入った馬だった。複勝率では前走2着が39.1%と最も高く、前走3着は28.6%と前走1着20.7%を上回っている。前走2着・3着の好走馬15頭中13頭は前走神戸新聞杯組かセントライト記念組だった。

出走数が多い前走1着馬は20年コントレイルら最多の4勝。この全4勝を前走G2組があげているが、前走2勝クラス組も2・3着に6頭入っている。その年の春2冠の上位レベルによっては、前走条件戦組でも好走できるのが菊花賞といえる。

前走2200m戦1着馬が好成績

■表2 【菊花賞近10年の前走距離別成績】

表2は前走距離別成績。好走馬のほとんどが前走2200m組もしくは2400m組。2400m組は好走馬13頭中12頭が神戸新聞杯組だった。2200m組は、前走1着馬が複勝率36.8%と高く複勝回収率でも100%を大きく超えている。出走数は前哨戦のセントライト記念組・神戸新聞杯組が多いが、前走2200mの2勝クラスでの1着馬は【0.1.3.4】で複勝率50%と非常に高い。

菊花賞と相性抜群のルメール騎手

■表3  【菊花賞近10年の騎手別成績(抜粋)】

表3は騎手別成績(抜粋)。ルメール騎手の連対率が57.1%、複勝率は71.4%と非常に高く、ともにトップ。前走から継続騎乗か乗り替わりかの比較でも、ほぼ成績が変わらない。菊花賞全体では継続騎乗の方が乗り替わりより連対率・複勝率で2倍近く高い率を示しているのだが、ルメール騎手は乗り替わりでも18年1着フィエールマン(7番人気)、20年2着アリストテレス(4番人気)で連対している。ルメール騎手は今春の天皇賞でもジャスティンパレスで勝利しており、京都の長距離戦では見逃せない。

他では騎乗数こそ少ないものの横山武史騎手が一昨年タイトルホルダーで優勝。近10年で川田騎手は3着1回、池添騎手はすべて4着以下に終わっている。なお、モレイラ騎手は一度18年にグロンディオーズ(6番人気)に騎乗して、13着に敗れている。

京都開催では上がりの速さが問われる

■表4  【京都開催の菊花賞における上がり順位別成績(2013~20年)】

表4は2013~20年の京都開催における菊花賞での上がり順位別成績。阪神開催だった近2年は一昨年タイトルホルダー、昨年アスクビクターモアと4コーナー先頭の馬が優勝し、スピードの持続力が問われるレースだった。

対して、京都では計8回のうち、上がり1位・2位の馬が7勝をあげており、連対率・複勝率ともに非常に高い。京都3000mは外回りコースで逃げ馬は【0.0.1.9】と苦しく、上がりの速さが問われる。折り合いがつき、速い上がりを繰り出す馬が狙いとなる。

【結論】

ルメール騎手予定のドゥレッツァが一番手

■表5 【今年の菊花賞の注目馬】

(表5は10/18時点、除外対象馬なし)

一番手に推したいのは今回ルメール騎手が騎乗予定のドゥレッツァ。未勝利から前走まで4連勝中で、前走新潟2200mの日本海Sは上がり最速の34秒4で勝利。2着とは半馬身で辛勝だったが、今回京都の外回りコースに替わるのは大きい。未勝利戦ではサトノグランツを差し切り、2走前の2勝クラスでは上がり32秒7と末脚は実績馬に勝るとも劣らない。ルメール騎手騎乗でアタマでも狙ってみたい。

二番手に安定度でソールオリエンス。前走セントライト記念は2着に敗れたが、休み明けながら終いの脚は鋭かった。順調に上積みが見込め、上位争いになるだろう。神戸新聞杯組では川田騎手騎乗予定の1着サトノグランツより、3着(連対率・複勝率が高い)ファントムシーフを穴候補として挙げておきたい。

 

 

 

