競馬あれこれ 第180号

ステイヤー頂上決戦! 天皇賞(春)分析

 
チーム・協会

【データ分析】

今週は京都競馬場の芝3200mを舞台に天皇賞(春)が行われる。近年は大阪杯のG1昇格や海外遠征の活発化に伴い、ステイヤー頂上決戦としての色合いが濃くなっている。今年も長距離の実績馬が数多く参戦してきたこの一戦を制するのはどの馬か。JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用して分析したい。

勝馬は4番人気以内

■表1 【人気別成績】

過去10年、1、2、4番人気がそれぞれ複勝率60.0%をマーク。2番人気が5勝を挙げるなど、勝馬10頭はすべて4番人気以内から出ている。3連単の配当をみると2014~16年は21~24万円台だったのに対し、2017年以降は7万円未満。その7年間にかぎると3着以内馬21頭中19頭は6番人気以内だった。

内めの枠が優勢

■表2 【枠番別成績(阪神開催除く)】

過去10年のうち京都開催時8回の枠番別成績では、1枠が勝率21.4%、4枠が複勝率37.5%の好成績を残している。複勝回収率では2~4枠が100%を超え、1枠も85%と上々。ほかに6枠が連対率18.8%などまずまずだが、全体としては内めの枠を引いた馬のほうが良さそうな傾向だ。

6歳以下が中心に

■表3 【年齢別、性別成績】

年齢別では5歳が5勝、4歳が4勝でどちらも勝率10%台。6歳は勝ち切れない感もあるが複勝率は17.5%で5歳(19.1%)に迫り、複勝回収率は4、5歳よりかなり高い。この6歳以下の馬が中心になる。7歳以上のベテラン馬は劣勢だ。また、牝馬ジャパンCなどG1で2着3回の実績があったカレンブーケドールによる3着1回のみと苦戦している。

前走阪神大賞典組、日経賞組の好走多数も……

■表4 【主な前走レース、前走人気、前走着順別成績】

3着以内に好走した30頭のうち、昨年3着のシルヴァーソニック(前走海外1着)を除く29頭は前走でJRAの重賞に出走していた。特に阪神大賞典日経賞組の好走が多いが、出走数も多いため好走確率は低い。これに次いで出走馬の多いダイヤモンドS組も複勝率11.1%にとどまり、好走確率重視なら上記3競走以外を狙いたい印象だ。

また前走で1番人気だった馬や、1着だった馬が複勝率40%以上と優秀だ。レースと組み合わせてみると、前走1番人気馬は阪神大賞典組【1.1.3.4】複勝率55.6%、日経賞組【1.1.2.5】同44.4%、ダイヤモンドS組【0.1.0.4】同20.0%。前走1着馬は阪神大賞典組【3.2.2.2】複勝率77.8%、日経賞組【1.1.1.7】同30.0%、ダイヤモンドS組【0.1.1.5】同28.6%。阪神大賞典勝馬への注目は欠かせない

京都開催時の好走馬は父サンデーサイレンス系ばかり

■表5 【種牡馬別成績(3着以内馬の父のみ)】

種牡馬別では、ディープインパクトを筆頭にサンデーサイレンス系が好走馬の大半を占めている。該当馬も多いためサンデー系全体では複勝率は24.6%止まりだが、前走重賞1着馬(海外含む)にかぎると【4.5.4.10】複勝率56.5%になる。

サンデー系以外の好走馬2頭は2022年1着のタイトルホルダーと同3着のテーオーロイヤル。2022年は阪神で代替されており、過去10年のうち京都開催だった8回は父サンデーサイレンス系の馬しか好走していない。なお、タイトルホルダーとテーオーロイヤルはどちらも父の父がキングカメハメハだった。

【結論】

極めて難解だがチャックネイトとテーオーロイヤルに注目

表1で触れたように過去10年の優勝馬はすべて4番人気以内、過去7年の好走馬21頭中19頭は6番人気以内から出ているが、上位人気に推されそうなドゥレッツァ、テーオーロイヤル、タスティエーラ、ブローザホーンは父が非サンデーサイレンス系(表5)。父サンデー系のサリエラは牝馬であることや、前走ダイヤモンドSで2着(同レース2着以下は【0.0.0.11】)という点が気にかかる。他の馬も一長一短のため、1つ2つの減点材料には目をつむり強調材料がある馬を拾いたい。

サンデーサイレンス系の馬からは、前走のアメリカJCCで重賞初制覇を飾ったチャックネイト(父ハーツクライ)に注目したい。アメリカJCC組は【1.0.0.1】で2019年にフィエールマンが優勝。表4にあったように、前走は阪神大賞典など主要ステップよりは他の重賞に出走していた馬のほうが好走確率は高い。3000m以上、G1ともに未経験という点はマイナス材料になるが、今年のメンバーであれば一発が期待できる。

サンデーサイレンス系では一昨年の3着馬・テーオーロイヤルが筆頭格。前走阪神大賞典勝馬は【3.2.2.2】複勝率77.8%と抜群だ(表4本文)。次いで金鯱賞1番人気(2着)で父の父キングカメハメハの4歳馬・ドゥレッツァあたりになるだろうか。今年は極めて難解なため、最終的には枠順(表2)も踏まえて検討したいところだ。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第179号

前走人気が明暗を分ける!? マイラーズCを分析する

 
JRA-VAN
チーム・協会

【データ分析】

クラシックの1冠目が終わり、今週末はG1シリーズの中休み。東西で大舞台に向けてのG2が開催される。そのうち今回は、京都で行われるマイラーズCを過去10年のデータから展望する。データの分析には、JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。

今走、前走ともに5番人気以内が優位

■表1 【今走および前走人気別成績】

人気別のデータをふたつチェックしたい。今走人気から見ていくと、1番人気は複勝率80%と非常に堅実。2~5番人気も堅調な数字を記録しており、上位人気が強い傾向が見て取れる。一方、10番人気以下は極端に好走率を落とすため、少なくとも9番人気までには収まりたい。また、前走人気(集計対象は中央のみ)の傾向も明確。前走1~5番人気はいずれもすべて複勝率30~40%台と安定しているのに対し、前走6番人気以下だった馬はかなり苦戦というデータが残っている。

芝1600m複勝率80%以上なら半数超が好走

■表2 【芝1600m実績別成績】

芝1600mの実績に関するデータをふたつ調べた。ひとつは複勝率別のデータで、こちらは芝1600mで2走以上を対象とした。表2の通り、芝1600mで「複勝率80%以上」を記録している馬は半数以上が好走し、これは有望だ。もうひとつは芝1600m重賞における最高着順別のデータで、「G1で1着」の実績を持つ馬はさすがの好成績。また、「G1で2、3着」と「G1以外で1着」を比較すると、前者のほうが好走しやすいことがわかる。言い換えると、G2やG3の1着実績より、G1の2、3着実績を持つ馬のほうが期待できるということになる。

前走G2出走馬の半数が連対

■表3 【前走クラス別成績】

続いて前走クラス別成績をチェック。前走G2が過去10年で6勝、2着2回の好成績で、連対率は50%に達する。出走最多は延べ57頭の前走G3。1~3着に入った馬も計11頭で最多だが、好走率の優位性は見られない。前走リステッド競走・オープン特別は合わせて延べ48頭が出走。出走例が多いこれらの組は、絞り込みが重要になる。前走3勝クラスの好走は22年1着のソウルラッシュが唯一で、条件戦3連勝の勢いをそのまま持ち込んだ。そのほか、前走G1と前走海外だった馬が合わせて3着3回を記録している。

前走G3出走馬はタイム差0秒4以内が目安

■表4 【前走G3出走馬に関するデータ】

前走G3出走馬は前走人気と前走タイム差をチェックしたい。レース全体では前走1~5番人気の好走率が高いことを確認済みだが、前走G3ではより厳しく前走1~3番人気をボーダーとしたい。また、前走タイム差は0秒4以内なら許容範囲で、前走G3で1着だった馬よりむしろ結果を残している

前走OP特別・リステッドならは中8週以上ほしい

■表5 【前走リステッド・OP特別出走馬に関するデータ】

前走リステッド競走・オープン特別出走馬に関しても前走1~3番人気に推されていることが基準となり、好走馬7頭中6頭が該当する。また、このケースで前走からの出走間隔が中7週以下だと複勝率5.7%と苦戦する一方、中8週以上なら連対率38.5%と激変する。なお、この組に該当するディープインパクト産駒は、前走人気や出走間隔を問わず【1.2.1.3】と警戒すべきだ。

【結論】

実績上位のセリフォスとソウルラッシュ

最大勢力は登録8頭の前走リステッド組(前走オープン特別は該当馬なし)。そこで1~3番人気に推され、なおかつ中8週以上の出走となるのがリューベックである。加えて、ディープインパクト産駒ノースザワールドも侮れない存在となる。

前走G3組は5頭いるが、そこで1~3番人気に推されていた馬が見当たらない。もうひとつの好走条件であるタイム差が0秒4以内だった馬には、エアロロノアエエヤンの2頭がいる。好成績の前走G2組にはソーヴァリアントが該当。過去に経験した芝1600m戦は昨年のマイルCS(12着)だけだが、相性のいいローテーションで新味を発揮できるか。

この通り、例年のマイラーズCで主力となる組の中に、好走条件がピタリと当てはまる馬は決して多くはない。となると、表2の項で述べた芝1600m実績が物を言う可能性もあるだろう。この条件のG1で1着があるセリフォス、同じくG1で2着があるソウルラッシュのほか、芝1600m(2走以上)で複勝率100%のニホンピロキーフの名前も挙げておきたい。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第178号

皐月賞】「育ててくれた康太のおかげ」ジャスティンミラノが捧ぐ涙の一冠

 

3歳牡馬クラシック第一冠・皐月賞戸崎圭太騎手が騎乗した2番人気ジャスティンミラノが優勝 

 3歳牡馬クラシック第一冠・第84回GI皐月賞が4月14日(日)、中山競馬場2000m芝で行われ、戸崎圭太騎手騎乗の2番人気ジャスティンミラノ(牡3=栗東・友道厩舎、父キズナ)が優勝。好位5番手追走から最後の直線で力強く末脚を伸ばし、3戦無敗でGIタイトルを手にした。良馬場の勝ちタイム1分57秒1は従来の記録を0秒8更新するコースレコード

 ジャスティンミラノは今回の勝利でJRA通算3戦3勝、重賞は今年2月の共同通信杯に続く2勝目。騎乗した戸崎圭太騎手は2018年エポカドーロ以来、同馬を管理する友道康夫調教師は2009年アンライバルド以来となる皐月賞2勝目となった。

