競馬あれこれ 第149号

ジャパンカップ】まだ“上”があったイクイノックス、強さの秘密は生まれ持った「奇跡のバランス」

チーム・協会

イクイノックスがジャパンカップを圧勝、GI・6連勝で総獲得賞金歴代ナンバーワンとなった 

秋競馬の大一番、第43回GIジャパンカップが11月26日、東京競馬場2400m芝で行われ、クリストフ・ルメール騎手騎乗の1番人気イクイノックス(牡4=美浦・木村厩舎、父キタサンブラック)が優勝。道中3番手追走から最後の直線で楽々と抜け出し、GI・6連勝を飾った。良馬場の勝ちタイムは2分21秒6。

 イクイノックスは今回の勝利で通算10戦8勝(うち海外1戦1勝)、重賞は7勝目。総獲得賞金は22億1544万6100円となり、アーモンドアイを抜いて歴代1位となった。また、騎乗したルメール騎手はジャパンカップ4勝目、木村哲也調教師は同レース初勝利となった。

 なお、2番人気に支持された川田将雅騎手騎乗のリバティアイランド(牝3=栗東・中内田厩舎)は4馬身差の2着、さらに1馬身差の3着にはウィリアム・ビュイック騎手騎乗の5番人気スターズオンアース(牝4=美浦・高柳瑞厩舎)が入った。

「信じられない。もう言葉がありません」

ゴール後、イクイノックスとルメール騎手に8万を超える大観衆から声援が送られた 

衝撃的なレコードタイムで圧勝した天皇賞・秋から1カ月。これ以上はもうない、と個人的には思っていたイクイノックスのパフォーマンスだったが、“それ以上”があったのだ。

「直線が速すぎました。この馬の走りが信じられないです。直線ですごい反応をしてくれて、自分でもビックリしました。もう言葉がありません」

 百戦錬磨のルメール騎手ですら、今になってなお舌を巻くレースぶり。それほどまでにイクイノックスがこのジャパンカップで見せた競馬は凄まじかった。あの無敵の三冠牝馬リバティアイランドが全く追いつけない。しかも、徹底マークから川田騎手が懸命にステッキを振るっていたのとは対照的に、ルメール騎手は肩ムチを1発、2発、軽く打ったのみでほぼノーステッキの形。それでいてイクイノックスは涼しい顔で4馬身も前にいるのだから、ルメール騎手と同じか、それ以上に見ていた側も「信じられない!」という気持ちでいっぱいだろう。

 そして敗れたリバティアイランド陣営も「全力で挑ませていただいて素晴らしい走りを見せてくれた中で、イクイノックスはさすが世界一の馬、すごく強かったです」と川田騎手。中内田調教師も「良い競馬をしたと思いますが、相手はやっぱり世界一の馬ですね」と、何の言い訳もなく“世界ナンバーワンホース”の強さに脱帽するしかなかった。

イクイノックスに騎乗することの楽しさ、そしてスリル

天皇賞・秋同様に超ハイペースとなったが、イクイノックスは悠々と抜け出してリバティアイランド以下を完封 

レースは宣言通りパンサラッサがゲートを飛び出してハナを主張すると、番手にタイトルホルダー、それを見る形で好発を切ったイクイノックスが枠なりで続いた。この序盤の攻防をルメール騎手はこう振り返っている。

「1番枠にリバティアイランドがいて、隣の3番にはタイトルホルダーがいたのでその後ろに行きたいと思っていました。イクイノックスは良いスタートをしてくれて、すぐタイトルホルダーの後ろに行けたので、勝てるイメージが出てきました」

 逃げたパンサラッサが刻んだペースは前半1000m57秒6。天皇賞・秋の57秒7より0秒1速い超ハイペースだったわけだが、そんな激流の中を好位からでも脚色鈍らず最後まで最上級のパフォーマンスを発揮できるのがイクイノックスという馬。それは秋の盾ですでに証明されていることであり、この日も単独3番手から鞍上との折り合いはバッチリ、実に悠々と気持ち良さそうにラップを踏んでいた。

