競馬あれこれ 第144号

ドバイWC馬ウシュバテソーロが米ダート競馬の最高峰に挑む ブリーダーズカップ4レースを展望

チーム・協会

米ダート最高峰制覇に期待が懸かるウシュバテソーロ 

ブリーダーズカップクラシック】有力馬の直前回避が続出、ウシュバテソーロとデルマソトガケの勝機拡大

ウシュバテソーロとデルマソトガケが参戦し、日本調教馬として初の米ダート最高峰制覇に期待が懸かるBCクラシックだが、1週前まで上位人気が濃厚と見られていたアルカンジェロやケンタッキーダービー馬メイジなど、決戦を直前に控えて有力馬の回避が続出。早くも波乱の様相を呈している。

本場の一流馬たちが脱落してしまったのは残念だが、ウシュバテソーロとデルマソトガケにとって想定より手薄になった相手関係は追い風。その一方で展開は読みづらくなった。

差し・追い込み型のウシュバテソーロはアルカンジェロが道標になるはずだったが、それが無くなってしまった。遠征前の日本テレビ盃は前々で受ける横綱相撲で圧勝しており、同じ形を取れるなら理想的ではあるものの、地方交流重賞アメリカのダートG1ではペースが違う。川田将雅騎手がどのような位置からレースをするかがカギとなる。

一方、先行したいデルマソトガケはKYダービーで失敗したゲートを決められるか。枠順(5番)は上々で、決めれば圧勝したUAEダービーのような逃げを打てる可能性もある。KYダービーで崩れずに走り抜いた気持ちの強さはあるだけに、最も力を出せる先行策で真価を発揮してほしい。

先行したいデルマソトガケにとって気になる存在はホワイトアバリオとアレイビアンナイト。ホワイトアバリオは前走のホイットニーSで軽快な逃げから圧勝している。内の3番枠でもあり、簡単に先手を許すと厄介だ。ただ、最も逃げにこだわるのはアレイビアンナイトかもしれない。4戦しかキャリアがなく、3勝は全て逃げ。唯一の黒星は先行争いに巻き込まれた結果で、外の12番枠からになった今回は単騎に持ち込むべく主張することも。

前走のホイットニーSを圧勝したホワイトアバリオ 

混戦で各馬が勝機ありと前のめりになるケースもめずらしくない。そうなればウシュバテソーロに願ったりかなったりだが、ゼンダンにとっても同じだろう。通算13戦3勝と勝ち切れない面がある一方で、3着から漏れたのも1回しかなく差し脚は堅実。その1回も不良馬場での4着だ。前走は1年半ぶりに白星を挙げてムードが良く、昨年末から春までサンタアニタパーク競馬場で騎乗していたL.デットーリ騎手の起用が新味を出せば面白い。

この他でG1実績があるのは、前走のペンシルベニアダービーで1着のサウジクラウンと1/2馬身差2着のドリームライクだが、前々走のジムダンディSでKYダービー馬メイジにハナ差の2着もあるサウジクラウンが、未勝利勝ちから直前の条件戦で5着でしかないドリームライクよりも着順通りに信頼性は高い。サウジクラウン陣営は早い段階からBCクラシックを意識しており、直近2戦の不良馬場から良馬場に変わってパフォーマンスを上げるようなら怖い。

ブライトフューチャーとプロクシーも前走のG1ジョッキークラブゴールドCで連対。ただ、1着のブライトフューチャーは重賞初制覇で、他に重賞出走歴が1戦しかなく今回は試金石。当時のJ.カステリャーノ騎手はアルカンジェロ(回避)、その前5戦で鞍上を務めたI.オルティスJr.騎手もホワイトアバリオを選択している。プロクシーはハナ差及ばずの2着も、春には今回と同舞台のG1サンタアニタHで2着。昨年はクラークSでG1勝ちの実績がある。

