競馬あれこれ 第154号

香港国際競走回顧】地元勢の強さは健在、日本勢は一歩及ばず

チーム・協会

香港カップではヒシイグアスが接戦を演じた 

現地時間12月10日、香港・シャティン競馬場で4つの国際レースが行われた。

香港ヴァーズ(G1)に出走を予定していたシャフリヤール(栗東藤原英昭厩舎)こそ回避となったものの、13頭の日本馬がここに挑戦した。

快晴で最高気温27度と汗ばむ陽気の中、行われた今年の香港インターナショナルレース。第2レース終了後には国際競走4つに騎乗するジョッキーがパドックで紹介され、その後、第4レースの香港ヴァーズ(G1、芝2400メートル)で幕が開けた。

日本勢全体でも最高位の2着となったゼッフィーロ(左) 

UAEからオーストラリア回りで参加のウエストウインドブローズが回避となり、8頭で行われたここに出走した日本馬はゼッフィーロ(牡4歳、栗東池江泰寿厩舎)、ジェラルディーナ(牝5歳、栗東・斉藤崇史厩舎)、レーベンスティール(牡3歳、美浦田中博康厩舎)の3頭。JRAだけでなく、現地でも圧倒的1番人気に推されたのがレーベンスティール。現地入り後、スクみが出たとの事で、追い切りは異例の金曜日となった。

ゲートが開くと地元のラシティブランシュがハナに立ち、前半1分18秒44という超スローペース。8頭がひと塊となった。日本勢はジェラルディーナが3番手のイン、真ん中にレーベンスティールがいてその後ろのインにゼッフィーロという位置取り。この遅い流れを我慢し切れないように3コーナー過ぎではウォームハートが2番手から先頭へ。アイルランドの伯楽A.オブライエン調教師が送り込んで来た名牝は、地元ヨーロッパでは57キロを背負ってヨークシャーオークス(G1)を、56キロでヴェルメイユ賞(G1)をいずれも優勝。今回の53キロは裸同然と思えた。同馬の進出に危機感を覚えたか、後方にいたジュンコの鞍上でM.ギュイヨン騎手が盛んに手を動かして大外から前との差を詰める。

日本勢は?というとジェラルディーナをかわしてレーベンスティールが3番手に上がったが騎乗しているJ.モレイラ騎手の手応えはあまり良く見えない。むしろ後方からインを突いたゼッフィーロは進路が開けば弾けそうな手応え。

直線ではウォームハートが一旦抜け出すのと対照的にレーベンスティールは早々に後退。かわって大外から上がって来たのがジュンコで、併せるようにその内から伸びたのがゼッフィーロ。結局その2頭がウォームハートをかわしたが、ジュンコの脚色が優り、真っ先にゴール。勝ち時計は2分30秒12で、1馬身差の2着がゼッフィーロ。更に2 1/4馬身遅れた3着にはウォームハートが粘り込んだ。

勝ったジュンコはフランスで30回のリーディングトレーナーの座に輝くA.ファーブル調教師の管理馬。以前は中距離を中心に使われていたが、2400メートル戦線に路線を変更してから安定感が増し、前走のバイエルン大賞(G1)に続くG1連勝。戦前は持ち時計がない点で、欧州の重い馬場向きと評価する声も聞こえたが、2400メートル路線はやはりヨーロッパ勢が強いところを証明する結果となった。

ジェラルディーナは4着で、レーベンスティールはまさかの最下位8着。これが実力とは思えず、やはりレース前に順調さを欠いたのが響いたのかもしれない。

香港スプリントは香港勢が5位までを独占した 

第5レースは香港スプリント(G1、芝1200メートル)。地元香港勢が圧倒的に強いこの路線に果敢に挑んだ日本馬はマッドクール(牡4歳、栗東池添学厩舎)とジャスパークローネ(牡4歳、栗東森秀行厩舎)。

ゲートが開くと予想通りビクターザウィナーが抜群のスタートを決めハナへ。しかし、それをかわして日本のジャスパークローネが先頭に立って逃げる形。2番手にビクターザウィナーで、その少し後ろに1番人気のラッキースワイネス。春の短距離王決定戦であるチェアマンズスプリントプライズ(G1)の勝ち馬だ。マッドクールはその後ろで、昨年の覇者ウェリントンは更に後ろという展開。

直線に向くとジャスパークローネを捉えてビクターザウィナーが先頭に。ゴールまで300メートルを切って同馬が一度抜け出しにかかるが、その後ろに上がって来たのがラッキースワイネスで、更に後方からインを突いて上がって来たのがこれも地元のラッキーウィズユー。最後はビクターザウィナーの脚が上がり、ラッキースワイネスとラッキーウィズユー、そしてウェリントンがかわし、そのままの着順でゴールイン。勝ち時計は1分9秒25。

ラッキースワイネスは実績馬だが、2着のラッキーウィズユーは条件戦から果敢に挑戦して来た馬。それが2着する事でこのカテゴリーの香港勢の強さが改めて示された。ちなみに日本勢はジャスパークローネが7着でマッドクールは8着に敗れた。