 クビ差の2着にはジョアン・モレイラ騎手騎乗の7番人気コスモキュランダ(牡3=美浦・加藤士厩舎)、さらに半馬身差の3着には川田将雅騎手騎乗の3番人気ジャンタルマンタル(牡3=栗東・高野厩舎)が入線。76年ぶりの牝馬Vを目指した1番人気レガレイラ(牝3=美浦・木村厩舎)は6着に敗れた。

友道調教師が明かした藤岡康太騎手との最後の言葉

中山競馬場に設置された献花台、藤岡康太騎手は生前に友道厩舎の調教をサポートしていた 

 ゴールまで残り100m。先行押し切り態勢に入った2歳マイル王者ジャンタルマンタルを一完歩、また一完歩と、ジャスティンミラノが追い詰めていく。

「康太! 康太!」

 レースを見守った友道康夫調教師は馬の名前でもなく、騎乗している騎手の名前でもなく、自然と藤岡康太騎手の名前を何度も叫んでいた。

 落馬事故のため4月10日に急逝した藤岡康太騎手は生前、友道厩舎の調教をサポートしており、ダービー馬のマカヒキワグネリアンをはじめ数多くの所属馬の調教、追い切りに騎乗していた。「うちの馬にはほとんど調教で乗ってくれていましたし、ほとんどの勝利は彼のおかげだと思います」と友道調教師。皐月賞に向けたジャスティンミラノの大事な稽古である2週前、1週前の追い切りにも続けて騎乗。馬の仕上がり具合を確認した康太騎手は4月3日の1週前追い切り騎乗後、トレーナーにこう伝えたという。

「康太君はうちの馬の調教を手伝ってくれていて、ジャスティンミラノにも最後の最後まで乗ってくれました。1週前追い切りの感想が『1週前としては最高の追い切りができました』。これが彼と交わした最後の言葉でした。ジャスティンミラノの能力を去年の秋ぐらいから感じてくれていて、ここまで育ててくれたのは彼のおかげだと思っています」

 この勝利は彼のおかげ、本当にありがとう――レース後の共同会見の冒頭、友道調教師は涙をこらえきれずにジャスティンミラノを通じた藤岡康太騎手とのやり取りを明かした。

「最後のクビ差は康太が後押ししてくれた」

レース後、友道調教師(手前)とともに勝利を噛みしめた戸崎騎手は「最後の差は康太が後押ししてくれた」と涙を浮かべながら語った 

 康太が勝たせてくれた皐月賞。この思いは手綱を託された戸崎騎手も同じだった

藤岡康太騎手が2週前、1週前と追い切りに乗ってくれて、本当に事細かく馬の状態を教えてくれました。最後のクビ差というのは康太が後押ししてくれたんだと思います」

 3番手追走のジャンタルマンタルがいち早く抜け出した最後の直線、一時は2歳マイル王者が完全にセーフティリードに入ったかとも思われたが、坂を上り切った残り100mあたりからジャスティンミラノ、コスモキュランダが並走しながらグングン加速。そして、ゴール手前50mで前を行くジャンタルマンタルをグイっと差し切り、返す刀で外のコスモキュランダを抑え込んでのゴール。その瞬間、藤岡康太騎手が後押ししてくれた、そう思ったのは友道調教師はじめ厩舎スタッフ、戸崎騎手だけではなく、競馬ファンみなが同じ気持ちだったことだろう。

「康太も喜んでくれていると思います。康太には『ありがとう。お疲れさま』と伝えたい」

 戸崎騎手は目に涙を溜めながら、この特別な勝利を噛みしめた。

輸送にも動じず馬体重プラス10kgは成長の証し

ジャスティンミラノは初の小回り中山コースに戸惑うことなくリズムよく好位5番手を追走

 一方、昨年のソールオリエンスに続く3戦3勝の皐月賞史上最少キャリアでの戴冠となったジャスティンミラノのポテンシャルにも触れないわけにはいかない。昨年11月のデビュー戦(2000m芝)、今年2月の共同通信杯(1800m芝)はいずれも左回りの東京競馬場ワンターンコースだったのに対し、今回は初めての中山競馬場で右回りの1周コース。まるでタイプの違うコース形態であり、友道調教師もジャスティンミラノに関しては戦前「ダービー向き」と語っていた。まだキャリア2戦しか経験していない若駒にとって、初めて尽くしとなる今回の皐月賞は未知の部分が多く、力を発揮できなかったとしても責められるものではない。しかし、ジャスティンミラノはそれらの全てをクリアしてみせた。

 特に指揮官が驚いたのはレース前の馬体重。512kgという数字は前走から10kgも増えていた。

「今日、競馬場でジャスティンミラノを見たときは落ち着いていて、普段通りだと思いましたが、プラス10kgという馬体重を見て『え!?』と思いました。いつもは輸送すると少し減っていた馬が今回は全く減っていなくて、栗東にいるときと同じ体重でした。輸送も3回目で慣れてくれたのだと思いますし、装鞍所やパドックに入るときなどはまだちょっと力が入ってしまうところはあるのですが、それ以外では随分と成長しているなと感じましたね」

初の右回り、超ハイペースも克服しての満点内容

3、4コーナーで「手応えが怪しくなった」ものの直線では再びエンジン点火、ジャスティンミラノ(左)がクビ差で大きな勝利をものにした 

 レースも完ぺきに近い形で道中を運んでいる。外めの13番枠スタートだった分、「ストライドが大きい馬だから馬のリズムでスムーズな競馬をしよう。インにこだわりすぎず、いい位置で競馬をしよう」というのがレース前の陣営の作戦。好スタートを決めると、鞍上の指示に従いジャスティンミラノは無理なく5番手のポジションを確保した。戸崎騎手が道中を振り返る。

「ある程度良いスタートを切ってポジションを取りたいなと思っていたのですが、その通りに馬も応えてくれて、良いポジション、良いリズムで行けたと思っています」

 ただ、今年の皐月賞は前半のペースがとにかく速かった。2番ゲートから勢いよく飛び出した4番人気のメイショウタバルがグイグイと飛ばし、1000mの通過はなんと57秒5。これまでの2戦、ゆったりとしたペースしか経験していなかったジャスティンミラノにとってもこれはきつい流れとなった。その影響か、「ずっとリズム良く行けたのですが、3、4コーナーあたりから手応えが怪しくなった」と戸崎騎手。しかし、GIがこれまでのような楽なペースであるはずがない、そう想定していたジョッキーに焦りはなかったという。

「(手応えが怪しくなるのは)頭にはあったことなので慌てずに行きました。直線を迎えてからまた反応してくれましたし、そのあたりにもまた能力を感じたところです」

二冠へ手応え「皐月賞馬として狙っていきたい」

いざ春二冠へ、ジャスティンミラノの新たな戦いが始まる 

 キャリア3戦ながら、初めて体験する右回り、4つのコーナーを回るタイトな競馬、超ハイペースとあらゆる難関を突破して出した満点の答え。さらに、従来の記録を0秒8も上回る中山2000m芝のコースレコード更新のおまけつきという破格の内容での第一冠奪取だ。当然ながら5月26日に東京競馬場2400m芝で開催される競馬の祭典、日本ダービーでの二冠もハッキリと見えている。戸崎騎手が言葉に力を込めて意気込みを語った。

「狙える器だと思いますし、責任も感じています。僕自身、日本ダービーは2着が2回。皐月賞を勝てたことでまたチャンスのある馬に巡り合えたことに感謝しながら、本番に向けて日々を過ごしていきたい」

 そして、現役調教師としては最多の3勝を誇るダービートレーナーの友道調教師も4回目の栄光に大きな手応えを感じている。

皐月賞の前からダービーの方が競馬をしやすいと思っていました。ですので、改めて皐月賞馬として二冠を狙っていきたいと思います」

 志半ばで旅立った藤岡康太騎手に捧げる皐月賞V、1カ月後にはそれをさらに上回る報告を天に届けたい――。ジャスティンミラノと戸崎圭太騎手、そして友道厩舎の二冠に向けた新たなチャレンジが始まる。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第177号

桜花賞】「アパパネ、アーモンドアイと同等の手応え」ステレンボッシュが逆転の春一冠

3歳牝馬クラシックレースの第一冠・桜花賞はモレイラ騎手騎乗の2番人気ステレンボッシュが快勝! 

 3歳クラシックレースの開幕を告げる第84回GI桜花賞が4月7日(日)、阪神競馬場1600m芝を舞台に争われ、ジョアン・モレイラ騎手が騎乗した2番人気ステレンボッシュ(牝3=美浦・国枝厩舎、父エピファネイア)が優勝。中団追走から直線で鋭く脚を伸ばし、3歳牝馬三冠の第一冠目を手にした。良馬場の勝ちタイムは1分32秒2。

 ステレンボッシュは今回の勝利でJRA通算5戦3勝、重賞は初勝利。騎乗したモレイラ騎手は桜花賞初勝利、同馬を管理した国枝栄調教師は2010年アパパネ、18年アーモンドアイに続く同レース3勝目となった。

 なお、北村宏司騎手が騎乗した昨年の2歳女王で1番人気のアスコリピチェーノ(牝3=美浦・黒岩厩舎)は3/4馬身差の2着、さらにクビ差の3着には坂井瑠星騎手騎乗の7番人気ライトバック(牝3=栗東・庄野厩舎)が入った。

道中のポジション、リズムともに申し分なし

モレイラ騎手の巧みなエスコートが逆転劇を呼んだ 

 鮮やかな末脚で逆転の戴冠。昨年暮れの2歳女王戦・阪神ジュベナイルフィリーズでクビ差2着に惜敗したステレンボッシュが、今度は無敗の2歳女王アスコリピチェーノを真っ向勝負で負かし、3歳桜の女王の座に就いた。

阪神JFでは負けましたが、勝ち馬に迫る形での負け。立ち回り一つだと思っていましたし、スムーズに行けばと思っていました」

 国枝調教師が語った“逆転劇”のポイントの一つ、それが道中の運び。V請負人のモレイラ騎手はこれに100点満点で答えたと言っていい。ただ阪神JF同様、この日もスタートは決して速くはなく、道中はちょうど中団。レース前半のポジション取りについて、鞍上はこう振り返っている。