競馬あれこれ 第139号

秋華賞】リバティアイランドは競馬の神様がくれた最上のプレゼント「絶対的な自信」で制した秋華賞とその先に見えた最強の道


チーム・協会

リバティアイランドが秋華賞を制し、史上7頭目牝馬三冠を達成した 

 3歳牝馬三冠レースの最終戦、第28回秋華賞が10月15日に京都競馬場2000m芝で行われ、単勝1.1倍の圧倒的1番人気に支持された川田将雅騎手騎乗の春の二冠馬リバティアイランド(牝3=栗東・中内田厩舎、父ドゥラメンテ)が優勝。好位5、6番手の外を追走から直線入り口で早くも先頭に立つと、あとは後続を突き放す堂々の横綱相撲で史上7頭目牝馬三冠を達成した。稍重馬場の勝ちタイムは2分1秒1。

 リバティアイランドは今回の勝利でJRA通算6戦5勝。GIは2022年阪神ジュベナイルフィリーズ、23年桜花賞オークスに続く4勝目。騎乗した川田騎手、同馬を管理する中内田充正調教師ともに秋華賞は初勝利となった。

「彼女らしく走ることを優先しよう」

口取り式では川田騎手が3本の指を掲げて“三冠”をアピール 

 まさに同世代に敵なし。この秋もまた圧倒的なパフォーマンスで三冠最後のタイトルを手にした。

「何よりも一番は感謝ですよね。これだけ頑張って三冠を勝ち切ってくれましたので、本当に素晴らしい仕事をしてくれました。それに対する感謝の思いです」

 ゴール後、川田騎手は最愛の相棒に対してまずは“感謝”の気持ちを馬上から伝えたという。「これまで自分が経験してきた全てをリバティアイランドに生かしたい」と臨んだ秋華賞。レースに関して中内田調教師からのオーダーはなく、ジョッキー自身も特にプランは立てていなかった。

「まずは競馬をどう作っていこうかということは意識せず、ゲートをしっかり出すこと。そして彼女らしく走ることを優先しようということで、ゲートもいつもより出てくれましたし、二の脚もつけながらポジションを取って、リズムの良い走りで1コーナーに入っていけたのではないかなと思います」

 桜花賞2着のコナコーストが積極的にハナを切る競馬ながら、ペース自体はそこまで上がらず前半1000mが61秒9。朝の雨の影響で稍重馬場だったとはいえ、GIとしては明らかなスロー。しかし、このペースの中である程度の位置を取りに行っても鞍上とリバティアイランドはバッチリと折り合い、3コーナー手前で外に出せるポジションを確保した時点でもはや勝負ありとも言えるような完ぺきな運びだった。

ファンもどよめく、直線入り口で早くも先頭に

直線入り口で早くも先頭、ゴールまでリバティアイランドの独り舞台となった 

 そして、ファンから大きなどよめきと歓声が起こったのはこの直後だ。誰にも邪魔されない“三冠ロード”を見つけるや、我慢させることなくすぐさま進出開始。4コーナーから直線入り口でもう先団を飲み込むという、これまでにない積極策で堂々の先頭に躍り出た。

「3コーナーから全体のペースが緩い中、とてもリズム良く走って来られましたので、彼女が気分良く走れるようにという思いで、4コーナーでは“もう行っていいよ”ということを伝えました」

 GOサインを受けたリバティアイランドが力強いステップを踏むと、アッという間に後続を置き去り。淀のターフを独り舞台にした若き女王の舞に、詰めかけた5万の観衆も最大級の賛辞を拍手と歓声に込めて送った。

「今日、僕は2レースから乗せていただいたのですが、その時点から競馬場の雰囲気がある意味、異様な空気感でしたし、秋華賞の時間を迎えるごとにお客さんのテンションもどんどん上がって、すばらしい空気感の中、彼女も素晴らしい走りをして、そしてお客さんに喜んでいただいたことをすごく感じることができました。こういうスターホースがいて、スターホースらしく走って、お客さんに喜んでいただくことが競馬の素晴らしさだと思いますので、その仕事をやり遂げてくれたリバティと、それを見守ってくれたファンの皆さんに感謝の思いです」