ミストザカットやクラプトン、セニョールバスカドールは実績や対戦成績から一枚落ちの印象だが、有力馬の回避でもつれる展開になれば活路があるかもしれない。

日本調教馬としてBCターフ初制覇を狙うシャフリヤール 

ブリーダーズカップターフ】強力欧州勢に挑むシャフリヤール、特殊なコースでアメリカ勢も侮れず

歴史的に欧州からの遠征馬が強く、近年はその傾向に拍車が掛かるBCターフだが、今年は10ハロン路線で最強のモスターダフ、英ダービーでワンツーのオーギュストロダンとキングオブスティール、凱旋門賞で3着のオネストなど例年以上に強力な印象。日本から初制覇を狙うシャフリヤールを含めた5頭が拮抗した関係と見る。

主催者想定の1番人気に推されているモスターダフは10ハロンがベスト。本来なら10月21日の英チャンピオンSが目標だったが、道悪を嫌ってBCターフへのスライド参戦を決めた。12ハロンでは5戦してG3の1勝のみという戦績だが、距離に道悪ほどの不安はないということだろう。3月のドバイシーマクラシックではイクイノックスを負かしにいくレースをした上でシャフリヤールに1馬身先着しており、同じように平坦でスピード優先のトラックなら、相応のパフォーマンスを期待できるはずだ。

シャフリヤールにとっては、このモスターダフを逆転することが当面の目標となる。ドバイでは先着されたが、こちらはゲートで後手を踏み不本意なレースを強いられたもの。通算5戦の12ハロン複勝圏からはずれたのもその1戦しかない。サンタアニタパーク競馬場の芝コースは全米屈指の高速トラックで、スピード勝負は望むところ。前走後に受けた喉頭エントラップメントの手術も効果が出ているようで、実力を発揮できれば十分にチャンスはある。

オーギュストロダンはシャフリヤールと同じディープインパクト産駒で、日英のダービー馬対決、そしてワンツー決着という大きな夢の一方を担っている。道悪の英2000ギニーや発表以上に馬場が重くなったキングジョージ6世&クイーンエリザベスSでは思わぬ大敗を喫したが、前走では10ハロンアイリッシュチャンピオンSを快勝。そうした面もスピードが身上のディープインパクト産駒らしい。

また、オーギュストロダンが空輸で結果を出せていないことを考慮し、A.オブライエン調教師は例年の当週火曜日から3日早めて土曜日(10月28日)にアイルランドを出発。現地入り後は順調に調整が進んでいるという。ともに参戦のボリショイバレエは前走を含めてアメリカの芝G1を2勝、ブルームも2年前のBCターフで2着の実績があり、3頭出しで隙のない態勢を整えてきた。

今年の英愛ダービー馬オーギュストロダン 

英ダービーでオーギュストロダンに屈したキングオブスティールは、英チャンピオンSから中1週の強行軍を克服できるか。L.デットーリ騎手への鞍上強化でG1初制覇を果たした前走からの流れは良く、状態次第で連勝も十分にあり得る。また、凱旋門賞で低評価に反発する快走を披露したオネストも、昨年はパリ大賞勝ちや愛チャンピオンSでの2着がある実力馬。復調なったなら再び侮れない存在となる。

遠征馬に押されている地元のアメリカ勢だが、今年の強力メンバーに対して白旗を揚げるのは早い。2012年から2022年までの11回で3勝しかしていないものの、いずれもサンタアニタパーク競馬場での開催という共通点がある。必然か偶然かは分からないが、スタートから坂を下り、ダートコースを横切る特殊な条件が影響している可能性はないか。馬だけでなく、騎手の経験値も見過ごせない。

アメリカ勢で上位を狙えるとすれば、芝に転向して底を見せていないアップトゥザマークと昨年のBCターフで3着のウォーライクゴッデス。アップトゥザマークは今回が初の12ハロンだが、これまで最長の10ハロン(G1マンハッタンS)が横綱相撲の危なげない勝ちっぷりで、脚が溜まれば末脚の威力が一段と増すことも。昨年に続き紅一点のウォーライクゴッデスは距離にこだわっての選択。牝馬限定のBCフィリー&メアターフ(10ハロン)より厳しい相手関係を選んだことに根拠がある。