「スタートは速くありませんでしたが、すぐに決断しなければいけなかったのが押して前に行くか、それとも控えて前を壁にする形でインを通るか。そこで馬のリズム重視で行ったところ、最初のコーナーに入るころにはアスコリピチェーノも近くにいたので、馬のリズムもポジションも良い形だなと思いました」

瞬発力に加えて、ハイスピードを長く保てる脚

わずかな間隙を突き一気に先頭に立ったステレンボッシュ(12番)、そのまま2歳女王アスコリピチェーノ(9番)を寄せ付けず 

 中団の馬群の中、すぐ左前方に最大のターゲットである2歳女王を見る形で道中を追走。手応えも申し分なく、直線に向けばいつでも末脚を伸ばせる態勢にある。

「どのタイミングでスペースを見つけて外に出すことができるか。それが次のチャレンジでした」

 ルメール騎手が騎乗した阪神JFでは内枠が災いしたか外に出せるスペースがなく、前方も壁。やむなく内にハンドルを切り替えて猛追するもあと一歩だった。だが今回は、直線入り口で前を行くチェルヴィニアとアスコリピチェーノの間にわずかなスペースができたと見るや、一気に割って進路を確保。これで行く手を遮るものはもう何もない。視界が広がったビクトリーロードをステレンボッシュは真一文字に駆け上がった。

「直線に入ってすぐにスペースができてくれましたし、非常に反応が良くて素晴らしい脚を使ってくれました。先頭に立つのが早かったのですが、最後までよく頑張ってくれました。すごく能力が高い馬です」

 一瞬の間隙を逃さないモレイラ騎手の手綱さばきもさすがなら、その誘導に応える形でアッという間にスペースに突っ込み、かつ他馬を置き去りにしたステレンボッシュの脚もお見事。まさに人馬一体、矢のごとく伸びられてはさすがの2歳女王でも追いつくことはできなかった。この最大の武器であるステレンボッシュの末脚に関して、モレイラ騎手は次のように高く評価している。

「この馬には2つの長所があって、1つは瞬発力。それですぐに先頭に立つことになってしまったのですが、2つ目の長所はそのハイスピードを長く保てること。瞬発力があり、長いスパンで速い脚を使えることがこの馬の非常に強い特徴だと感じています」

春二冠へ国枝調教師も自信、血統も後押し

自身3頭目の三冠牝馬輩出へ国枝調教師は「アパパネ、アーモンドアイと同等の手応え」と自信を語る 

 一瞬の切れ味だけでなく、脚を長く使えるとなれば距離が2400mに延びる二冠目のオークスでも期待は高まるというもの。ジョッキーは距離延長に太鼓判を押しており、何よりアパパネ、アーモンドアイと三冠牝馬を2頭も育てた伯楽・国枝調教師が自信を隠そうとしない。

「三冠の1つ目を勝てたことで次がある。その夢を見ていきたいですね。アパパネ、アーモンドアイの2頭と比べても、手応えは同等のものを感じていますから」

 また、春二冠への道は血統も後押ししている。3代母にはディープインパクトを産んだウインドインハーヘアがおり、母の父の母は1996年のオークスエアグルーヴ。現在の日本競馬を代表する2つの牝系がミックスされているうえに、父がジャパンカップを勝ったエピファネイア(その母は05年オークスシーザリオ)と来れば、むしろ東京2400mでこそと思わせる血筋だ。

 戦前は混戦を示すオッズの数字だったが、今回の完勝とも言える結果で2024年3歳牝馬春のクラシックロードに一つの答えは出たか。ステレンボッシュにとってこの桜花賞は単なる逆転の舞台ではなく、二冠、三冠へと続く序章なのかもしれない。

モレイラ騎手、来日初週から重賞連勝

来日いきなりから重賞連勝を飾ったモレイラ騎手、この短期免許期間中にどれだけ勝つのか注目だ 

 そして、モレイラ騎手は土曜の阪神牝馬ステークスに続きこの桜花賞と、来日初週から2日続けてテン乗りで仁川マイル重賞を連勝。その腕達者ぶりには唸るほかない。今回は自身初めてとなる春クラシックシーズンでの短期免許であり、「今日は桜がきれいでしたし、気温は人にも馬にもちょうどいい(笑)。日本のクラシックレースに乗るのは非常に楽しみで、プラスアルファの特別さも感じています。一つでも多く勝てるように一生懸命乗りますので、応援よろしくお願いします」と共同インタビューを締めくくった。

 いきなりからエンジン全開のマジックマンの参戦により、2024年春競馬は気温の上昇以上に熱くなっていきそうだ。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第176号

前走阪神JF組が優位!? 桜花賞分析

【Photo by JRA

今週は日曜に阪神競馬場牝馬三冠の一冠目となる桜花賞が行われる。昨年は前走阪神JF以来だったリバティアイランドが優勝、その後さらに牝馬三冠を達成する活躍を見せた。桜咲く季節の阪神芝1600mで頂点に立つのはどの馬か、2014年以降過去10年のデータから桜花賞のレース傾向ならびに今年馬券で狙える馬を探っていきたい。なお、データ分析にはJRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。

好走馬は前走1600m組が大半、中9~24週が好成績

■表1 【桜花賞の前走距離別成績(過去10年)】

表1は前走距離別成績。出走数が多い1600m組が9勝をあげ、3着以内馬の大半を占めている。他では1400mから17年レーヌミノルが勝利しているが、連対率・複勝率ともに低い。1400m組の好走馬3頭はいずれも前走フィリーズRで2着だった。前走1800m以上からは好走馬が出ておらず、前走1600mが中心といえる。

前走1600m組の前走からの間隔別成績では、中4~8週と中9~24週から好走馬が出ているが、中9~24週の方が勝率・連対率・複勝率いずれも上回っている。2~3月の前哨戦を使った組よりも、前走が1月もしくはそれ以前で長く間隔を空けた馬が好成績をあげている。

キャリア3戦、なかでも前走阪神組に注目

■表2 【桜花賞のキャリア別成績(過去10年)】

表2はキャリア別成績。3戦の馬が昨年のリバティアイランドら最多の4勝をあげ、連対率30.3%・複勝率36.4%はトップ。これら3戦の馬の前走競馬場別成績では、前走阪神組が3勝・9連対しており、連対率は50.0%、複勝率は55.6%と非常に高い。昨年6番人気2着と好走したコナコースト(前走チューリップ賞2着)も該当しており、このパターンは注目しておきたい。

他では4・5戦の馬が2勝ずつ。3着以内馬はすべて2~6戦の馬だった。

前走阪神JF1着からの直行は連対率100%

■表3 【桜花賞の前走着順別成績(過去10年)】

表3は前走着順別成績。前走1着馬は18年アーモンドアイら最多の5勝をあげているものの、複勝率は17.5%。それに比べ、前走2着馬は複勝率21.4%、前走3着馬は同27.3%で前走1着馬を上回っている点はチェックしておきたい。

前走1着馬の前走レースを見ていくと、阪神JF組は21年ソダシ、昨年のリバティアイランドが勝利し、14年レッドリヴェール2着で連対率100%。これら阪神JF1着からの直行組は信頼度が高い。他ではチューリップ賞組がG3時は複勝率75.0%と高かったものの、G2に昇格した18年以降は2着1回のみ。クイーンC・フェアリーS勝ち馬はそれぞれ3着1回のみ。フィリーズR勝ち馬に至っては11頭すべて4着以下に敗れている。

前走G1からの継続騎乗馬が買い

■表4 【桜花賞の継続騎乗or乗り替わりの成績比較(過去10年)】

表4は前走から騎手が継続騎乗か乗り替わりかによる成績比較。継続騎乗の馬が20年デアリングタクトら7勝をあげており、勝率・連対率・複勝率ともに乗り替わりの馬を上回っている。継続騎乗の馬の前走クラス別成績では、前走G1組が昨年のリバティアイランドら3勝をあげ、連対率・複勝率とも62.5%と非常に高い。この組の連対馬5頭はいずれも前走G1で3着以内に入っていた。

前走G3組の3勝はいずれもG3時のチューリップ賞組、オープン特別組は20年デアリングタクト(前走エルフィンS)が勝利している。

【結論】

前走阪神JF1着から直行のアスコリピチェーノを信頼

■表5 【今年の桜花賞の注目馬】

(表5は4/3時点)

桜花賞の注目馬は表5のとおり。

阪神JFから直行となるアスコリピチェーノを素直に信頼したい。阪神JFの勝ち時計は過去10年で最速、レベルが高いレースだった。表3で示したように阪神JF勝ちからの直行は連対率100%と崩れていない。キャリア3戦で前走阪神も強調材料で、前走から継続で北村宏司騎手が騎乗予定。死角らしい死角は見当たらず、最も勝利に近い存在とみる。

相手筆頭は阪神JFアスコリピチェーノにクビ差まで迫ったステレンボッシュだが、今回はルメール騎手からの乗り替わりが不安材料。能力的には阪神JF上位2頭による再度のワンツーがあっておかしくない。

穴候補としては前走チューリップ賞組のセキトバイースハワイアンティアレの2頭を挙げておきたい。セキトバイースの前走は前半1000m57秒7のハイペースで逃げて2着。逃げ馬有利の馬場状態ならばチャンスだ。ハワイアンティアレはキャリア3戦で前走阪神組と表2で示した好走パターンに合っており、狙って面白い一頭だ。

 

 

 

 

 

競馬あれこれ 第175号

大阪杯】「最ッ高に嬉しい!」ベラジオオペラ4歳新エース襲名 ダービーの悔しさ晴らすGI初戴冠

 

春の中距離王決定戦・大阪杯横山和生騎手騎乗の4歳牡馬、ベラジオオペラ(左から2頭目・緑帽)がGI初制覇を飾った 

 春のJRA中距離王決定戦・第68回GI大阪杯が3月31日、阪神競馬場2000m芝で行われ、横山和生騎手騎乗の2番人気ベラジオオペラ(牡4=栗東・上村厩舎、父ロードカナロア)が優勝。道中2番手の積極策から直線で堂々抜け出し、初のGIタイトルを手にした。良馬場の勝ちタイムは1分58秒2。

 ベラジオオペラは今回の勝利でJRA通算8戦5勝、重賞は2023年スプリングステークスチャレンジカップに続き3勝目。騎乗した横山和騎手は大阪杯初勝利、同馬を管理する上村洋行調教師は開業6年目で嬉しいJRA・GI初勝利となった。

