競馬あれこれ 第112号

ソングライン史上2頭目の快挙! ウオッカ以来のVMから連勝で安田記念連覇

 
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戸崎圭太騎手騎乗のソングラインが史上3頭目安田記念連覇、そして史上2頭目ヴィクトリアマイル安田記念連勝を達成した 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 第73回GI安田記念が6月4日、東京競馬場1600メートル芝で行われ、戸崎圭太騎手騎乗の4番人気ソングライン(牝5=美浦・林厩舎、父キズナ)が優勝。中団追走からゴール直前で一気の差し切り勝ちを決め、昨年に続き安田記念連覇を達成するとともに春のマイル王の座に就いた。良馬場の勝ちタイムは1分31秒4。

 ソングラインは今回の勝利で通算15戦7勝(うち海外2戦1勝)、GIレースは2022年安田記念、23年ヴィクトリアマイルに続き3勝目。安田記念連覇は1984グレード制導入以降、ヤマニンゼファー(1992年、93年)、ウオッカ(2008年、09年)に続く史上3頭目となった。また、騎乗した戸崎圭太騎手は11年リアルインパクト以来となる安田記念2勝目、ソングラインを管理する林徹調教師は22年に続く同レース2勝目となった。

 また、1馬身1/4差の2着にはダミアン・レーン騎手が騎乗した3番人気セリフォス(牡4=栗東・中内田厩舎)、さらにアタマ差の3着にはクリストフ・ルメール騎手騎乗の1番人気シュネルマイスター(牡5=美浦・手塚厩舎)が入った。

強烈すぎた末脚、文句なしの最強マイラー襲名

ゴール直前、外からソングライン(前列ピンク帽)が切れ味抜群の末脚でまとめて差し切った 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 GI馬が10頭も集結し、史上稀にみるハイレベル決戦となった今年の安田記念を、まさに力でねじ伏せた。ソングラインが2着セリフォスにつけた着差は、決定的とも言える1馬身1/4。流れが向いたわけでもなく、恵まれたわけでもない。誰にも文句を言わせない、現役最強マイラーの襲名だったと言っていいだろう。

 レースは大外8枠18番からのスタート。極端な外枠となったが「スタートが決まって、ポジションもいいところに収まりました。いい形で行けましたね」と戸崎騎手。ジョッキーが振り返ったように、好発を切った後は内枠の各馬を見ながら徐々にポジションを下げ、無理なく中団の外をキープ。「手応えも抜群でした」と、鞍上との折り合いもバッチリに道中をソツなく運ぶことができた。

 あとはいかにして、府中GIを2度制した自慢の差し脚を直線で爆発させるか――なのだが、この末脚があまりにも強烈だった。

「直線で追い出してからも良い反応で、素晴らしい伸びだったと思います。しっかりと伸びてくれるのがこの馬の武器。良いパフォーマンスを見せられたのではないかなと思います」

 2番手から先に抜け出したのは、武豊騎手のジャックドール。それを目掛けて、インの好位からレーン騎手のセリフォスが襲い掛かり、ゴールまで残り100m付近でようやく競り落とした……と思ったのも一瞬、その外からピンク帽が並ぶこともなく抜き去った。そして、ゴールまでのわずか100mの間でソングラインはさらに突き離して1馬身1/4もの差をつけてしまったのだから、戸崎騎手の言う「武器」の威力がこれだけのメンバーを相手にしてもなお、1枚も2枚も上だったのだ。

「前走より状態は上」中2週でも“攻めた”調教の成果

中2週でも“攻め”の調教で状態アップ、林調教師(左から2人目)をはじめ厩舎スタッフの手腕が光った 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 昨年の安田記念、今年のヴィクトリアマイルを勝ち、また、3歳時にはNHKマイルカップで2着など、現役屈指の府中マイル巧者であることは知られたところだったが、それにしてもここまでの完勝劇とは恐れ入った。ソングライン自身の能力、それを120%引き出した戸崎騎手の騎乗など、この完ぺきなまでの勝利の要因はいくつかあると思うが、やはりもとをたどっていくと、何よりもソングラインの出来に一番の勝因があるのだろう。ヴィクトリアマイルから中2週という決して楽ではないローテーション。その中で林調教師はじめ厩舎スタッフは現状維持を望むのではなく、さらなる状態アップを求めて中間の調教を“攻めた”という。そこまでやらなければ、今年の安田記念は勝てない――そして、その強気の調整過程で得た成果は、追い切りにも騎乗した戸崎騎手が誰よりも実感していた。

「中間の追い切りも乗せていただいて、ヴィクトリアマイルよりも状態がさらにアップしているんじゃないかなという感触を得ていました。本当に自信をもって乗せていただきました」

 当日の天気、馬場状態に差があるために単純な比較はできないのだが、今回の安田記念の勝ち時計1分31秒4は、ヴィクトリアマイルの1分32秒2より0秒8も速い決着だった。入りの600mが両レースとも同じ34秒2でも、600mから1000mにかけて2ハロンのラップが連続で12秒台に落ち着いた前走と違い、この安田記念は緩むことなく11秒台を計測。ヴィクトリアマイルよりもタイトに流れたレースでありながら、ソングラインは前走を上回るパフォーマンスを、並みいる牡馬・3歳のGI馬を相手に発揮してみせた。同じローテーションで安田記念初Vを決めた昨年の経験がもとになっているのだろうとは思うが、そこから1年経って、またさらにソングラインを進化させたあたり、林厩舎、戸崎騎手の仕上げの手腕は見事と言うしかない。

アーモンドアイ、グランアレグリア超えの偉業

秋は米ブリーダーズカップマイル挑戦も視野、さらなるソングラインの活躍に期待したい 【Photo by Kazuhiro Kuramoto】

 安田記念連覇は92年・93年のヤマニンゼファー、08年・09年のウオッカ以来、グレード制を導入した84年以降では史上3頭目。これだけでもどれほどの快挙かということが分かるが、もう一つ付け加えるならば、同一年のヴィクトリアマイル安田記念を連勝したのも09年ウオッカ以来、史上2頭目の偉業だ。同じローテを歩んだアーモンドアイ、グランアレグリアさえもできなかったことを、ソングラインがこの2023年春の東京GI連続開催のフィナーレで飾ったのだから、競馬ファンは歴史の1ページをその目で見たことになる。

 春の古馬マイルGIを文字通り“完全制圧”した国内最強マイラーの、次なる狙いとなる秋のレース。これまでの常識からすればマイルチャンピオンシップだが、すでに報道に出ている通り、ソングラインを所有するサンデーレーシング吉田俊介代表は米ブリーダーズカップマイルへの挑戦を視野に入れているという。昨年もBCマイル遠征プランはあったものの、喉のアクシデントにより断念しただけに、2年越しとなる米競馬最高峰へのチャレンジはぜひとも実現させてほしい。そして、それが単なる挑戦では終わらないであろうことは、「ここに来て、ソングラインはまた一段、二段と強くなっている感じがします」と明かす戸崎騎手の言葉からも期待ができるというものだ。

 馬名の意味は「オーストラリアに伝わる道の名。祖先の足跡」。すでに競馬史に残る偉業を残したソングラインがこの先、刻む足跡はどこへと続くだろうか。まだ誰も見ていない“道の名”をきっと、この秋に見せてくれるはずだ。

 

 

 


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