その他のアメリカ勢は実績的にひと息で、小回りコースの紛れに恵まれるなどしない限り上位争いまでは難しいかもしれない。

主催者想定で1番人気に推されたソングライン 

ブリーダーズカップマイル】ソングラインとウインカーネリアン、前後二段構えで勝機うかがう

枠順抽選後に発表された主催者想定でソングラインが1番人気に推され、日本からの初制覇の期待も大きいBCマイル。しかし、兄妹制覇を狙うモージと夏から好調を維持しているマスターオブザシーズのゴドルフィン勢をはじめ、展開ひとつで結果も大きく変わりそうな多彩なメンバーが集まっている。馬券発売される4レースの中では最も難解と思われる。

10番枠のソングラインにとっては小回り1周のコースでポジショニングが難しいところ。小回りを意識して中途半端に脚を使い、位置を取れないまま最初のターンで外へ張り出されるロスは避けたい。しかし、すんなり先手というタイプではなく、あまり後方になっても終盤の攻防で後れを取りかねない。先行する有力馬をいつでも捕まえにいける位置が欲しい。

その目標となるのがモージだろう。先行力があり6番枠も上々。ソングラインは背後に潜り込んでマークする形を作れるか。4番枠に恵まれたウインカーネリアンはモージのさらに前、あるいは逃げられる可能性もある。モージが後ろを意識してじっくり乗ればウインカーネリアンに、小回りで早めの仕掛けになればソングラインにチャンスと、日本勢の二段構えになると理想的だ。

マスターオブザシーズはソングライン、モージとともに3強と見られているが、気性に難しさがあるため大外の14番枠が課題。積極的に位置を取りにいくと掛かり、前に壁を作ろうとすると後方に追いやられと、どちらを選ぶにもリスクが生じる。中団で馬群の外を走り続けたドバイターフでは、ゴール200m手前の1600m地点を待たずに失速した。

大外の14番枠が課題となるマスターオブザシーズ 

ソングラインとの比較ではカサクリードも争覇圏と見ておくべき1頭。昨年の1351ターフスプリントではソングラインの背後からクビ差に食い下がった。今年の4戦は全て3着以内、前走でG1勝ちと7歳ながら最も充実したシーズンを送っている。

また、シャールズスパイトも日本馬との比較が可能で、ドバイターフでダノンベルーガに2馬身少々の4着、セリフォスにはクビ差先着という力関係。昨年のBCマイルでは2番枠から中団の内ラチ沿いで息を潜め、直線では外に持ち出されて2着に食い込んだ。1番枠の今年も同じような組み立てをできる。

この2頭に挟まれて2番枠のジーナロマンティカは、芝馬の養成にかけてはアメリカきってのC.ブラウン調教師が管理。前走のファーストレディSでは同馬主の僚友インイタリアン(BCフィリー&メアターフに出走)を差し切って2度目のG1制覇とした。牡馬相手の重賞勝ちがなく、今回は挑戦者の立場だが、牝馬の活躍も目立つレースだけに一発あって不思議はない。

同じことはフランスから遠征のケリナにも言える。前走は好天に恵まれた凱旋門賞と同日のフォレ賞でG1初制覇。1/2馬身差の2着に下したキンロスには昨年のBCマイルでシャールズスパイトに次ぐ3着という実績がある。さらに1年前、日本からヴァンドギャルドが初参戦した2021年のBCマイル勝馬スペースブルースはフォレ賞から連勝を決めた。