 なお、クビ差の2着には戸崎圭太騎手騎乗の3番人気ローシャムパーク(牡5=美浦・田中博厩舎)、さらにハナ差の3着には菅原明良騎手騎乗の11番人気ルージュエヴァイユ(牝5=美浦・黒岩厩舎)が入線。1番人気に支持された松山弘平騎手騎乗の昨年のダービー馬タスティエーラ(牡4=堀厩舎)は11着に敗れた。

タイム差なしで敗れたダービー「ずっと忘れられなかった」

「ずっとお世話になっている上村先生と厩舎スタッフに恩返しができた」と喜びを爆発させた横山和生騎手 

 激しい後続の追撃を振り切り、先頭で飛び込んだGI初勝利のゴール。

「最ッ高に嬉しいです!」

 そう喜びをかみしめた横山和騎手には、どうしてもベラジオオペラとともにGIレースを勝ちたい理由があった。それは「ずっと忘れられなかった」という昨年のダービーの借りを返すこと。後方待機から上がり最速の脚でインを突いたものの、タスティエーラにクビ+ハナ+ハナ差及ばず、数字の上ではタイム差なしの4着。日本競馬界最高の栄光をあと一歩のところで逃してしまった。だからこそ、あの日に先着されたタスティエーラ、ソールオリエンスを今度は打ち負かしてGIタイトルをつかめたことが何より嬉しい。心からの喜びは、冒頭の「最ッ高に」とタメを作って口から出た横山和騎手の言葉からも十分すぎるくらいに伝わってくる。

 レースは好スタートから2番手で先行する積極策。これはレース前から「今日の馬場傾向から考えて前に行きたいと思っていました」という鞍上の作戦であり、上村調教師も同じ考え。むしろトレーナーは「ハナを切っても構わないと、ジョッキーに話していた」という。それだけに流れに身を任せてというわけではなく、自ら押していく形で確保した2番手のポジション。ただ、前半から無理に行かせるとかえって引っ掛かってしまう馬もいるだろう。しかし、ベラジオオペラはそうならない――横山和騎手には相棒に対する絶対的な信頼があった。

「ベラジオオペラ自身がすごく操縦性のいい馬ですから、今回は思い切って先行策を取っていきました。本当に操縦性が良くて、スタートも上手で、折り合いもよくついて、しまいもしっかり頑張ってくれる。この子の良さをしっかりと生かせたレースだったと思います」

前半スローから決めたロングスパート

3コーナー過ぎからペースアップして直線早め先頭のベラジオオペラ(中)が最後までリードを守り切った 

 イメージ通りだったという道中2番手の追走。前半1000mが60秒2のスローペースだった分、向こう正面でローシャムパーク、ソールオリエンスが続けてポジションを上げてプレッシャーを掛けに来たが、ベラジオオペラと横山和騎手は慌てず騒がず、これを真っ向から受け止め、ペースアップという形で跳ね返してみせた。

「この馬の強みを活かしながらという競馬になりましたが、3、4コーナーからベラジオオペラには頑張ってもらうことになってしまった。しんどいだろうなと思いながらも、よく最後はしのいで結果を出してくれたので、本当に頼もしく思います」

 前半の緩やかな流れから一転、3コーナーからは横山和騎手が振り返った通り11秒台前半のラップが続く激流。その中でいち早く先頭に立ち、最後まで逆転を許さなかったベラジオオペラのスピード、スタミナ、根性は文句なしに素晴らしいのひと言。世代間の実力、あえて言うなら4歳馬の実力に世間からは疑問の目が向けられていた中で大阪杯を勝ち切った価値はベラジオオペラ自身にとっても大きなものとなるだろう。

上村調教師「まだ強い馬がいる。負けないような馬づくりを」

上村調教師(中)にとってもトレーナーとして初のGIタイトル獲得となった 

 もちろん、今回のレースには同世代の三冠牝馬リバティアイランド、1つ年上のダービー馬ドウデュースら日本のエース格が軒並み不在の中で行われたものでもあった。それだけにこの大阪杯を勝ったことがそのまま日本の頂点に立つこととイコールの意味ではない。それはベラジオオペラ陣営も重々承知。上村調教師はレース後の共同会見で、次走は未定としながらも「まだまだ強い馬がいますから、それらに負けないような馬づくりをしていきたい」と、さらなる大仕事へ力を込めた。この言葉は当然、その「強い馬たち」と互角以上に戦えるという手応えがあってのものだ。

「まだまだ成長の余地が残されている馬なので、これからもっと良くなっていく馬だと思っています」

 横山和騎手も同様に、これからのベラジオオペラに対して「まだちょっと緩さが残っているというのが上村先生との共通認識。なのでここから先、またどのような成長を見せくれるのか本当に楽しみしかないです」と、最上級の期待をかけている。

 牡馬クラシックホース2頭がまたも物足りない結果で終わったが、代わって4歳世代の新たなエースが誕生した。真価が問われることになるだろうドバイ遠征組との対決で、ベラジオオペラはさらに成長した姿を見せてくれるに違いない。4歳牡馬の逆襲はここから始まるか。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第174号

春の中距離決戦・大阪杯を分析する

 

【Photo by JRA

阪神芝2000mで行われるG1競走・大阪杯。2016年までは春の天皇賞などへ向けたステップレースという位置づけのG2だったが、2017年より古馬・中距離におけるチャンピオン決定戦となり、これまでキタサンブラックなど7頭がそのタイトルを手にしている。今年はどの馬が栄冠を掴むのか。JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用して、G1昇格後過去7回の傾向を分析したい。

穴馬にもチャンスあり

■表1 【人気別成績】

過去10年、1、2番人気はともに連対率42.9%、そして4番人気が複勝率57.1%と上々の成績を残している。一方で3番人気は複勝率14.3%、そして5番人気は3着以内の好走なしに終わっており、その分、穴馬にもチャンスがあるレースとなっている。2019年には皐月賞馬ながら9番人気まで評価を下げていたアルアインが優勝するなど、2000~2200mのG1好走実績馬が中位人気で馬券に絡んでくる例が多い印象だ。

キャリア13~15戦の5歳馬に注目

■表2 【年齢別成績】

3着以内の好走馬21頭中20頭は4、5歳馬。4歳の好走馬10頭はすべてキャリア10戦以内だったが、今年登録がある4歳馬はすべてこれに該当する。5歳はキャリア12戦以下【0.1.0.9】、16戦以上【0.1.1.14】とどちらも複勝率10%台前半にとどまるのに対し、13~15戦の馬は【5.1.1.5】複勝率58.3%の好成績。こちらは4歳勢と違って有力馬の選別に活用できそうなデータだ。

前走G2組の好走多数

■表3 【前走クラス別成績】

前走クラス別では、G2に出走していた馬が【4.5.5.55】と好走馬21頭中14頭を占める。このうちアメリカJCC組は【0.0.0.6】、日経新春杯組は【0.0.0.4】と間隔がやや開いていた馬は苦戦しており、金鯱賞中山記念京都記念あたりが中心だ。

前走国内G1組は好走した4頭すべて芝2000mのG1で既に馬券に絡んだ実績を持っていた。また海外G1組のジャックドールも加えた5頭は、本競走で2番人気以内に支持されていたことも共通点として挙げられる。そしてG3組は無傷の5連勝中だったレイパパレ(2021年1着)と、近5走で4勝を挙げていたアリーヴォ(2022年3着)の2頭。かなりの勢いがないかぎり勝負には絡めない。

G2組なら前走上位人気のG1連対実績馬

■表4 【前走金鯱賞中山記念京都記念からの好走馬】

表4は前走G2組の中心となる金鯱賞中山記念京都記念の好走馬13頭である。いずれも前走では5番人気以内に支持されており、この3競走で5番人気以内だった馬の合計は【4.5.4.25】複勝率34.2%になる。前走着順は1~5着が複勝率26.3%、6~9着が同22.2%、10着以下が同10.0%と、ひと桁着順であれば問題ない。また、この組の好走馬13頭中10頭はG1連対実績馬だった。

前走「先行」が有力

■表5 【前走脚質別成績(前走国内のみ)】

※脚質はTARGET frontier JVによる分類

最後に、前走海外組を除いた前走脚質別の成績もみておきたい(脚質はTARGET frontier JVによる分類)。表にある通り、前走で「先行」していた馬が5勝を挙げ、勝率15.6%・複勝率28.1%。そして前走「後方」は1勝止まりながら、連対率は「先行」(21.9%)を上回る25.0%を記録している。前走「逃げ」は2019年キセキによる2着1回のみ。そして意外にも前走で「中団」だった馬からは連対馬が出ていない。

【結論】

5歳のジオグリフ、プラダリアに一発を期待

大阪杯では表2にあったように「5歳でキャリア13~15戦の馬」が優勝馬7頭中5頭該当と好成績を残しており、今年はキャリア14戦のジオグリフ、15戦のプラダリアに注目したい。どちらも前走では「先行」(表5)し、ジオグリフは中山記念4番人気3着、プラダリアは京都記念3番人気1着とG2組の「5番人気以内」(表4)に該当する。

また、ジオグリフは2022年の皐月賞馬で表4のG1連対実績の条件を満たし、加えてこのレースでは芝中距離のG1連対実績馬が中位人気で多く好走していることも強調材料になる(表1本文)。一方のプラダリアはG1では日本ダービー5着が最高だが、こちらは大阪杯で好走が多い父サンデーサイレンス系(7年で6勝)ディープインパクト、そして関西馬(同7勝)という点が評価できる。

4歳勢では、前走G1(有馬記念6着)で今回2番人気以内(表3本文)が予想されるタスティエーラ、そして前走中山記念で1番人気(4着)だったソールオリエンスと、昨年のクラシックを沸かせた2頭が有力候補になる。この2頭の比較では、前走「中団」で父ノーザンダンサーサトノクラウンのタスティエーラよりは、前走「後方」で父サンデーサイレンスキタサンブラックソールオリエンスを上位にとりたい。もう1頭加えるならG3組で3連勝中、前走・愛知杯がTARGET frontier JVによる分類では「先行」になるミッキーゴージャスの名前を挙げたい(表3本文、表5)。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第173号

多士済済がエントリーしてきた

G1・高松宮記念を展望する

 
チーム・協会

【Photo by JRA

春のG1シーズンは高松宮記念からスタートする。今年は4歳から8歳まで、香港からの参戦もあり、牡馬(セン馬を含む)13頭、牝馬10頭が登録、多彩な顔ぶれが揃った。そんな春のスプリント王決定戦を過去10年のデータから読み解いていく。データの分析には、JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。

