競馬あれこれ 第146号

エリザベス女王杯】ブレイディヴェーグ5戦目でGI初戴冠、天才少女を超える快挙V

チーム・協会

3歳牝馬ブレイディヴェーグがキャリアわずか5戦目でエリザベス女王杯を制覇! 

第48回GIエリザベス女王杯が11月12日、京都競馬場2200m芝で行われ、クリストフ・ルメール騎手騎乗の1番人気ブレイディヴェーグ(牝3=美浦・宮田厩舎、父ロードカナロア)が優勝。好位4番手のインから最後の直線で力強い伸び脚を繰り出し、キャリア5戦にしてGIタイトルを手にした。良馬場の勝ちタイムは2分12秒6。

 今回の勝利でブレイディヴェーグはJRA通算5戦3勝、重賞は初勝利。ルメール騎手は菊花賞天皇賞・秋に続き秋のGIは3連勝となり、エリザベス女王杯は2008年リトルアマポーラ、20年ラッキーライラックに続く3勝目。同馬を管理する宮田敬介調教師は嬉しいGI初勝利となった。

 なお、3/4馬身差の2着には松山弘平騎手騎乗の5番人気ルージュエヴァイユ(牝4=美浦・黒岩厩舎)、さらにクビ差の3着には川田将雅騎手騎乗の3番人気ハーパー(牝3=栗東・友道厩舎)が入った。

1枠1番、スタートの不安が的中、しかし……

今回もゲートを上手く出ることはできなかったがすぐさまリカバリー、最後の直線では自慢の瞬発力を爆発させた 

エリザベス女王杯ではあの“天才”ファインモーションのキャリア6戦を上回る、わずか5戦目での戴冠。現3歳世代の牝馬はリバティアイランドだけではないことをアピールするに十分な勝利だった。

「1枠1番はイヤでした(笑)。厳しいと思いましたね。京都2200メートルはすぐにコーナーがあるのでスタートが悪かったら後ろのポジションになってしまう。ブレイディヴェーグはスタートが上手じゃないから心配しました」(ルメール騎手)

 まず注目されたのはゲートの出方。前走ローズステークスで繰り出した上がり3F32秒9の脚を見れば、相当な能力を秘めた馬だということは明らかなものの、なにせゲートの出が悪い。下級条件ならば、それでも能力の違いで勝てるのだが、上のクラスに行けば行くほど競馬はそう甘いものではなくなる。事実、世代トップクラスが集まるローズステークスでは出負けが響き、後方で苦しいレースを強いられて差し届かずの2着敗戦だった。それだけに同じ轍は踏むまいとルメール騎手も細心の注意を払っていたはずだったが、不安は的中……。

「いつも通りのジャンプスタート、あまり良くなかったです」

 しかし、ここから天性のスピードで自然とリカバリーすると、ペースが落ち着いた向こう正面ではハーパーを見る形での4番手のイン。これも馬自身の学習能力の高さか、あるいはルメール騎手の巧みなエスコートか、いずれにしてもローズステークスと比較すれば、これ以上ない絶好位だった。

ルメール太鼓判「もっと伸びしろがある」

手綱をとったルメール騎手はこれで菊花賞天皇賞・秋に続き、GI・3連勝となった 

「手応えはずっと良かったですね。この馬は瞬発力がすごくある馬ですし、ローズステークスもよく伸びてくれたけど後ろ過ぎました。でも、今回は3番手から直線で前走と同じ脚を使ってくれました。すぐに抜けることができて良かったです」

 昼過ぎから一時雨が降ったことでパンパンの良馬場とはならず、「少し心配していました」とルメール騎手。だが、この点に関してはゲートとは違い、杞憂に終わったことは何よりも最後の伸び脚が示した通り。馬場コンディションの良い四分どころに持ち出すと、アッという間に出走馬唯一のGI馬ジェラルディーナをはじめ並みいる重賞実績馬を置き去りにしてみせたのだった。

 冒頭でファインモーションを上回ると書いたが、キャリア5戦目での古馬GI制覇は今季世界最高評価のイクイノックスに並び、グレード制が導入された1984年以降だと史上2頭目の快挙。2023年の牝馬と言えばもちろんリバティアイランドなのだが、今年もあと2カ月と迫ったところで、またとんでもない怪物牝馬候補が3歳世代から現れた。イクイノックスの主戦でもあるルメール騎手が、ブレイディヴェーグの“可能性”をこう語る。

「まだまだ伸びしろがあると思います。秋から体が大きくなってパワーもついてきました。今日の状態をキープしていけば、これからもGIで活躍できると思います」

アーモンドアイのイメージを重ねて

宮田調教師(左)は開業4年目にして嬉しいGI初勝利となった 

一方、開業4年目で初のビッグタイトルを手にした宮田調教師にとっても、単にGI初勝利というだけではない特別な1勝になりそうだ。と言うのも、宮田調教師はかつて国枝栄厩舎で調教助手を務めており、当時、同厩舎所属として4勝を挙げた牝馬こそがブレイディヴェーグの母インナーアージだった。

「国枝先生や厩舎スタッフの皆さんが大切に育て上げて、無事に繁殖に送り出したインナーアージの子どもでGIを勝てたことが何より嬉しく思いますし、国枝先生、厩舎のみんなにも感謝しています」

 その国枝厩舎からは今回、サリエラが出走しており、師匠の馬を負かしてのGI初制覇は一番の恩返しになったに違いない。そして、国枝厩舎で同じロードカナロア産駒の牝馬と言えば、そう、芝GIではJRA史上最多9勝のアーモンドアイが思い出される。

「アーモンドアイにまたがったことは何回かしかないのですが、どちらかと言えば併せ馬で誘導する機会が多くて、間近で見ていて『本当に凄いな』と思っていました。実際、ブレイディヴェーグ自身は調教の走りを見ていても、前脚の上がり方や可動域も広いですし、最後の瞬発力からも自分の中ではイメージをちょっと重ねています。あれだけの歴史的名馬と比較するのはおこがましいのですが、少しでも近づけるように、ブレイディヴェーグ自身も成長できるように導いていければと思っています」

リバティアイランドとの直接対決は実現するか

来年は牡馬との対決が待っている、そして同い年のリバティアイランドとの直接対決は実現するか 

次走については未定だが、トレーナーによれば「今回はメイチで仕上げましたので、少し休みになるのかな」と、年内は休養の見込みか。ただ、今後の展望については「この子のポテンシャル的には男馬相手でもやれるんじゃないかなという可能性を秘めていると思うので、今からワクワクしています」と、来年の牡馬との戦いを早くも心待ちにしている表情を見せた。

 年上、あるいは同世代のトップ牡馬相手にどれだけの走りを見せてくれるのか――それはもちろん来年の大きな楽しみではあるのだが、それよりもファンが期待するのは同い年のリバティアイランドとの直接対決だろう。最強牝馬の座をかけた頂上決戦、そんなレースがどこかで実現することを願うばかりだ。