競馬あれこれ 第143号

天皇賞・秋】驚愕レコードもイクイノックスには“普通のペース” 「もっと強くなる」次走JCもルメール自信のV宣言

チーム・協会

驚愕の日本レコードタイムでイクイノックスが天皇賞・秋を連覇 

天皇皇后両陛下が観戦される「天覧競馬」となった2023年の天皇賞・秋(10月29日、東京競馬場2000m芝)は、単勝1.3倍の断然1番人気に支持されたクリストフ・ルメール騎手騎乗のイクイノックス(牡4=美浦・木村厩舎、父キタサンブラック)が優勝。ハイペースの中、先行3番手を悠々追走すると、最後の直線も楽々と突き抜けてシンボリクリスエス、アーモンドアイに続く史上3頭目天皇賞・秋連覇を達成した。良馬場の勝ちタイムは1分55秒2の日本レコードタイム

 イクイノックスは今回の勝利で通算9戦7勝(うち海外1戦1勝)、GIは5勝目。騎乗したルメール騎手は天皇賞・秋5勝目、同馬を管理する木村哲也調教師は昨年に続く同レース2勝目となった。

 なお、2馬身半差の2着には横山武史騎手騎乗の6番人気ジャスティンパレス(牡4=栗東・杉山晴厩舎)、さらに1馬身1/4差の3着には川田将雅騎手騎乗の3番人気プログノーシス(牡5=栗東・中内田厩舎)が入線。負傷の武豊騎手から戸崎圭太騎手に乗り替わった2番人気のドウデュース(牡4=栗東・友道厩舎)は7着に敗れた。

驚異の1分55秒2でも「オーバーペースではなかった」

超ハイペースでもイクイノックスにとっては「普通のペース」、最後の直線は楽々と突き抜けた 

この日、東京競馬場では2度、大きなどよめきが起きた。1度目は武豊騎手が第5レース後の脱鞍に際し騎乗馬に蹴られて負傷するというアクシデントのためにドウデュースが乗り替わりになったこと。そして2度目はそのおよそ2時間後、天皇賞・秋の走破時計が電光掲示板に点灯した瞬間だった。

1分55秒2――。

 速い、なんてものではない。競馬ファン、関係者ならば誰もが驚愕する数字であり、それはルメール騎手も同様だった。

「時計を見たときはビックリしました!」

 ただ、実際にレースを体感したジョッキーの驚きと、見ている側の驚きの“質”は若干異なっている。共同会見でルメール騎手は今回のイクイノックスの走りとレースのペースについての実感をこう明かした。

「イクイノックスは向こう正面で落ち着いてくれたし、ハミを落として自分のペースで走ることができました。普通のペースだと感じていて、イクイノックスはトビもスムーズでしたし全然力を使っていないから3番手でちょうど良いペース。だから、こんなに速いペースだと思っていなかったです」

 外枠からジャックドールが果敢に飛ばして前半1000mが57秒7。これだけでも相当に速い時計であるのに、当のイクイノックスにとっては“普通のペース”だというのだ。そして、これだけの速い流れの中を3番手で追走しながら、さらにスピードアップした後半1000m57秒5という激流の中を余裕たっぷりに差し切ったのだから、これはもう驚きを通り越して、もはや恐ろしさすら感じてしまう。そんな、傍から見れば神がかりのレースであっても鞍上の体感としては「全然オーバーペースではなかった」。だから、ルメール騎手の「驚いた」というのは単純に「時計が速くてビックリ!」ではなく、「こんなに速い時計が出ているとは思っていなかった」という意味での「驚き」だったのだ。

変幻自在、それこそがイクイノックスの強さ

世界ナンバーワンホースの実力を存分に披露、世界中の競馬ファンが驚いたに違いない 

3月のドバイシーマクラシックを制したその日から「イクイノックスは世界のスターホースになった」とルメール騎手。そして、このレースでマークしたレーティング129という数字は、無敗で凱旋門賞を制したフランスの3歳馬エースインパクトの128を上回り今季世界ナンバーワンだ。それだけにこの天皇賞・秋は日本だけでなく、海を越えて世界のホースマンや競馬ファンが注目していたに違いない。その中でイクイノックスは想像の上を軽く超えていくレースをやってみせた。

「彼は今日から“スーパースター”になりましたね」

 ちょうど1年前の天皇賞・秋から、これでGIは5連勝。そのレース内容を改めて振り返ると、ドバイシーマクラシックの逃げ、宝塚記念の追い込み、そしてこの天皇賞・秋で見せた教科書通りの好位抜け出しと、まさに変幻自在のスタイルであり“型”というものがない。しかし、これこそがイクイノックスのスタイルであり、強さなのだとルメール騎手は力を込める。

「レースはペースにもよりますし、スタート、競馬場のコース、相手メンバーにもよります。でも、イクイノックスは何でもできる。スタートが遅かったら、じゃあ後ろから行って最後に脚を伸ばそうと思うし、スタートが速かったら、OK、スタミナがあるから逃げても大丈夫と思う。本当に素晴らしい馬。ジョッキーにとっては楽、簡単です(笑)」

リバティアイランドと初対決へ「勝つ自信あります」

予定通りなら次走は1カ月後のジャパンカップ、3歳三冠牝馬リバティアイランドと初対決だ 

シルクレーシングの勝負服とルメール騎手で思い出す名馬と言えば、そう、GI・9勝のアーモンドアイ。日本競馬史上最強牝馬の呼び声も高い女傑との比較についてジョッキーは「どちらの馬もほとんど完ぺき。同じレースを走ったらどっちが強いか分からない(苦笑)」と語っており、この言葉だけでもイクイノックスの能力の高さがうかがい知れるものだが、GI連続勝利に関してはアーモンドアイと並ぶ5連勝を達成した。そして次走、予定しているジャパンカップ(11月26日、東京競馬場2400m芝)を勝てばその女傑を超えて、テイエムオペラオーロードカナロアに並ぶ史上1位タイのGI・6連勝となる。

「彼はもっと良くなるし、強くなるし、タフになる。今回は休み明けでしたけど、馬体はすごくパンプアップして、大人になっていました。ジャパンカップでもレコードタイムを出せるかどうか分からないけど、次も素晴らしい競馬ができると思います」

 そのジャパンカップには1つ年下の3歳三冠牝馬リバティアイランドも出走を表明しており、新たなライバルストーリーが刻まれることになりそうだ。

「もちろん、勝つ自信はあります」

 ルメール騎手はきっぱりと宣言したが、「リバティアイランドはすごく良い馬。三冠馬はリスペクトしないといけないし、よくマークして、集中しないといけない」と、楽に勝てる馬とは微塵も思っていない。ただ、今日、これだけのパフォーマンスを見せた上に「もっと強くなる」というイクイノックスを止められる馬などいるのだろうか――ジャパンカップではどのようなパフォーマンスと時計で世界中の競馬ファンを驚かせてくれるのか、1カ月後が今から楽しみではある一方、今のイクイノックスならばどれだけの走りを見せたとしても、もう驚けないのかもしれない。