「6~7歳」「牡馬」「関東馬」に激走傾向

■表1 【年齢別・牡牝別・所属別成績】

年齢別は4、5歳が各3勝、6、7歳が各2勝をマーク。そのうち4~6歳は複勝率がまったくの互角となっている。7歳も回収値が高く、8歳以上でなければ年齢はあまり気にしなくてよさそうだ。牡牝別は牡馬9勝、牝馬1勝と差があり、単勝馬単3連単を好む方には重要なファクターとなりうる。所属別は、関東馬複勝回収値が非常に高いことをチェックしておきたい。また、外国馬は2頭(いずれも香港馬)が参戦し、15年にエアロヴェロシティが勝利。香港の短距離路線はレベルが高く、軽視は禁物だろう。

過去10年で前走シルクロードS組が5勝

■表2 【前走レース別成績】

表2は前走レース別成績(※高松宮記念好走例のある前走レースを抜粋)で、前走シルクロードS組、阪急杯組、オーシャンS組が主力を形成。この3レースに関しては、別途データを後述する。ほかに1着馬を出した前走は香港スプリントとチェアマンズスプリントプライズで、いずれも香港の芝1200mG1である。国内戦では、前走京都牝馬Sおよび阪神Cで1着だった馬は【0.3.0.2】という成績で、該当馬がいれば注目。もうひとつ、前走フェブラリーSも2着馬が1頭おり、芝実績があればカバーはしておきたい。

シルクロードSの上がり1~5位馬は注目

■表3 【前走シルクロードS出走馬に関するデータ】

前走シルクロードS出走馬は「シルクロードSにおける着順と上がり3F順」が参考になる。着順は1~5着に入っておくことが重要で、本番を勝った5頭もすべて該当する。上がり3F順は、1~5位だった馬は勝率30.8%、複勝率46.2%とかなり優秀だが、6位以下だと勝率5.0%、複勝率10.0%にとどまる。ただし、着順が6着以下、上がり順が6位以下のどちらの場合も高い回収値を記録している点は見逃せないところで、激走馬が潜んでいる可能性は考慮しておきたい。

阪急杯で1~4番人気に収まるのは絶対条件

■表4 【前走阪急杯出走馬に関するデータ】

前走阪急杯出走馬は「阪急杯における人気と4角通過順」が参考になる。人気は、阪急杯で5番人気以下だった馬が高松宮記念で好走した例はなく、1~4番人気に収まっていることは絶対条件と言っても過言ではない。また、4角通過順も1~4番手だった馬が好走例の大半を占め、5番手以降とは数値も雲泥の差だ。ちなみに、20年高松宮記念で15番人気から1位入線(4着降着)のクリノガウディーも、前走阪急杯で3番人気、4角2番手と条件を満たしていたことを付記しておきたい。

オーシャンS1着馬はまさかの全滅

■表5 【前走オーシャンS出走馬に関するデータ】

前走オーシャンS出走馬は「オーシャンSにおける着順と上がり3F順」が参考になるが、取り扱いに注意したい。着順は、1着だと【0.0.0.9】と本番でまさかの好走なし。対して、2着は【1.2.1.5】の好成績を収めている。3着以下は複勝率7.0%にとどまるものの、複勝回収値257と激走傾向を示す。上がり3F順は、1位の【1.1.1.2】、6~9位の【0.1.3.12】、複勝回収値759は狙ってみる価値がある。しかし、2~5位は【0.0.0.24】、10位以下も【0.0.0.16】と好走例が皆無となっている。

【結論】

「今年は阪急杯組がデータ的に面白そう」

まずは3つの主要前走から、今回のデータ分析で有望と思われる登録馬を紹介していこう。前走シルクロードS組の2頭は、好走条件「1~5着」「上がり1~5位」の両方は満たせず。ルガルは3馬身差の快勝も、上がり順が6位で惜しくも届かなかった。前走阪急杯組の2頭は、好走条件「1~4番人気」「4角1~4番手」の両方をウインマーベル、アサカラキングがともにクリアした。前走オーシャンS組の5頭からは、「2着」のビッグシーザー、「上がり6~9位」に当てはまるマテンロウオリオン、キミワクイーンをピックアップしておきたい。なお、ここまで名前を挙げた馬のうち、キミワクイーンとアサカラキングは3月20日時点で除外対象となっている。

そのほか、京都牝馬S1着のソーダズリング、芝マイルG1勝ち馬で前走フェブラリーSというプロフィールが18年2着のレッツゴードンキと重なるシャンパンカラー、前走香港スプリントのマッドクールや香港馬ビクターザウィナーも軽視はできない。実績でいえば、登録馬で唯一の国内スプリントG1馬ママコチャ、重賞6勝のメイケイエール、同4勝のナムラクレアも上位になるが、今回のデータ分析からはこれといった強調材料が見当たらなかった。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第172号

上がり1位の馬が勝ちまくる阪神大賞典を分析する

 
チーム・協会

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今週は土曜日、日曜日にそれぞれ2つの重賞が行われる。今回は天皇賞(春)の前哨戦である阪神大賞典に注目した。過去10年のレース傾向をJRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用して分析する。

1番人気の成績が優秀

■表1 【阪神大賞典の人気別成績、過去10年】

過去10年(以下、同様)の阪神大賞典の人気別成績を調べたところ、1番人気【6.1.1.2】が勝率60.0%、連対率70.0%、複勝率80.0%と非常にいい成績を収めていた。2番人気や3番人気の複勝率も50.0%あり、上位人気馬がかなり強い一戦であることがうかがえる。最も頭数が多かった場合でも14頭立てと、例年出走頭数が少ないことも堅い決着になりやすい要因であると思われる。

7歳以上は好走例なし

■表2 【阪神大賞典の年齢別成績、過去10年】

次に年齢別成績を調べたところ、4歳【4.4.3.10】が連対率38.1%、複勝率52.4%と優秀。5歳【4.3.4.18】も好走馬の数は4歳と互角。6歳【2.3.3.21】も十分に好走馬が出ているが、7歳以上【0.0.0.33】は好走例がない。同じ芝3000m以上の重賞(G1以外)であるダイヤモンドSステイヤーズSは7歳以上の馬も活躍しているが、阪神大賞典においては不振だ。

前走JRAのG1組が強い

■表3 【阪神大賞典の前走クラス別成績、過去10年】

前走クラス別成績を調べたところ、JRAのG1【6.6.3.8】が勝率26.1%、連対率52.2%、複勝率65.2%と抜群で他のクラスを圧倒している。好走馬の内訳は有馬記念【5.6.2.6】とジャパンC【1.0.1.2】だけで占めている。現役トップクラスが集う芝2400m以上のG1で戦っていた馬にまずは注目すべきだ。

次に良い成績なのがJRAのG2【3.1.3.26】組。同G3【1.1.2.20】も悪くないが、3勝クラス【0.2.1.12】の方が連対率や複勝率は良い。

上がり3ハロン1位の馬が9勝

■表4 【阪神大賞典の決め手・上がり別成績、過去10年】

脚質(決め手)と上がり3ハロン別の成績を調べたところ、上がり3ハロン1位の成績が【9.2.1.0】と際立っていた。少頭数でスローペース必至の芝長距離戦ということで、逃げ・先行馬の粘り込みも気になる状況ではあるが、阪神大賞典はとにかく決め手を問われるレースであることがわかる。前走3勝クラスの松籟Sを勝ったばかりだったトーセンカンビーナ(20年)が5番人気ながら、メンバー中1位タイの上がりをマークして2着に食い込んだ例もある。

また、15年に7番人気で2着(上がり3ハロンは2位)に入った牝馬デニムアンドルビーの存在も印象的。芝3000m以上の経験は全くなかったが、地力の高さと鋭い決め手を発揮し好走してみせた。

【結論】

前走上がり1位で重賞を勝った2頭に注目

21年と22年の阪神大賞典を連覇しているディープボンドは近2走、ジャパンC10着、有馬記念15着と大敗が続いているが、メンバー中唯一の前走有馬記念組というアドバンテージがある。ただ、7歳馬である点がデータ的にはネック。23年の阪神大賞典は3番人気で5着と敗れている点も気になる。

落馬競走中止となった22年天皇賞(春)以外は芝長距離で安定した走りを見せているシルヴァーソニックは8歳馬であり、長期の休み明けでもある。

テーオーロイヤルも芝重賞実績では上位。特に近2走はメンバー中1位の上がり3ハロンをマークし、ステイヤーズS2着、ダイヤモンドS1着と結果を出している。6歳と年齢的な心配がない点も大きい。

あとは前走日経新春杯対馬のブローザホーンとサヴォーナも有力だろう。長距離適性や実力は拮抗しているはずだが、上がりの速さが問われる一戦なのでブローザホーンに分があるとみたい。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第171号

前走距離と前走馬体重がカギ! フィリーズR分析!

 
チーム・協会

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今週は土曜に中山でハンデ重賞の中山牝馬S、日曜に中京で金鯱賞阪神桜花賞トライアルのフィリーズRと3鞍の平地重賞が組まれている。今回はそのなかで日曜阪神メインのフィリーズRをピックアップ。2014年には3連単175万馬券が飛び出すなど波乱傾向が強い一戦を14年以降・過去10年のデータから分析し、今年馬券で狙える馬を探っていきたい。なお、データ分析にはJRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。

関西馬が圧倒、そのなかで2番人気馬が好成績

■表1 【フィリーズR出走の関西馬の人気別成績(過去10年)】

注:2019年は1着同着のため、1着馬11頭

表1は出走馬の所属別成績と関西馬における人気別成績。関東馬で好走したのは14年3着エスメラルディーナのみで苦戦傾向にある。関西馬が19年ノーワンとプールヴィルの1着同着を含めてすべて勝利しており、3着以内数でも圧倒している

これら関西馬の人気別成績では1番人気馬は15年クイーンズリングの1勝のみで、複勝率も44.4%と低め。一方、2番人気馬が昨年のシングザットソングら最多の4勝をあげており、複勝率は90.0%と非常に高い。8番人気馬は21年シゲルピンクルビーら3勝と勝ち星で2番人気馬に続いている。また、19年ノーワンが12番人気で勝利するなど、10番人気以下が5頭激走している。14年には2→13→7番人気の順で3連単175万馬券、昨年を含めて10年中5年で3連単10万円以上の配当となっており、波乱傾向が強い一戦だ。

