競馬あれこれ 第135号

毛色は違うソダシの妹・ママコチャがGI初挑戦で戴冠 

スプリント2戦目での頂点に川田「もっと良くなる」

チーム・協会

スプリンターズSはソダシの妹・ママコチャがV、GI初挑戦で頂点に立った 

 秋のJRA・GI開幕戦となるスプリント王決定戦、第57回スプリンターズステークスが10月1日、中山競馬場1200m芝で行われ、川田将雅騎手騎乗の2番人気ママコチャ(牝4=栗東・池江厩舎、父クロフ)が優勝。好位追走から最後の直線で先頭に躍り出ると、急追する後続を振り切り重賞初勝利をGI初制覇で飾った。良馬場の勝ちタイムは1分8秒0。

 ママコチャは今回の勝利でJRA通算13戦6勝。騎乗した川田騎手は2018年ファインニードル以来同レース2勝目、同馬を管理する池江泰寿調教師は昨年のジャンダルムに続く連覇を達成した。

 なお、ハナ差の2着には坂井瑠星騎手騎乗の6番人気マッドクール(牡4=栗東・池添厩舎)。1番人気に支持されていた浜中俊騎手騎乗のナムラクレア(牝4=栗東・長谷川厩舎)はマッドクールから1馬身差の3着だった。

「十分チャンスがあるなと思える背中をしていた」

「十分チャンスがあるなと思える背中。その通りの内容で勝ち切れた」と川田騎手 

 スプリント2戦目で一気の頂点獲り。さすがソダシの全妹と思わせるレースぶりだった。

「これまで乗ったことはなかったのですが、レースを見ていてとても良い馬だなと思っていました。追い切りに乗って、これなら十分チャンスがあるなと思える背中をしていましたので、その通りの内容で勝ち切れたと思います」

 手綱をとった川田騎手は今回がママコチャと初コンビ。レース当週の坂路追い切りで初めて騎乗したわけだが、この時点ですでにGI級の能力を感じ取っていたのだろう。レースもまさに新チャンピオンにふさわしい堂々とした内容だった。

「枠の並びも良かったですし、あとはこの中で周りの動きがどういう形になっていくかということだったんですけど、この馬にとってはある程度良い形で進んでいたのではないかなと思います」

 内めの3枠6番から好スタートを切ると、前に行きたいジャスパークローネ、テイエムスパーダ、モズメイメイらを行かせて、自身は向こう正面では好位4番手。初のスプリント挑戦となった前走の北九州記念は同じく好位5、6番手から直線で末脚を伸ばす競馬で2着だったが、今回は最後の直線を待たずして4コーナー手前から捲り気味に進出すると、直線入り口ではもう先頭をうかがう積極策。これは相当の自信がなければできない競馬だ。ゴール寸前でマッドクールの急襲にあったものの、「最後は際どくなりましたので何とか粘ってくれと思いながら、無事に勝ちきってくれました」(川田騎手)と、馬もまるで“ここがゴール”と分かっているかのようにゴール板でグイっともうひと伸び。同期のナムラクレアや1つ年上のメイケイエールらが跳ね返され続けたGIの壁を、ママコチャは初挑戦にして飛び越えてしまったのだった。

マイル重賞での敗戦は決して無駄ではなかった

「適性距離がなかなかつかめなかった」と池江調教師(右端)だったが、マイルの経験は決して無駄ではなかった 

 これぞ良血のなせる業――とも言えるが、あのソダシの全妹だからこその苦労もあった。

「もっと早くに1200mを使っていれば、その分だけもっと早く重賞を勝てていたかもしれません。でも、姉(ソダシ)のこともあったので適性距離がなかなかつかめませんでした」

 スプリント戦でのGI勝利に至るまでの道のりをこう振り返ったのは池江調教師。桜花賞をはじめマイルGIを3勝しているソダシとは毛色こそまるで違うが、同じ父と母を持つ全姉妹。だからマイルを中心とした距離のレースを使うのは当然のことだろうし、実際にママコチャも強い内容で2勝クラス、3勝クラスとマイル戦を勝ち上がってオープン入りを果たした。だが、スプリント戦でGI初挑戦・初勝利の離れ業を演じたママコチャも、マイルでは昨年暮れ、今年春とGIどころかGIIIの壁にもアッサリと跳ね返されてしまっていた。

 そこからすぐにマイル路線に見切りをつけ、スプリント路線へと方針転換。これがズバリとハマったのはソダシとは微妙に異なる距離適性はもちろんあっただろうが、それだけではない。

「今まで乗ってくれたジョッキーたちが折り合いが厳しい中でも、しっかり我慢させることを覚えさせてくれました。特に松山弘平騎手には感謝したいですね」

 マイルの流れでも折り合うことを覚えたママコチャだからこそ、それよりも流れが速いスプリント戦ならなおのこと折り合えることができるし、かつジョッキーの意のままに動ける。今回の勝利は単にスプリント戦への適性の高さだけでなく、これまで場数を踏んできた千四、マイルの経験がしっかりと糧となって活きたものであり、マイル重賞での敗戦は無駄ではなかったと、池江調教師は語った。

次走は未定ながら「千二だけに囚われないで」と池江調教師

川田騎手も将来性を高く評価する短距離の新女王ママコチャ、次走はどのレースになるのか注目だ

 ソダシの全妹という血統背景、そして瞬く間にスプリント界の頂点に立ったことからもスター性は抜群のママコチャ。まだ4歳と若く、川田騎手も「とても良い背中をして、これから先も期待される馬だと思います。これからスプリントのレースを覚えていければ、もっと良い形で走れると思いますので、そのあたりも改善していければ」と将来性を高く評価している。この言葉通りなら、スプリント界の絶対女王として君臨する未来も見えてくるだろう。

 一方、池江調教師は「決して千四もダメじゃないと思っているんですよね。(2走前の安土城ステークスの)強烈なイメージが残っているので、千二だけに囚われないで馬の状態を確認しながら今後のレースを決めていきたい」と、距離を固定せずに柔軟な思考で距離選択していく意向を明かした。

 振り返ればソダシはマイルに固執せず、千八、二千、そしてダートとあらゆるカテゴリーに挑戦しており、単なるマイル女王にとどまらないチャレンジングな姿勢が多くのファンを魅了し続けている。その妹ママコチャも姉同様、一つの分野にとどまらず、あらゆる可能性に挑戦する姿を見せてくれるのかもしれない。