競馬あれこれ 第111号

競走馬・スキルヴィング 最期の瞬間に見たクリストフ・ルメール騎手の優しさ まるで人間が倒れるときと同じような最期の姿

 

5月28日に東京競馬場で行われた3歳馬の祭典・第90回日本ダービーで2番人気だったスキルヴィング。鞍上はクリストフ・ルメール騎手。

出だしこそ順調に見えましたが、レース途中から走行が危うくなったスキルヴィングは17着でゴールをし、直後、そのまま崩れ落ちるようにして馬場に倒れこみました。その後車で搬送されましたが、間もなく死亡が確認されました。JRAの発表によると、死因は急性心不全とのこと。

僕は当日夜のニュースでその最期の映像を見ました。レース途中からスキルヴィングの異変に気が付いたルメール騎手は、追うのを止めて、優しく励ますようにして徐々にペースダウンしながらも2400メートルを完走しました。そしてスキルヴィングは、ルメール騎手を怪我させず無事に降ろしたことに安堵し、力尽きて旅立ったかのようにも見えました。

まるで人間が急性心不全で倒れるときと同じような最期の姿。あまり長く苦しまなかったことがせめてもの救いです。

たとえこのとき命が助かっていても、歩けなくなればおそらく翌日には安楽死という選択肢しかなかったはずですから。競走馬の寿命は25歳前後といわれています。馬齢3歳は人間でいえばまだ二十歳前といったところでしょう。若いです。

競馬好きの患者さんから聞いた話によれば、急性心不全で突然死する競走馬は意外に多いのだそうです。年々増えてもいるのだとか。

寿命を全うし老衰で亡くなることは、なかなか難しいようです。レースや調教中に事故で骨折などをした場合は、薬物によって安楽死させられます。先のディープインパクトも、そうでした(個人的にはここで安楽死という言葉はあまり使いたくないのですが)。

運よく、怪我も病気もせずに競走馬人生を全うして引退となった場合は、成績のいい馬であれば繁殖用となり、それほどの名馬でない場合は、乗馬クラブなどに販売されるか、もしくは屠殺され動物の飼料などになることも。

残酷でしょうか。かわいそうでしょうか。しかし「かわいそうな最期」ではない動物など、果たしてどのくらいいるのかなと考えてしまいます。そう、人間も含めて。

馬とは、人間にとって「経済動物」。その「馬生」は、人間の人生と同じくらい過酷でもの悲しい。だからでしょうか、僕は馬の姿を間近で見るとせつなさがこみ上げて泣きそうになってしまう。

最期の瞬間、スキルヴィングが見たものは、ルメール騎手のやさしさだったはずです。

 

 

 


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