前走1600mが好成績も、阪神JF組は1勝のみ

■表2 【フィリーズRの前走距離別成績(過去10年)】

エルフィンSはリステッド時を掲載

前走距離別成績では、前走1600m組が7勝をあげ、複勝率でも28.6%でトップ。昨年のシングザットソングら近5年続けて勝ち馬が出ている。前走1600m組のレース別成績は、現在のリステッドになってからのエルフィンSが20年エーポスら2勝で最多。出走数最多の前走阪神JF組は21年シゲルピンクルビーの1勝のみで、意外に勝ち切れていない

前走1400m組は19年プールヴィルら4勝。この組の3着以内馬8頭中7頭は前走で連対を果たしていた。前走1200m組は連対がなく、3着2回のみ。前走1800m以上は3着以内馬が出ていない。

前走馬体重460kg以上が7勝、なかでも前走1600m組

■表3 【フィリーズRの前走馬体重別成績(過去10年)】

表3は前走馬体重別成績。前走460kg以上の馬が過半数の7勝と勝ち切る傾向が強い。ただし前走500kg以上となると好走馬はおらず、前走460~499kgの複勝率が高い。前走460kg以上の馬の中で前走1600m組は一昨年のサブライムアンセムら5勝をあげており、連対率36.4%・複勝率45.5%と優秀だ。単勝回収率・複勝回収率ともに100%を大きく超えている。

勝ち馬11頭はすべて前走420kg以上で、420kg未満の馬からは連対馬が出ておらず、3着止まりとなっている。

前走上がり1位で3着以内だった馬が6勝

■表4 【フィリーズRの前走上がり順位別成績(過去10年)】

表4は前走上がり順位別成績。前走上がり1位だった馬が18年リバティハイツら過半数の6勝をあげている。この組の勝ち馬6頭はすべて前走で3着以内に入っていた

前走上がり2位だった馬は17年カラクレナイが勝利。前走上がり3~5位の馬からは勝ち馬が出ておらず、6位以下の馬が4勝をあげている。

【結論】

前走1600m組で460kg超だったジューンブレアに注目!

■表5 【今年のフィリーズRの注目馬】

(表5は3/6時点)

今回のフィリーズRで1番人気に推されるのは前走阪神JFで3着のコラソンビートだろう。阪神JFでは1・2着とは0秒2差、また4着馬を3馬身離していた。2走前には京王杯2歳Sを勝利して格上の存在だが、劣勢の関東馬に加えて、過去10年で1勝のみの1番人気、前走阪神JF組、前走馬体重438kgとレース傾向に合っていない。あくまで1着は別の馬で馬券作戦は考えてみたい。

1着候補としてまずはジューンブレアを推奨したい。前走1600mのデイリー杯2歳Sで7着、当時の馬体重は476kg。前走は2走前1200mの新馬戦1着からの距離延長で厳しかった。それでも勝ち馬とは0秒7差、3着とは0秒2差。牝馬限定となる今回は休み明けでもいきなり走っておかしくない。

上がり1位を重視するならバウンシーステップ。前走つわぶき賞は上がり1位で1着。2着に2馬身半差をつける快勝だった。時計の速い良馬場で追い比べになれば勝ち切る力は十分にある。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第170号

皐月賞へ向けた一戦・弥生賞を分析する

チーム・協会

【Photo by JRA

皐月賞へ向けたトライアル競走・報知杯弥生賞ディープインパクト記念(以下弥生賞)。そのディープインパクト(2005年)をはじめ多くの名馬が、このレースを足がかりとして3歳クラシックで活躍してきた。ただ、本競走出走馬による皐月賞制覇は2010年のヴィクトワールピサを最後に途絶えており、近年はアスクビクターモア(2022年菊花賞)やタスティエーラ(2023年日本ダービー)など、クラシック二冠目以降を制する馬が多く出ている。いずれにせよ、今後のG1へ向けて注目の欠かせないこの一戦。今年はどんな結果が待っているのか、JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用して過去の傾向を分析したい。

近年は人気サイド中心の傾向が鮮明に

■表1 【人気別成績】

過去10年、1番人気は連対率70.0%・複勝率80.0%と優秀で、2番人気も複勝率70.0%の好成績。3~4番人気も計【3.2.4.11】複勝率45.0%と上々の結果を残している。特に2020年以降は3着以内の好走馬12頭中11頭がこの4番人気以内と、近年は人気サイド中心の傾向に拍車がかかっている。

穴なら4着以下1回の馬

■表2 【5番人気以下からの3着以内好走馬(背景緑:重賞)】

5番人気以下の好走馬は過去10年で表2の6頭。このうち5頭はキャリアで1回のみ4着以下があり、その1回を重賞(前走または前々走)で記録していた。残る1頭・シュヴァルツリーゼは1戦1勝馬。もし穴馬を買うとすれば、いずれかのタイプを狙いたい。

キャリアは2~4戦

■表3 【キャリア別成績】

※除外も1戦にカウント

表3はキャリア別の成績。キャリア2~4戦の馬が計【9.7.8.45】。10年で9勝を挙げ、複勝率も34.8%と高い。対してキャリア1戦以下と5戦以上は合計で【1.3.2.35】同14.6%とかなりの差がついているため、2~4戦の馬が主軸になる。

前走G1出走馬が高複勝

■表4 【前走クラス別成績】

前走クラス別では、G1に出走していた馬が複勝率70.0%をマーク。今年は前走朝日杯FS出走馬(複勝率85.7%)が不在だが、G1昇格後のホープフルS組も【1.2.5.5】で複勝率は61.5%と高い。これらオープン・重賞組が合計【8.7.10.36】複勝率41.0%と好走馬の大半を占めている。ただ、オープン特別組の好走馬3頭はいずれも連対率100%で弥生賞を迎えていた。今年はこれに該当する馬がいないため、重賞組中心という考え方でいいだろう。表3のデータと合わせ、キャリア2~4戦の前走重賞出走馬は【5.5.7.19】複勝率47.2%を記録している。

前走が芝1800~2000m重賞なら5着以内

■表5 【前走芝1800~2000m重賞からの好走馬】

今年は、前走で朝日杯FSをはじめとした芝1600mの重賞に出走していた馬の登録はなかった。そのため表5では、前走で芝1800mまたは芝2000mの重賞に出走していた好走馬をまとめてみた。この16頭すべて前走では5着以内に入っていた。

このうち、前走で芝1800mの重賞に出走していた5頭中4頭は前走が重賞初出走で、前走が重賞3戦目だったダンビュライトは表2で挙げた5番人気以下のデータに該当していた。一方、前走芝2000m重賞組はこのところホープフルS出走馬しか好走していない。このホープフルS組は昨年のトップナイフを除き、2走前以前に4着以下がなかったことで共通している(芝2000m重賞組全体では11頭9頭が該当)。

なお表は割愛したが、前走1勝クラス組は好走馬4頭中3頭が1勝クラス以下では4着以下の経験がなく、もう1頭(2020年1着サトノフラッグ)は本競走と同じ芝2000m戦で2連勝中だった。

【結論】

前走ホープフルS2着のシンエンペラーが最有力

前走G1出走馬が高複勝率を記録している弥生賞。今年はシリウスコルトとシンエンペラーが登録しており、この2頭ではシンエンペラーが上位になる。新馬、京都2歳Sと2連勝を飾り、前走のホープフルSでは2着。キャリア2~4戦、前走5着以内、2走前以前に4着以下なしと各条件に問題なく(表3、表5)、今年のメンバーでは最有力候補だ。一方のシリウスコルトは前走6着、3走前5着と減点材料があり強くは推しづらい。

他のメンバーは一長一短。前走芝1800m重賞組のシュバルツクーゲルは4番人気以内(表2)の支持を得られるかどうか。1勝クラス組のトロヴァトーレとファビュラススターも4番人気以内が条件になり、加えて1勝クラス組のキャリア2戦馬は【0.1.0.3】(2000年以降で【0.1.0.9】)と、あまり良い結果が残っていない点も気にかかる。

ならば5番人気以下の穴候補として、ニシノフィアンスレッドテリオスに注目したい。ニシノフィアンスは新馬戦1着、京成杯5着で表2の「4着以下1回を前走または前々走の重賞で記録」と表5の「前走5着以内」を同時にクリア。レッドテリオスは表2本文で挙げたシュヴァルツリーゼと同じ1戦1勝馬だ。近年は穴馬の出番が減っているレースだが(表1)、今年はヒモ荒れの可能性もあるとみたい。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第169号

サウジCに日米から豪華メンバーが集結、ハイペース濃厚で底力を問われる激戦に

 
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昨年のドバイWCを制したウシュバテソーロ 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

昨年はパンサラッサの逃げ切りを筆頭に、上位5着のうち日本調教馬が4頭を占めるなど快挙に沸いたサウジC。今年も日本からウシュバテソーロにデルマソトガケ、そしてレモンポップの現役3強が遠征するほか、ダートの本場アメリカからBCクラシックの覇者ホワイトアバリオ、ペガサスWC勝ちのナショナルトレジャーらが参戦。ダートの国際舞台における2024年の開幕を告げると同時に、2023年の総決算にもなり得る豪華なメンバーが顔をそろえた。

日本勢は昨年より遠征頭数こそ1頭減るが、ダート実績という質においては遥かに強力。ドバイWCの覇者ウシュバテソーロ、これにBCクラシック2着で先着のデルマソトガケ、JRA賞最優秀ダートホースのレモンポップがひとまず3強を形成する。3頭の直接対決はBCクラシックのウシュバテソーロとデルマソトガケによる1戦のみで、レモンポップとは初対戦となるだけに、力関係を量るだけでも難しく興味は尽きない。

それぞれに優勝の期待が懸かる一方で、今回は克服すべき課題もある。ウシュバテソーロには1800mの距離がやや不足している。昨年のドバイWC(2000m)はハイペースを利した最後方からの追い込み。9月の日本テレビ盃は1800mで完勝したものの、今回は世界の超一流が相手になる。BCクラシック(2000m)では先行勢を射程圏に入れながら追走するも、なし崩しに脚を使わされて伸びを欠いた。

BCクラシックのデルマソトガケはウシュバテソーロに2馬身余りの先着。先行してウシュバテソーロを完封したように、距離短縮でさらにスピードが生きる。ただし、3歳から古馬になって当時の斤量差(約1.5kg)は無くなる。また、昨年のサウジダービーではゲートで行き脚がつかず、流れに乗り切れないまま3着に敗れており、キングアブドゥルアジーズ競馬場の独特なダートへの対応力が問われる。