さらなる成長曲線「もっと良くなれる部分がある」

「もっと良くなれる部分がある」と川田騎手はリバティアイランドのさらなる成長の予感をつかみ取っている 

 これまで数々の名馬とともにビッグレースを制してきた川田騎手だが、「新馬の前から将来を想像するくらいの馬」と出会い、その通りの成績をデビューしてからも実際に挙げている――そんな経験はジョッキー生活20年で初めてのこと。「だからこそ、これだけの馬と歩んでいく時間の全てが大事」と、力を込めて語る。と言って、リバティアイランドと臨むレースをプレッシャーに感じることはない。それが川田騎手にとっても初体験となる三冠がかかるレースだとしても、だ。

「今回、いつも以上に重たい責任を感じながらではありましたが、絶対的な自信が彼女にはありますので、彼女らしく走れるようにという思いだけで自分が仕事をすれば問題ないと思っていました。なので……もうこれ以上は何も言葉が出てこないくらい(笑)、自分としてはいつも通りだったなと思います」

 今回の勝利とレース内容を経て、川田騎手のリバティアイランドに対する期待と想像はどこまで膨らむのだろうか。まだ3歳秋。成長のピークは今からであり、これから迎えるであろう最盛期の予感をジョッキー自身が確かな手応えとしてつかみ取っている。

「今回、馬体重がプラス10キロで、それほど大きくなったというわけではないですから、もっと良くなれる部分がある、もう一つ良くなるなという思いを今日の返し馬からも感じました。まだお嬢さんから“お姉さん”にはなれていないと思います(笑)」

次走は近日中に発表、ジャパンカップ参戦となるか

次走はどのレースになるのか、もしジャパンカップ参戦となれば空前の盛り上がりとなりそうだ 

 となると、気になるのは今後のプラン。イクイノックス、ドウデュースが出走を予定している11月26日のジャパンカップに駒を進めてほしい、というのは競馬ファンの皆さまの思いだろう。次走についてはジョッキー、調教師、オーナーサイドが協議した上で決め、近日中にも結論が出されるとのこと。その選択を今は心待ちにしたい。

 そして、自身38歳の誕生日でもあったこの日、川田騎手が「ジョッキー生活20年目に出会えたことは、本当に競馬の神様が与えてくれた最上のプレゼント」と、涙を浮かべてまで語ったリバティアイランドとこれから歩む道――

「彼女の進む道が決まった時に、また改めてしっかりと準備をして、皆さんに喜んでいただける競馬ができるように、そして彼女らしく走れるように、ともに頑張るのが僕の仕事。ファンの皆さんにはこれからもまた、彼女が次に向かう時に楽しんでいただければと思います」

 3歳ヒロインから競馬界最強・最上のヒロインへ、大きく広がったその道筋は川田騎手、そしてファンの目にも鮮明に見えたのではないか。

 

 

 

競馬あれこれ 第138号

偉業がかかるクラシック最終戦菊花賞はそれぞれの競馬観が試される

昨年の菊花賞阪神競馬場でこんな声を聞いた。

阪神菊花賞なんて、この先、いつ見られるか分からないよな」

ベテランと思しき熟練ファンはそう話すと、しみじみとゴール板の装飾を眺めた。京都芝3000mの味わいは菊花賞にふさわしいものだが、阪神のそれは貴重でもある。確かに今度、菊花賞阪神で行われるのはいつだろうか。

 

