冬の中山で復活!
ホワイトストーンの逃走劇から30年
「あなたのベストレースは?」というアンケートを取ると、必ず上位にランクインされるのが90年の有馬記念だ。そう、オグリキャップが奇跡の復活を遂げたラストランである。しかしながら、オールドファンでも当時の1番人気を即答できる人は少ないのではないか。オグリキャップは5.5倍の4番人気。2着のメジロライアンは4.7倍の3番人気だった。答えは今回の主役、ホワイトストーンだ。
春のクラシックを終えた時点でのホワイトストーンは、善戦キャラに過ぎなかった。弥生賞3着、皐月賞8着、NHK杯3着、ダービー3着。トライアル→本番→トライアル→本番と“フル参戦”しながら、なかなか勝利に手が届かない。それでも秋初戦のセントライト記念で重賞初制覇を果たし、遂に“最強の1勝馬”の称号を返上。続く菊花賞でもメジロマックイーンの2着となって、翌年以降の中長距離戦線を同期の“メジロ2頭”マックイーン&ライアンとともに引っ張っていくことが期待された。
ところが、古馬になって以降のホワイトストーンは精彩を欠く。年明け初戦の産経大阪杯こそ勝ったが、天皇賞・春は6着、宝塚記念は4着。GIで掲示板が精いっぱいなら、GIIやGIIIでも勝利に手が届かない。そして最後の勝利から1年10カ月、6歳の始動戦に選んだのが93年のAJCCだった。前年の有馬記念で2着だったレガシーワールドが、単勝オッズ1.4倍で圧倒的な1番人気。2番人気はシャコーグレイド、3番人気はレオダーバン。ホワイトストーンは多くのファンから“終わった馬”と判断されて、単勝12.5倍の6番人気に甘んじていた。しかし、ここで低評価に反発するかのように意地を見せる。他に逃げたい馬がいないとみるや、1コーナーでハナへ。結果的にこれが柴田政人騎手の好判断だった。リズム良く、淡々としたラップを刻むと、最後まで脚色が衰えることなく、2着のレガシーワールドに2馬身半差の完勝。小雨が降る中山競馬場は祝福の大きな拍手に包まれたのだった。
この一戦で全てを出し尽くしたのか、その後は勝利を挙げることなく、7歳の札幌記念(10着)を最後に引退。種牡馬となったが、98年に小腸癒着によって12歳で急逝した。その血を引く現役馬は残っていない。しかしながら、冬の中山で見せた復活劇は、30年が経った今でもファンの脳裏に焼き付いている。