「イクイノックスに騎乗する際にはいかに折り合いをつけてスムーズにレースをするかが大事になってきます。折り合いがついてこそ彼のパワーが発揮できる。そうしてイクイノックスと呼応してレースをすることが自分にとって楽しくて、凄くスリルになっているんです。彼が加速していく時のスピードは非常に心地良いですね」

爪の形、骨格、筋肉の柔らかさ、全てが奇跡的な組み合わせ

体格面においてイクイノックスは「生まれながらにして奇跡の組み合わせ、パーフェクトバランス」と木村調教師は語る 

イクイノックスに騎乗すること、ともにレースに臨むことに関してそう表現したルメール騎手。いつもと違ったのはその加速スピードがあまりにも速すぎて言葉を失ったわけだが、同時にその異次元のスピードに触れた8万人を超えるファンからの大歓声を一身に受けて、ゴール後はとめどない感情が涙となってあふれ出た。

「今日はなぜか自分自身、アドレナリンが非常に高まっている状態でした。それで、物凄くたくさんのファンの方が喜んでくれていた姿を見た時に感情がわいてきたんです。泣くことはめったにないんですけど、説明がつかない感情に襲われました。凄く特別な瞬間でしたね」

 ただ強いというだけではない。ファンの心を揺さぶり、そしてジョッキーの魂を揺さぶるスーパーホース。特別、別格……いや、それらを通り越してもはや奇跡のような存在にも思えてくるが、実際にイクイノックスは“奇跡のバランス”で成り立っていると、木村調教師は語る。

ルメール騎手が乗りやすいと言ってくれるのはフットワークのバランスが良いからだと思います。それは生まれ持った体格的なもので、爪の形、骨格、筋肉の柔らかさ、全てが奇跡的な組み合わせでパーフェクトバランスの馬なんだと思います。手前味噌ではありますが、厩舎としてはそのバランスを整えることを重視していまして、ルメール騎手に託す際にはそれが乗りやすい状態になっているのかなと思いますね」

「長く皆さんの記憶にとどめておいてください」

イクイノックスの今後は現時点で未定、次はどのようなプランとなるのか陣営の発表を楽しみに待ちたい 

昨年の天皇賞・秋から国内、海外も含めて負けなしのGI・6連勝を飾り、未知の対戦相手だったリバティアイランドも退けた今、国内にライバルはもういない。となると、“次”は何を狙うのか――それは日本メディアだけの関心事ではなく、海外メディアから真っ先にその質問が木村調教師にぶつけられた。

「まだレースが終わったばかりですので、まずは明日、厩舎に戻ってから馬の無事を確認してから、色々な方向性をオーナーサイドと検討していきたいと思います。今のところ決定していることは何もなくて、このジャパンカップに集中してきましたから」

 来年も現役続行かどうかについても「何もプランは決まっていません」とトレーナー。イクイノックスの次走が連覇を狙う有馬記念になるのか、来年に向けてパワーを温存することになるのか、それとも……。世界最強馬の行く先を様々に想像するのもまた、競馬の楽しみの一つ。しかし、今日ばかりは先走る心をちょっとだけ落ち着けよう。

「美しい瞬間をイクイノックスとともにできて本当に嬉しい。皆さんも信じられないレースを見たと思いますし、特別なシーンを見ることができたと思います。長く記憶に残るレースにもなったと思うので、皆さんの記憶にとどめておいてください」

 ルメール騎手が共同会見の最後に話した言葉通り、2023年のジャパンカップは本当に素晴らしいレースだった。このレースを忘れないためにも(いや、忘れることはないと思うが)、イクイノックスの一完歩ずつ、そして全力を尽くしたリバティアイランド、スターズオンアース、ドウデュースら全馬の走りを、今はただ、ただ噛みしめたい。