皐月賞馬とダービー馬が菊花賞で激突するのは23年ぶり

今年のクラシック最終戦菊花賞は3年ぶりに京都に戻る。舞台は定番であっても、出走メンバーは近年では珍しく、皐月賞馬とダービー馬がそろう。2000年エアシャカールアグネスフライトが激突して以来、23年間、二冠馬が三冠に王手をかける場合を除き、両馬の対決は実現していなかった。2000mで強い競馬をすれば、秋はマイルや天皇賞(秋)に進み、2400mでの勝利は凱旋門賞へつながる。これが21世紀のスタンダードになっていた。菊花賞が3000mだから避けられるというより、世代の頂点に一度立った以上は、次の舞台を目指すという上昇志向のあらわれのような気がする。いかに効率的に、馬を傷めることなく、タイトルを積み重ねるか。GⅠ馬の引退後に待っている種牡馬の世界はそれだけ厳しい。

 

皐月賞菊花賞の二冠は、00年エアシャカール、12年ゴールドシップのほかにも

キタノカチドキミホシンザンサクラスターオーセイウンスカイと前例は多くあり、ソールオリエンスはこれら名馬たちの背中を追う。

 

ダービーと菊花賞二冠なら50年ぶり

しかしタスティエーラが挑むダービーと菊花賞の二冠は厳しい。達成した牡馬は1973年タケホープしかいない(牝馬クリフジはオークス、ダービー、菊花賞の変則三冠)。それもタケホープ皐月賞未出走で、三冠を完走した上で、後半二冠を奪取した馬はいない。タスティエーラはまさに前人未踏の大記録をかける。さらにダービーから菊花賞直行というローテーションも少なく、ダービー馬がこの臨戦過程で挑戦したことはない。タスティエーラは誰も通ったことがない道を行く。

 

歴史を踏襲するソールオリエンスと未開の地を進むタスティエーラ。どちらに肩入れするか。我々の競馬観が試される。

 

1~4着タイム差なしのダービー

いや、菊花賞はソールオリエンスとタスティエーラの対決とは限らない。焦点はそこまで単純ではないのは、ダービーの結果を見ればわかる。1着タスティエーラと4着ベラジオオペラは同じ2.25.2。ダービーで1着から4着までが同タイムだったのはこれがはじめてだった。史上稀にみる大接戦はその力差がないに等しいことを語る。4着ベラジオオペラは出走できなかったが、3着ハーツコンチェルトも合わせ、上位3頭は横一線だ。

 

ダービーはハイペースだった皐月賞とは一転、パクスオトマニカが先導役を務め、後ろを離してはいるものの、遅めのペースで流れた。前半1000m通過1.00.4で、向こう正面では12秒台後半が3度出現した。隊列が決まってからは、各馬じっと我慢を要求され、そこで力をためられるか否かが問われた。

 

後半800m11.9-11.6-11.9-11.8と瞬発力より持続力が求められ、先に動いたのがハーツコンチェルト、好位でじっとしていたタスティエーラ、その背後にいたのがソールオリエンスだった。後ろにいて先に動かざるを得なかったハーツコンチェルトは神戸新聞杯で5着に敗れた。少し器用さに欠けるのはハーツクライ産駒らしく、先に動き、その力をきっちり引き出した。菊花賞は京都の下り坂を利用できる。ハーツクライ菊花賞の相性はあまりよくないが、坂の下りを利用できないタイプが多いようで、ハーツコンチェルトはそこがカギになりそうだ。

 

タスティエーラは好位につけられる機動力を強みに、遅めの流れを活かし切り、ダービー馬の称号をつかんだ。決して、長い直線を活かし、末脚を武器に勝ち切ったわけではなく、東京だから勝てたという感じではない。むしろ、これは菊花賞に向けてプラスに働くだろう。ソールオリエンスはタスティエーラの斜め後ろのインという理想的なポジションをとれたが、直線に入ってすぐタスティエーラに瞬時に離された。その動きや周囲の動きからすぐにトップスピードに入ることができなかったという見方はある。最後はじわじわとタスティエーラとの差を詰めてきており、距離が延びるのは面白い。ダービーで垣間見せた若干の反応の悪さはなくなっているのかどうか。タスティエーラを逆転するにはそこが必要だろう。