レモンポップはチャンピオンズCを鮮やかに逃げ切ったが、田中博康調教師が1400mをベストと言うように、1800mの距離は本質的に長い。この辺りはウシュバテソーロと対照的だ。スピードはデルマソトガケよりもあると思われるが、アメリカ勢が加わる今回は国内と同様に主導権を握っていけるか。厳しいレース間隔だったとはいえ、昨年のドバイゴールデンシャヒーンで全く振るわなかった点も、再度の海外遠征に向けて不安要素となる。

クラウンプライドとメイショウハリオの実績に3強ほどのインパクトはないかもしれないが、一角崩しかそれ以上があっても何ら不思議はない。そもそも3強とは直接対決の機会が少なく、勝負づけを済まされている訳でもない。

クラウンプライドはチャンピオンズCで大敗したが、内ラチ沿いを運んだレモンポップとは対照的に馬群の外を走らされ続けた結果。昨年のサウジCでは5着、UAEダービー(2022年)とコリアC(2023年)勝ち、ケンタッキーダービーにも参戦し、外国勢を含めても随一の遠征経験は武器になる。メイショウハリオはフェブラリーSとチャンピオンズCでレモンポップ、東京大賞典(2022年)ではウシュバテソーロに敗れた。それぞれ4馬身ほどの差で分が悪いのは確かだが、フェブラリーSでは大出遅れを挽回しており、距離や相手関係の変化を受けて逆転の余地も残されている。

昨年のBCクラシック覇者ホワイトアバリオ(右) 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

日本勢の前に立ちはだかるのは第一にアメリカ勢だろう。ホワイトアバリオはBCクラシックでデルマソトガケとウシュバテソーロを負かしており、最大の壁となることは間違いない。当時から200mの距離短縮も歓迎の口。先行できるレモンポップやクラウンプライド、デルマソトガケらとの駆け引きは見ものだ。

ナショナルトレジャーも強力な先行力を備えている。1900mのプリークネスSを逃げ切り、BCダートマイルでは大外枠から逃げて追い込みのコディーズウィッシュ(米年度代表馬)とハナ差の接戦を演じた。前走のペガサスWCは2番手追走から4角先頭でセニョールバスカドールの追撃をクビ差封じるなど、スムーズに行けた時の粘り腰は相当だ。

その名もサウジクラウンはBCクラシックで2番手追走から10着に轟沈。差なく追走のホワイトアバリオとデルマソトガケに大きく水を開けられた。前走のG3ルイジアナSは1700mで圧勝しており、陣営はBCからの距離短縮に望みを抱いているが、再びの相手強化で力を発揮できるか。ホイストザゴールドはペガサスWCでハナを切るも、ナショナルトレジャーの追撃を受けて完敗した。これらを巻き込んで先行争いが激化すれば、セニョールバスカドールがナショナルトレジャーを逆転する目も。ウシュバテソーロやメイショウハリオも望むところだろう。

地元のサウジアラビア勢も侮れない。エンブレムロードが2022年に優勝し、昨年はゲートに失敗しながら6着(クラウンプライドから1馬身3/4差)まで挽回。2021年もグレイトスコットが3着で上位に絡んだ。

カーメルロード(キングファイサルC)とパワーインナンバーズ(二聖モスクの守護者杯)は、前哨戦2鞍からの参戦だが、双方で鞍上を務めたC.オスピーナ騎手(サウジアラビアでリーディング8回)は、キングファイサルCを制したカーメルロードを選択した。臨戦やクオリティロード産駒はエンブレムロードにも重なる。

もう1頭のディファンデッドはアメリカからの移籍馬で、2023年5月にハリウッドGC勝ち、同1月のペガサスWCと2022年のハリウッドGCでも2着と複数のG1入着歴がある。ただ、近年のハリウッドGCは低調で今年からG2に格下げ、ペガサスWCも勝ち馬に4馬身半差の完敗と実績ほどの内容を伴っているか疑問符がつく。昨年のゴドルフィンマイルでバスラットレオンとウインカーネリアンを突き放して逃げ切ったUAEのアイソレートとともに、この相手関係では試金石と見ておくべきか。

競馬あれこれ 第168号

実力馬が多数始動する

中山記念を分析する

 
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【Photo by JRA

今回の分析レースは中山記念。G1・大阪杯の前哨戦に位置づけられ、20年にラッキーライラックがここから本番を制した例がある。また、安田記念など春のマイル路線を視野に入れる馬の出走も少なくない。中距離とマイルの両方でG1につながる芝1800mのG2を、過去10年のデータから調べていきたい。データの分析には、JRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用した。

4歳の複勝率は5割に迫る

■表1 【年齢別成績】

過去10年で4歳と5歳が各4勝をマーク。特に4歳の複勝率は5割近く、かなりの確率で好走してくる。また、5歳も勝率と連対率で4歳と遜色のない数値を残している。一方、6歳と7歳も1勝ずつを挙げ、決してノーチャンスではないが、4歳および5歳が優位であることは間違いなさそうだ。

前走G1およびG3出走馬が主力

■表2 【前走クラス別成績】

続いて前走クラス別成績を確認しよう。前走国内G1が過去10年で6勝を挙げ、1~3着13回も最多。これに次ぐのが国内G3で、3勝、1~3着10回をマークしている。つまり、前走が国内G1もしくはG3だった馬が、好走の4分の3以上を占めていることになる。一方、重賞でも前走国内G2は、19走で3着1回だけと苦戦している。

前走海外も11走とまずまずの出走例があり、いずれも前走では前年末の香港国際競走を使っていた。気になるのは、前走香港カップが【0.0.0.4】と振るわないこと。前走が香港マイル香港ヴァーズであれば、合算して【1.1.1.4】となかなかの好成績だ。

前走G1で9番人気には入っておきたい

■表3 【前走国内G1出走馬に関するデータ】

前走国内G1出走馬に関するデータを、ふたつ見ておきたい。ひとつは「前走人気」。前走のG1で1、2番人気だった馬の好走率はさすがに高い。ただ、5番人気や6~9番人気の複勝率も大きな差はなく、前走のG1で9番人気以内なら十分だろう。もうひとつは「前走距離」。前走が芝1600~2200mのG1だといずれも複勝率40~50%台だが、芝2400~3000mのG1では複勝率10~20%台にとどまる。この前走G1の距離別の成績差も要確認だ。

前走G3は「前走3番人気以内・3着以内」が目安

■表4 【前走国内G3出走馬に関するデータ】

前走国内G3出走馬についても、ふたつのデータを見ておこう。「前走人気」は、前走のG3で1~3番人気なら合算して【3.4.1.5】と優秀。対して、4番人気以下は【0.1.1.16】と途端に好走しづらくなる。「前走着順」は、前走のG3で1~3着なら合算して【3.4.2.6】と抜群。以下、前走4~5着は過去10年に出走例がないのだが、前走6着以下は合わせて【0.1.0.15】と、これは苦戦を免れないようだ。

前走では4角を9番手以内で回っておきたい

■表5 【4角通過順に関するデータ】

4角通過順に関するデータも見ておきたい。明らかなのは「前走」の4角通過順が10番手以降だった馬が苦戦していること。いつも10番手以降からレースを進めるタイプの馬については、追って届かないケースも想定しておくべきだろう。なお、7~9番手だった馬は好成績を収めており、前走4角9番手以内であれば問題はなさそうだ。

「今走(=中山記念)」に関しても、4角10番手以降から好走した馬は皆無で、「前走」のデータと綺麗にリンクしている。一方、今走の4角を1~4番手で回ると好走率が非常に高く、特に3~4番手の8勝は目を引く。先行できそうな馬を上手に探し当てたい。

【結論】

ポイント「データ面で安心なのはエルトンバローズ」

前走国内G1出走馬6頭のうち、前走9番人気以内だったのはソールオリエンス、エルトンバローズ、レッドモンレーヴ、ソーヴァリアントの4頭。このなかで、データ面でもっとも安心できるのは、前走芝1600mのマイルCSで4番人気、4角8番手だった4歳馬のエルトンバローズである。同じく4歳の皐月賞馬ソールオリエンスは、前走が芝2500mの有馬記念で、そこで4角12番手だった点が気になるところ。実績上位は間違いないが、位置取りのリスクを考慮しておく必要はある。

前走国内G3出走馬も6頭いる。今回のデータ分析からは、前走1~3番人気に合致するボーンディスウェイ、前走1~3着に合致するマイネルクリソーラの2頭を挙げておきたい。ともに5歳馬で、前走中山金杯の4角通過が前者は2番手、後者は4番手だった点も好感が持てる。

中山記念3勝目を目指すヒシイグアスにも触れておくべきだろう。今年で8歳(以上)、前走は香港カップ。過去10年で好走例がないデータにふたつ合致しており、今回の分析では強調しづらいが、なにせ過去2勝でレース適性には疑いの余地がない。年齢的な衰えがないと判断できるようなら、無視はできない存在だ。

 

 

 

 

競馬あれこれ 第167号

フェブラリーS】153万馬券を呼ぶ激走、殊勲の藤岡佑が明かす11番人気ペプチドナイルの勝因

 
チーム・協会

2024年最初のJRA・GI、フェブラリーステークスは11番人気の伏兵ペプチドナイルが優勝 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 2024年最初のJRA・GI、第41回フェブラリーステークスが2月18日(日)に東京競馬場1600mダートで行われ、藤岡佑介騎手騎乗の11番人気ペプチドナイル(牡6=栗東・武英厩舎、父キングカメハメハ)が優勝。好位4番手の外から最後の直線で堂々突き抜け、GI初挑戦で初タイトルを手にした。良馬場の勝ちタイムは1分35秒7。

 ペプチドナイルは今回の勝利でJRA通算20戦8勝、重賞は初勝利。藤岡佑騎手はフェブラリーS初勝利で、GIは2018年NHKマイルカップ(ケイアイノーテック)以来の通算2勝目。同馬を管理する武英智調教師は開業7年目にして嬉しいJRA・GI初勝利となった。

 なお、1馬身1/4差の2着には長岡禎仁騎手騎乗の5番人気ガイアフォース(牡5=栗東・杉山晴厩舎)、さらにクビ差の3着には武豊騎手騎乗の13番人気セキフウ(牡5=栗東・武幸厩舎)が入り、3連単は153万500円の特大配当となった。

