競馬あれこれ 第151号

チャンピオンズカップ】陣営の「想像を超えた」レモンポップ、完成期を迎え真の飛躍へ

チーム・協会

チャンピオンズカップはレモンポップが優勝、史上4頭目JRAダートGI・2レースを同一年に制覇 

下半期のダート王決定戦、第24回GIチャンピオンズカップは12月3日、中京競馬場1800mダートで行われ、坂井瑠星騎手が騎乗した1番人気レモンポップ(牡5=美浦・田中博厩舎、父レモンドロップキッド)が優勝。大外から果敢に先手を奪うと、そのまま後続の追撃を封じ込め逃げ切り勝ちを決めた。良馬場の勝ちタイムは1分50秒6。

 レモンポップは今回の勝利で通算14戦10勝(うち地方1戦1勝、海外1戦0勝)、GIは2023年フェブラリーステークス、同マイルチャンピオンシップ南部杯に続き3勝目。フェブラリーステークスチャンピオンズカップ(前身のジャパンカップダート含む)のJRAダートGI・2レース同一年制覇は00年ウイングアロー、11年トランセンド、17年ゴールドドリームに続く史上4頭目の快挙となった。また、騎乗した坂井騎手、同馬を管理する田中博康調教師ともにチャンピオンズカップは初制覇となった。

 なお、1馬身1/4差の2着には原優介騎手騎乗の12番人気ウィルソンテソーロ(牡4=美浦・小手川厩舎)、さらにクビ差の3着にはバウルジャン・ムルザバエフ騎手騎乗のドゥラエレーデが入線。下位人気馬が2、3着に入ったことで3連単は190万2720円の大波乱となった。

レモンポップとのコンビでGI・3勝目を飾った坂井騎手は「本当に凄い馬」と愛馬の走りを絶賛 

「どちらかと言うと、不安の方が大きかった」

初の1800m、4つのコーナーを回る周回コース、そして大外枠――あらゆる“試練”も今のレモンポップを止める足かせにはならない。完ぺきな逃げ切りで距離不問の国内ダート最強王者を証明した。

「本当に凄い馬というのが今の一番の思いです。今回は1800mの距離、1周コースでの競馬、スタンド前の発走と初めてのことが多くて本当に挑戦だなと思っていました。でも、こちらの期待以上、想像を超える走りをしてくれてレモンポップには感謝したいです」

 レース後、今年のフェブラリーステークスからコンビを組んでGI・3勝目を飾った坂井騎手が愛馬の走りを手放しで讃えた。

 想像を超える走り――これは田中博調教師も同様に会見で答えていたフレーズだった。それを思うと、今回のレモンポップのチャレンジがいかに大きなものであり、満点以上の答えを出した走りがいかに卓越したものであるかが分かる。もちろんレースに出走すると決めた以上は勝利を期待する。しかし、ここまでの完全勝利は厩舎サイドとしても本当に思っていなかったのかもしれない。田中博調教師が言う。

「週中の会見では『期待と不安が半々』と言いましたが、どちらかと言うと不安の方が大きかったです」

「直線は今まで一番手応えがなかった」、それでも……

「この馬にしては止まってしまった」と振り返った坂井騎手だったが、それでも後続に影も踏ませない1馬身1/4差の完勝 

そんなトレーナーの不安をさらに大きくさせた大外枠発走。レースの全てを託された坂井騎手は下手な小細工をせず、『逃げ』の真っ向勝負に打って出た。

パドックで田中先生に『もう開き直って行きます』と言ったら、『好きに乗っていいよ。気楽に乗って』と言っていただいて。それで気持ちが楽になりました」

 ゲートを勢いよく飛び出すと、内にいる14頭の様子をうかがうこともなくアッという間の先頭。1コーナーを回るころには番手のドゥラエレーデに1馬身の差、完全に出切った形でペースを握った。

「初速が速かった。1コーナーまでに行き切って、距離ロスなくラチ沿いを通るという理想的な形で行けました」

 前半1000mの通過タイムは1分00秒9。「1分1秒くらいで行けたら」とレース前にジョッキーが思い描いていた通り、ほぼ狂いのないペースを刻むこともできた。ここまでは完ぺき。田中博調教師も「これで大きく負けたら仕方ない。4コーナーを回ってくるあたりの馬の雰囲気も好走する時のイメージ通りだった」と振り返っていた。ただ、鞍上は“いつもと違う”手応えを感じていたという。

「僕が乗った中ではドバイを除いたら、直線を向いた時は今までで一番手応えがなかった。それはやはりコーナーがいつもよりも多かったですし、後続のプレッシャーもありましたから……」

 加えて、最後のゴール前も「この馬にしては止まった感覚だった」と坂井騎手。それでもギリギリ残したという形の勝利ではなく、後方から強襲してきたウィルソンテソーロも2着争いを制するまで。最後まで後続に影すら踏ませぬ1馬身1/4差の逃走Vはまさしく完勝。レモンポップの能力が他馬とは1枚レベルが違うものだったと言っていい。

「本当にこの馬の能力の高さだと思います。よく頑張ってくれました」

今が一番の充実期、完成期に近い

今年の夏を境に馬体が一段と成長、田中博調教師(左から4人目)は「今が一番の充実期、完成期に近い」と語った 

2歳時から3歳時にかけて1年にも及ぶ長期休養を経験しているなど、もともと脚元に不安のあった馬。これまでは、いわば“素質だけ”で走ってきたようなものだろう。それが「今年の夏を境に成長と言いますか、随分と体が立派になってきました」と田中博調教師。2歳のころから逞しかった後肢に、若干物足りなかった前脚・肩回りの筋肉が追いつくようになったことで体形が変化。それによって弱さのあった脚元もパンとするようになり、「ようやくやりたい調教ができるようになってきた」という。今年2月のフェブラリーステークスの時点で相当な強さを見せていたレモンポップだったが、そこからさらに成長、そしてパワーアップしているというのだから驚きしかない。

「パフォーマンスとしては今が一番の充実期、完成期に近いかなと思いますね」

 田中博調教師の言葉通りなら、今年はある意味“助走”の段階。来年は真の意味での“飛躍”の1年になりそうだ。千四、マイルで強いのはすでに分かっていたが、これにプラスして1800mも克服。今回の勝利で選択肢はあらゆるカテゴリーへと広がった。トレーナーは今後の可能性と距離について、こう言及している

「今日は1800mのGIを勝たせていただきましたが、やはりパフォーマンスを最大限に出す適性距離かと言うと……そのあたりはうまく選択肢の中から良いチョイスができたらと思っています。海外も選択肢の一つです」

 距離に関しては坂井騎手も乗り手の感覚から「南部杯が衝撃的だったので千六くらいが一番力を発揮できるかな」と、世界トップクラスを相手にしての中距離路線にはやや懐疑的。一方、距離を短縮してのスプリント路線に関しては今春のドバイでレモンポップ自身唯一の大敗である10着を喫しているものの、田中博調教師は「良いスピードを持っていますし、千二がダメだとは思っていません」と答えている。

 いずれにしても、国内を完全制圧した今、やはり目指してほしいのは2度目の海外遠征。春は悔しい思いをしたが、完成期を迎えたレモンポップならば異国の地でも“想像を超える”走りを見せてくれるはず。春のサウジ、ドバイ、そして秋のアメリカ――夢は膨らむばかりだ。