 

逆転を狙う馬たち

札幌記念2着トップナイフは三冠皆勤だけではなく、京都2歳SホープフルS弥生賞ディープインパクト記念と3戦連続2着と堅実さがあった。皐月賞とダービーは後ろから競馬を進め崩れたが、札幌記念2着はそれまでの先行策をみせ、再浮上を感じる。2000m戦であと一歩足りない競馬が目立つのは、いかにもステイヤーらしいとも思える。札幌記念はプログノーシスのまくりに屈したが、先行勢がみんな苦しくなるなか、4コーナー先頭からソーヴァリアント以下の差し馬勢は封じており、強さが際立つ。スタミナ勝負なら最後の一冠で輝きを放つ可能性もある。

 

京都新聞杯神戸新聞杯とGⅡ2勝のサトノグランツは新馬とダービー以外はすべて連対中と崩れていない。ここ3戦連続33秒台前半の決め脚が最大の武器。父は菊花賞サトノダイヤモンド。同じ京都の菊花賞で強みを活かせば、父と同じくラスト一冠に手が届く。

 

振り返れば皐月賞1番人気はファントムシーフだった。開幕当初の主役は共同通信杯V以降、皐月賞3着、ダービー8着とトーンダウンしたが、神戸新聞杯3着は反転のサイン。馬体重12キロ増は成長のあらわれであり、ハービンジャー産駒は3歳秋に充実する傾向がある。ここに新潟記念を勝ったノッキングポイント、夏に条件戦を勝ちあがったドゥレッツァ、リビアングラスもいて、クラシック最終戦は、牝馬三冠とは一転して、混戦。二冠馬誕生か、それとも三冠すべて別の馬で分けあうのか。興味は尽きない。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第137号

牝馬三冠最終戦秋華賞を占う

チーム・協会

2022/10/16 阪神 11R 秋華賞(G1) 1着 7番 スタニングローズ 

今週は牝馬三冠の最終関門・秋華賞が行われる。ここ2年は阪神競馬場で代替されたが、今年は3年ぶりに本来の京都競馬場に戻っての開催になる。昨年は牝馬三冠のかかったスターズオンアースが3着に敗れ、スタニングローズがG1初制覇を果たしたこのレース。今年は史上7頭目牝馬三冠馬誕生となるのかどうか、過去10年の傾向を中心にJRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用して分析したい。

馬連馬単なら人気馬同士

■表1 【3歳馬限定G1の人気別成績(過去10年)】

過去10年、1番人気は【3.1.1.5】、2番人気は【0.4.0.6】と悪くはないといった程度で、1、2番人気馬によるワンツー決着は11年前の2012年(ジェンティルドンナヴィルシーナ)までさかのぼる。しかし1~5番人気の合計では【10.9.5.26】と、JRA全G1で日本ダービーと並ぶ最多タイの19連対を誇っている(表1は3歳馬限定G1のみを掲載)。穴馬が連対する可能性はかなり低いレースだ。

近年は前走オークス組、紫苑S組が中心に

■表2 【主な前走レース、前走クラス別成績】

※紫苑Sは2015年までオープン特別、2016~22年はG3、本年はG2

秋華賞は前走でローズSに出走していた馬が多く活躍しており、特に2007~17年の11年間は2016年を除き毎年2頭ずつローズS組が馬券に絡んでいた。しかし近5年は様相が一変し、オークス以来の休養明けだった馬が【4.1.1.10】と4勝をマーク。ローズS組はここ5年連対がなく、オークス組と紫苑S組を重視したい。