陣営自信のGI初参戦「本格化してきた今ならチャンス」

「本格化した今なら……」武英調教師(左から4人目)も確かな自信を持ってのフェブラリーステークス参戦だった 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 24年JRA・GIシリーズの開幕戦をひと言で言うなら、とにかく多彩。ウシュバテソーロ、レモンポップらチャンピオン級の馬が揃って不在の中、重賞未勝利でキャリア5戦3勝の4歳馬オメガギネスが押し出されるように1番人気になったことからも分かるように、何が勝っても不思議ではないメンバーと組み合わせだった。

 とは言いながらも、ペプチドナイルの完勝には驚かされた。好位追走から直線半ばで早くも先頭に立ち、後続を寄せ付けることなく1馬身1/4差の完封。11番人気でGI初挑戦の穴馬の勝ち方ではない、まさに横綱級の競馬だった。

「ペースも厳しかったですし、馬にとってはタフで苦しい競馬になったと思うのですが、本当に馬がよく頑張ってくれました」

表彰式後の共同会見で、藤岡佑騎手は開口一番に愛馬の奮闘を讃えた。重賞はこれまで3度挑戦し、昨年11月のGIIIみやこステークス4着が最高成績。また、これまで中距離を使われてきた同馬は1600mという距離も初めて。2ケタ人気が示すように実績だけで見ればなかなか有力馬には推しづらい馬だろう。しかし、武英調教師が「なぜこんなに人気がないのかなと思っていました」と振り返ったように、陣営には確かな自信を持ってのフェブラリーステークス参戦だったのだ。

 その一番の根拠としていたのは肉体面、精神面での成長。「年末から使い詰めで来ていましたが体調はずっと良くて、メンタルも強くなったことでいよいよ本格化してきたという印象。今ならワンターンの東京マイルでもチャンスがあると思っていました」とトレーナー。それは藤岡佑騎手も同じ思いだった。

ポイントは枠順の並びと1列下げたポジション

枠順の並びを生かした先行策、そして自身のリズムとペースを守ったことが最後の伸び脚につながった 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 もう一つ、ジョッキーと陣営が思いを一つにした大きなプラス材料がある。それは枠順の並び。ちょうど真ん中の5枠9番自体も良かったし、他馬がそれぞれ入った枠番から想像できる展開になればペプチドナイルの力を存分に発揮できる競馬になる――そう確信した藤岡佑騎手は枠番発表後すぐに武英調教師に電話でそう伝えると、トレーナーから返ってきた答えも同じものだった。

「この馬は取りたいポジションが決まっていて、無理に出したり引いたりしたくないタイプ。とにかくスムーズにそのポジションを取れるかがポイントで、最初のコーナーまでが大事な馬なんです。その意味では前走(東海ステークス6着)は枠順が出た時から最悪だと思ったのですが、今回は枠順が出た瞬間にパッとレースのイメージがわきましたし、すごく良い並びに思えたんです。それを先生に伝えたら同じ意見でしたね」

 8枠15番からフェブラリーS史上最高馬体重を更新した592kgの快速巨漢ドンフランキーが勢いよく飛び出すと、それを見る形でペプチドナイルも先行。理想とする形はこのまま2番手に収まる位置取りだったが、それを許さなかったのが松山弘平騎手の2番人気ウィルソンテソーロ。外から厳しくインを締められ、2番手確保が難しくなった。藤岡佑騎手が勝敗を分けた前半戦を振り返る。

「本当は2番手を取り切りたかったのですが、ペースも流れていてウィルソンテソーロも開いてくれてなかったので、2番手に押し込むには厳しいなと思って1列下げました。そこをスムーズに下げられたのが一番の勝因かなとも思いますね」

想定以上の手応えで早め先頭「直線は長かった」

6歳の初GI挑戦にしてつかんだビッグタイトル、今後はウシュバテソーロ、レモンポップらと対決が楽しみになる 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 前半600mは33秒9というハイラップ。ゴール手前で先行勢がバタバタとつぶれていったことを思えば、もしウィルソンテソーロに付き合ってポジション争いをしていたらペプチドナイルも最後まで脚は残っていなかっただろう。ジョッキーが振り返ったように、理想の位置取りとはいかずともそこにこだわらず、リズムとペースを優先して冷静に一歩引いたことが結果的にウイニングロードを開くことになった。レースを見守った武英調教師も、この攻防をスムーズに収められたことで「ヨシッ!」と勝ち負けへの手応えをつかんだという。

 そして迎えた最後の直線。ここまではほぼ思い描いていた通りに運べていた藤岡佑騎手だったが、想定以上だったのは直線での愛馬の手応え。

「脚質的に後ろを気にしても仕方ないタイプ。あとは自分の馬がどれだけ手応え良く直線に向いてくれるかでした。でも、想定以上に手応えが良かったですね。先頭に立つのも早かったのですが、慌てて追い出したわけではないですし、ゴールまでに脚をなくさないように丁寧にじっくりと追いました。余裕はあったんですけど、ゴールまで長かったです(笑)」

オーナー、藤岡佑と武英調教師のつながり

武英調教師にとって「かわいい後輩」という藤岡佑騎手、厩舎の初勝利も同じタッグだった 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 メイケイエールでの活躍が印象深い武英調教師にとって、これが延べ16頭目での挑戦でのGI初戴冠。「オーナーは自分のジョッキー時代の一番しんどかった時にお世話になった方。とにかくこのオーナーと一緒に大きなところを取りたいと思っていました」。調教師のみならず、オーナーの沼川一彦氏にとってもこれが初の重賞タイトル。チームとして忘れられない大きな1勝となっただろう。

 加えて、「かわいい後輩」という藤岡佑騎手とのタッグでビッグレースを制したことも喜びを増幅させた。

「ジョッキー時代からずっと仲良くやってきました。実は厩舎の初勝利も佑介なんです。特別戦での初勝利だったのですが、何か縁を感じますね。今回の勝利で佑介はさらに生意気になるんだろうなって(笑)」

 人の縁、つながりも強く感じさせた今回のペプチドナイルの劇的勝利。前述したようにチャンピオン級の馬が不在だったことから、「砂の新王者誕生」とはまだ大々的に言うことはできないかもしれないが、遅咲きのスター候補が現れたことは間違いないだろう。武英調教師は今後について「獲得賞金的に心配することがなくなったので、馬の状態に合わせたローテを組んでいきたい」と話しており、距離は今回のようなワンターンのマイルから2000mの中距離まで視野に入れている。藤岡佑騎手も好走のポイントは「自分のペースを守ること」であり、適性距離については「レンジが広い」と太鼓判を押していことから、今後はオールマイティの活躍を期待して良さそうだ。

 そして、海外遠征が活発になり、3歳新三冠レースも創設されて新たな時代を迎えつつあるダート競馬。ペプチドナイルとサウジ遠征組との対決は夏から秋以降にはなると思うが、層がさらに厚くなる新星の登場でダート戦線はさらに面白くなった。

競馬あれこれ 第166号

「2強」が不在のフェブラリーSを制する馬は?

 
チーム・協会

【Photo by JRA

今週日曜日は東京競馬場フェブラリーSが行われる。2024年も中央競馬のG1がいよいよ始まる。出走予定メンバーを見渡すと、昨年JRAのダートG1を2勝し、JRA賞最優秀ダートホースに輝いたレモンポップと、ドバイワールドカップ東京大賞典を制したウシュバテソーロが不在な点は残念だ。ただ、その分多くの馬に勝つチャンスがありそうだ。いつものように過去10年をJRA-VAN DataLab.とTARGET frontier JVを利用して振り返り、レース傾向を分析してみたい。

4歳・5歳が強い

■表1 【フェブラリーSの年齢別成績、過去10年】

過去10年(以下、同様)のフェブラリーSの年齢別成績を調べたところ、4歳と5歳の成績が良かった。6歳は5歳に比べると好走率が半分近くに下がってしまった。7歳以上になるとさらに厳しくなるが、8歳で好走した馬が3頭もいた。ベテランの馬も軽視はできない。

アメリカのダート血統に注目

■表2 【フェブラリーS種牡馬成績、過去10年】

種牡馬成績を調べたところ、ゴールドアリュールが【3.2.1.11】の好成績で、ゴールドドリームコパノリッキーが複数回好走した。勝ち馬を出している種牡馬の中で、現役時代にJRA所属だったのは意外にもこの馬だけだった。その他はAmerican PharoahトワイニングHenny Hughesケイムホーム、Lomon Drop Kidと現役時代はアメリカのダートで活躍した馬ばかりだ。2着馬を出した種牡馬にもMajestic Warriorシニスターミニスターといったアメリカのダート血統がいる。こうした上位勢の顔ぶれを見ると、明らかにJRAの芝とは異なり、ダートらしい特徴が出ていると言える。

前哨戦を使うことがマイナスではない

■表3 【フェブラリーSの前走レース別成績、過去10年】

前走レース別成績を調べたところ、根岸S【4.2.3.49】組が最も多く、その内前走2着以内だと【4.2.3.6】という好成績だった。逆に前走根岸S3着以下だと【0.0.0.42】であり、同レース組は連対馬のみをマークすればいい。そして東海S【2.1.1.16】組の出走が2番目に多い。現在、JRAのG1出走馬は本番までのレース間隔が短くなるので前哨戦を避ける傾向にあるが、本競走においては前哨戦を使うことがマイナス材料にはならない。前走G1/Jpn1組においては、川崎記念東京大賞典組からは勝ち馬が出ていないが、チャンピオンズC【3.3.2.9】組は好成績だ。

前走1400~1800mで2着以内が有力

■表4 【フェブラリーSの前走距離別成績、過去10年】

さらに前走距離別成績を調べてみると、今回距離延長よりも短縮の方が成績は良かった。ただし、前走1800m【6.4.4.32】が好走馬の大半を占めており、前走2000m以上からは勝ち馬が出ていなかった。前走1400~1800m組は【10.6.8.97】で、その内前走2着以内だと【6.4.5.32】という成績だった。つまり今回の1600mと近い距離のレースで好走している馬が狙いの一つになる。

【結論】

前走東海S2着のオメガギネスに注目

前走東海Sで2着と敗れてしまい危うく除外になりそうだったオメガギネスだが、ローテーション自体は好ましい。まだキャリアが浅く、G1経験もない新興勢力的な存在だが、本競走においてはそのようなタイプ(モーニンやインティなど)が良く好走しており、プラス材料だと考えたい。

前走成績が良く、1600~1800mのダートG1/Jpn1で好走実績があるのはイグナイター、ドゥラエレーデ、レッドルゼル、ウィルソンテソーロ。前走東京大賞典は敗れたが、シニスターミニスター産駒のキングズソード、ミックファイアあたりまで有力とみたい。