残りの北米勢ではエグゾルテッドが5月にシューメイカーマイルS勝ち、デュジュールも3月にフランクE.キルローマイルで2着と、今回と同舞台のG1で連対。前走のG2デルマーマイルSではワンツーと地の利がある。マスターオブフォックスハウンズやアストロノマー、モアザンルックス、初めてカナダを出るラッキースコアらは、これまで戦ってきた相手より数段上がるレベルに対応できるか。

海外G1勝ちの実績があるウインマリリン 

ブリーダーズカップフィリー&メアターフ】日本勢2勝目狙うウインマリリン、強敵はインスパイラルとウォームハート

BCフィリー&メアターフは2021年にラヴズオンリーユーが日本調教馬として初のBC制覇を成し遂げた記念すべきレース。すでに結果を出しているだけに、日本の馬が通用するか否かを問うレースではないだろう。香港ヴァーズで海外G1勝ちの実績もあるウインマリリンには当然、勝ち負けの期待がかかる。

スピード優先のサンタアニタパーク競馬場ならウインマリリンの先行力が生きそうだ。昨年は外枠から積極果敢に逃げて2着に粘り込んだインイタリアンが今年は1番枠に入り、ゲートに失敗さえしなければ再び逃げるはず。5番枠のウインマリリンはつかず離れずの位置から追走し、捕まえるタイミングを計るレースとなるだろう。

ただ、インイタリアンの逃げ脚もなかなか強力。昨年の9.5ハロンから100ヤード延び、今回は初の10ハロン戦になるが、この時期には気温の低いケンタッキー州キーンランド競馬場から、太陽が降り注ぐカリフォルニア州サンタアニタパークに舞台が変わり、馬場が軽くなる分だけスタミナはもちそう。楽をさせると後続が捕らえ切れない可能性もある。

L.デットーリ騎手が騎乗する英国のインスパイラル、R.ムーア騎手が手綱を取るアイルランドのウォームハートも手強い実力馬。前者はマイル路線から、後者は12ハロン路線から今回の10ハロンに臨むためポジショニングが判然としないが、昨年はムーア騎手のチューズデーがインイタリアンを差し切っており、ウォームハートが展開の鍵をにぎる存在となるか。ただ、インスパイラルが初の10ハロンを問題にしなければ、マイルG1でも一枚上の瞬発力で次元の違う勝ち方をしてしまうかもしれない。

マイルG1を5勝しているインスパイラル 

日本の競馬ファンにとってはルミエールロックも興味を引かれる1頭だろう。ディープインパクト産駒の英2000ギニー馬サクソンウォリアーを父に持ち、前走は凱旋門賞と同日のG1オペラ賞でフランス二冠牝馬ブルーローズセンから1馬身少々の3着に逃げ粘った。今回は道中でウインマリリンの近くにいる可能性が高い。サクソンウォリアー産駒はヴィクトリアロードが昨年のBCジュベナイルターフを勝っており、アメリカでも結果を出している。

年明けにドバイで重賞を連勝したゴドルフィンのウィズザムーンライトは、今回も対戦する北米勢に近走で完敗しており勝ち切るまでは難しいか。ステートオケージョンはオペラ賞でルミエールロックと差のない5着だが、直線の加速でやや後れを取った。さらにスピードを求められるアメリカの芝では前が崩れる展開などの助けがほしい。

北米勢は前述のインイタリアンが頭ひとつリードしている印象だが、南米出身で今回と同舞台の前哨戦を勝ってきたディディア、仏1000ギニー2着の実績があり、前走はBCマイル有力馬のモージにも迫ったリンディーの勢いも魅力。昨年のカナダ年度代表馬モイラ、これに今年は勝ち越しているフェヴローバーにも上位争いの力がある。

前走が道悪のG3勝ちで見落とされそうなマキューリックも侮れない。4走前のニューヨークSではディディアに先着されたが、勝ち馬が逃げ切る展開で最後方を追走した結果。次戦のグレンフォールズSはウォーライクゴッデス(BCターフに出走)が得意とする12ハロンで差し切っており、末脚が生きる展開になれば見せ場以上も。