オークス組は前走3着以内馬

■表3 【前走オークスからの3着以内好走馬(過去10年)】

前走オークスの好走馬6頭すべてに共通するのはオークス4番人気以内」「オークス3着以内」「秋華賞4番人気以内」の3点で、このすべてを満たした馬は【4.1.1.1】複勝率85.7%。2018年のラッキーライラックこそ馬券圏外(9着)に敗退したが、同年はこの3条件を満たしていたもう1頭のアーモンドアイが優勝している。また、桜花賞(2走前)か3走前のいずれかで勝利を挙げていたことも共通点だ。

馬券に絡めば連対まで届く紫苑S組

■表4 【前走紫苑Sからの3着以内好走馬(過去10年)】

2016、17年に連勝(ヴィブロス、ディアドラ)した紫苑S組はその後オークス組に押され気味だったが、昨年はオークス組のナミュールやスターズオンアースをおさえてスタニングローズが優勝した。そのスタニングローズがフラワーC1着、オークス2着の実績を持っていたように、近年の紫苑S組はその年前半の重賞で連対した実績を持つ馬ばかりが好走している。また、紫苑S組が馬券に絡めば3着ではなく連対まで届いている点にも注目したい。紫苑S自体での成績は5着までに入っていれば問題なさそうだ。

別路線組なら前走1着かG1連対実績馬

■表5 【その他の3着以内好走馬(過去5年)】

最後にオークス・紫苑S以外からの好走馬(過去5年)も見ておきたい。前述の通りローズS組はこのところ劣勢で3着3回のみ。ほかに前走2勝クラス組が2、3着に1回ずつ入っている。ローズS組なら同レース優勝馬かG1連対実績馬、2勝クラス組なら前走1番人気1着の重賞未経験馬だが、あくまでオークス組・紫苑S組に次ぐ候補にとどまることには注意したい。

【結論】

リバティアイランドの牝馬三冠達成か

近年は前走オークス組の活躍が目立つ秋華賞(表2)。牝馬三冠に挑むリバティアイランドは昨年の阪神JF、本年の桜花賞オークスとG1・3連勝中で、表3に挙げたオークス組の好走馬と比較しても実績面はもちろん上回る。史上7頭目牝馬三冠に輝く可能性は高そうだ。

オークス組ではもう1頭、同レース2着のハーパー(父ハーツクライ)も有力。3走前にクイーンCを制し、桜花賞4着を挟んでオークスでは2番人気2着。今回も上位人気必至で、こちらも表3の条件はクリアしてくるだろう。

紫苑S組(表4)は、優勝馬モリアーナの本年前半の最高成績がクイーンC3着だったのに対し、2着馬ヒップホップソウルはフラワーCでも2着に食い込んでいた。近年の紫苑S組は同年前半の重賞連対馬が好走しているため、表4からはヒップホップソウルが上位。加えて表1で触れた「5番人気以内」に入るかどうかも注目点だ。その他の組(表5)では、ローズS組なら優勝馬のマスクトディーヴァ。2勝クラス組(抽選対象)は「前走1番人気1着」と「重賞未経験」の双方を満たす馬が不在だ。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第136号

3年ぶりの京都開催となる京都大賞典を分析

チーム・協会

2022/10/10 阪神 11R 京都大賞典(G2) 1着 10番 ヴェラアズール 

今回取り上げるのは京都大賞典。1着馬には天皇賞・秋の優先出走権が与えられ、同距離のジャパンCにもつながる1戦だ。実際、昨年の勝ち馬ヴェラアズールは次走のジャパンCを制した。同馬の連覇もかかる今年は、3年ぶりの京都開催となる。この伝統のG2を、過去10年のデータから分析する。データの分析には、JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。

過去10年で5歳馬が5勝

■表1 【年齢別成績】

年齢別では5歳馬が過去10年で5勝をマーク。4歳馬は2着5回と詰めの甘さはあるが、連対率と複勝率では5歳馬を上回る。この4、5歳馬で計20回の1~3着を記録しており、中心勢力となっている。とはいえ、6歳馬や7歳馬の好走率も極端には落ちず、21年には8歳馬マカヒキが5年ぶりの勝利を挙げて話題となったように、高齢馬にも一定以上のチャンスはありそうだ。