ゴールデンシックスティが史上2頭目となる香港国際競走における同一レース3勝の快挙を達成 

1レースあけて第7レースで行われたのが香港マイル(G1、芝1600メートル)。ここにはセリフォス(牡4歳、栗東中内田充正厩舎)、ソウルラッシュ(牡5歳、栗東池江泰寿厩舎)、ダノンザキッド(牡5歳、栗東安田隆行厩舎)、ディヴィーナ(牝5歳、栗東友道康夫厩舎)、ナミュール(牝4歳、栗東高野友和厩舎)と5頭もの日本馬が参戦。地元馬6頭に匹敵するこれら日本勢の他、アイルランド 、フランス、シンガポールからの参戦もあり、国際色豊かな14頭がマイル王を競った。

1番人気はゴールデンシックスティ。ここ3年、当レースで1、1、2着。2年ぶり3度目の優勝を目指す同馬は、春にはチャンピオンズマイル(G1)を制覇。依然王者として君臨しているが、今回はそれ以来、約7ヵ月半ぶりの実戦がどう出るか注目された。

スタートが切られるとフランスのトリバリスト、アイルランドのカイロ、これに加え昨年の覇者カリフォルニアスパングルらが先行争い。ダノンザキッドがすぐその後ろ。ゴールデンシックスティは中団で、その後ろにディヴィーナ、セリフォス、ソウルラッシュ、ナミュールといった日本勢が続いた。

直線に向き、外から先頭争いに上がって来たのがゴールデンシックスティ。4コーナーを回り切ったあたりで少し内にササるシーンがあり、一瞬モタついたが、そこからエンジンがかかると一気に加速。直線半ばでは完全に抜け出すと、1分34秒10の時計で真っ先にゴールに飛び込んだ。

1馬身半差の2着には好位を上手く立ち回ったヴォイッジバブル。ナミュールとソウルラッシュが最後に追い上げて3、4着となった。

「この馬のモンスターぶりを改めてお見せ出来て、僕も感動しています」

8歳となったゴールデンシックスティを、またも戴冠に導いたC.ホー騎手は嬉しさの中にも安堵を感じさせる表情で、そう語った。

史上2頭目香港カップ連覇を果たしたロマンチックウォリアー 

4つの国際レースの中でもメインとして行われたのが第8レースに組まれた香港カップ(G1、芝2000メートル)。

こちらの日本馬はヒシイグアス(牡7歳、美浦堀宣行厩舎)、プログノーシス(牡5歳、栗東中内田充正厩舎)、ローシャムパーク(牡4歳、美浦田中博康厩舎)の3頭。それらをさし置いて、JRAプールでも圧倒的1番人気に支持されたのがロマンチックウォリアー。ディフェンディングチャンピオンであり、春にはクイーンエリザベス2世カップ(G1、以下QE2)を優勝。前走ではオーストラリアのコックスプレート(G1)をも勝っている香港が生んだ歴史的名中距離馬だ。

これに次ぐ人気に推されたのがプログノーシス。QE2ではロマンチックウォリアーの2着。他の日本勢もヒシイグアスは一昨年の2着馬だし、ローシャムパークは重賞連勝中という事で、いずれも軽視は禁物と思えた。

レースはマネーキャッチャーら地元勢が引っ張る形で幕を開けた。ロマンチックウォリアーは好位の4番手。アイリッシュチャンピオンS(G1、芝2000メートル)を昨年勝利し、今年は2着だったルクセンブルクが中団で、ヒシイグアスがそのすぐ後ろ。ローシャムパークは後方で、プログノーシスは11頭の最後方からレースを進めた。

1200メートルの通過タイムは1分15秒07と遅め。3コーナーでは我慢し切れないという感じで外からロマンチックウォリアーが進出。早々に先頭を伺うと、追従するようにルクセンブルクとヒシイグアスも前との差を詰める。

直線に向くと早目に抜け出したロマンチックウォリアーが振り切るかと思えたが、ルクセンブルクとヒシイグアスが迫り、馬体を並べる。一方、プログノーシスは追い込み馬の宿命か、馬群を捌きつつ伸びては来たが5着までで、ローシャムパークに至っては8着が精一杯。結果、ロマンチックウォリアーがなんとか粘り切り、短アタマ差でルクセンブルクが2着。ヒシイグアスは健闘も、勝ち馬からクビ差の3着に終わった。勝ち時計は2分2秒ジャストで、3着までが0.05秒内でのゴールとなった。

「オーストラリアからの帰国初戦だったけど、勝ててホッとしています。本当にこの馬には頭の下がる思いです」

名コンビのJ.マクドナルド騎手は満面の笑みでそう語った。

日本馬13頭は残念ながら先頭でゴールする事は出来なかった。しかし、これをスプリングボードとして、いずれまた活躍する日が必ずや来ると信じて今回の観戦記は終わりとしよう。