前走G1出走馬がさすがの好成績

■表2 【前走クラス別成績】

前走クラス別では、前走G1が主力。好走数も最多で、6勝を含む1~3着18回を記録している。これが前走G2やG3になると、いずれも複勝率は10%台にダウン。オープン特別(リステッド競走を含む)も同様で、やや苦戦の傾向が見て取れる。その一方で前走3勝クラスが【1.1.1.3】と好調で、昨年1着のヴェラアズールも該当する。格の前走G1、勢いの前走3勝クラスが好成績という、なかなか興味深い傾向を示している。

前走G1で先行した馬が抜群

■表3 【前走G1出走馬の前走4角通過順別成績】

前走G1出走馬が中心となることが前項でわかった。そのなかでも、より有望な馬を探すために参考になりそうなデータが、前走G1における4角通過順だ。上表の通り、4角1~3番手が【3.1.3.3】と、前走のG1で前に行っていた馬の好走確率はかなり高い。また、4角7~9番手も【3.2.0.5】と好成績だが、今年の登録馬に該当する馬がいない。4角3~6番手も複勝率28.6%と悪い成績ではないが、10番手以降だった馬は連対例がなく、前走G1でもそこまで強調できない。

前走G1以外なら3着には入っておきたい

■表4 【前走G1以外のオープン出走馬の前走着順別成績】

前走G2・G3・オープン特別(リステッド競走を含む)は苦戦気味だが、合算して1~3着9回を記録しており、好走例自体は決して少なくない。そこで目安として確認しておきたいのが前走着順。このケースで前走1~3着なら合わせて【2.3.2.20】、勝率7.4%、複勝率25.9%とまずまずの成績を残している。また、19年に11番人気1着のドレッドノータスが前走5着なので、悪くとも掲示板には載っておきたい。さらに着順を落として前走6着以下だと、【0.1.0.36】と好走確率がかなり下がってしまう。

中山・阪神の芝重賞1着馬が好相性

■表5 【芝重賞1着実績の競馬場別成績・13~20年限定】

上表は、芝重賞1着実績の競馬場別成績。なお、この表では、阪神開催だった前2年は集計から除いていることにご注意いただきたい。まず、当たり前かもしれないが、京都芝重賞1着の実績を持つ馬はさすがの好成績を収めている。ただし、3年近い開催休止期間があったため、京都芝重賞の出走機会が限られていた現役馬も少なくない。そこで、別の競馬場に目を転じると、中山と阪神がなかなか優秀な好走率を残していることがわかる。直線平坦の京都とは違い、中山、阪神ともに直線急坂の競馬場だが、京都大賞典とは思った以上に実績がリンクするようだ。

【結論】

前走G1で先行したアイアンバローズに注目

京都大賞典で好成績の前走G1には4頭が該当する。そのなかでも好走確率が高い前走4角通過1~3番手に該当するのが、天皇賞・春で4角1番手だったアイアンバローズである。

前走G2・G3・オープン特別(リステッド競走を含む)の場合は、そこで3着以内に入っておきたい。該当するのは4頭で、そのなかでも好データが揃っているのが、登録15頭で唯一の5歳馬にして、好相性の阪神芝重賞1着実績を持つビッグリボン。そのほか4歳馬のブローザホーンインプレスもマークしておきたい。

前走3勝クラス出走馬も好走率が高く、昨年勝ったヴェラアズールと同様にジューンS1着から臨むサクセスシュートは軽視できない。

もちろん、そのヴェラアズールも注目の1頭。京都芝初出走だが、昨年のこのレースで阪神芝重賞1着実績を確保しており、適性はあまり心配しなくていいかもしれない。その意味では、出走予定馬で唯一京都芝重賞1着実績を持つディープボンドには格好の舞台と言えそうだ。