競馬あれこれ 第186号

オークス】人馬ともに復活の樫舞台! チェルヴィニア豪脚一閃、ルメール騎手「本当の彼女を見せてくれた」

 

3歳樫の女王決定戦・オークスルメール騎手騎乗のチェルヴィニアが優勝、桜花賞13着からの大逆襲だった 

 3歳樫の女王決定戦、第85回GI優駿牝馬オークス)が5月19日に東京競馬場2400m芝で行われ、クリストフ・ルメール騎手騎乗の2番人気チェルヴィニア(牝3=美浦・木村厩舎、父ハービンジャー)が優勝。中団追走から大外を豪快に伸び、桜花賞13着から大逆襲を果たした。良馬場の勝ちタイムは2分24秒0。

 チェルヴィニアは今回の勝利でJRA通算5戦3勝、重賞は2023年アルテミスステークスに続く2勝目。また、騎乗したルメール騎手は2017年ソウルスターリング、18年アーモンドアイ、22年スターズオンアースに続くオークス4勝目。同馬を管理する木村哲也調教師はオークス初勝利となった。

 なお、桜花賞馬ステレンボッシュ(牝3=美浦・国枝厩舎)は半馬身差の2着に敗れ二冠制覇はならず。さらに1馬身3/4差の3着には坂井瑠星騎手騎乗の3番人気ライトバック(牝3=栗東・茶木厩舎)が入った。

騎手、厩舎、ファンが復活を信じていた

桜花賞13着ながらオークスは2番人気の支持、ファンの期待に応える走りをチェルヴィニアは見せてくれた 

「前走の内容を考えれば、今回2番人気というのはビックリしました」

 木村哲也調教師ですら予想外だったというオークス当日の支持率。単勝オッズの数字はファンの期待度の表れでもあると思うが、それだけ多くの人たちが衝撃的だった昨年の未勝利戦、そしてアルテミスステークスで見せたチェルヴィニアの底知れない能力を信じていた。もちろん、それは当のチェルヴィニア陣営も同じ。まさかの桜花賞13着惨敗からここまでの道のりを振り返り、トレーナーは噛みしめるように語った。

桜花賞では厩舎スタッフ、牧場スタッフも含めてすべての関係者が悔しい思いをしました。そこからまた頑張るぞと前に進むのは非常に困難な作業ですが、みんなが立ち向かってくれた。本当にスタッフの皆さんには感謝しかないですし、最大の尊敬と敬意を表したいです」

 そしてもう一人、チェルヴィニアの復活を何よりも信じていた人物こそが、そう、主戦のルメール騎手だ。

「追い切りを見た時に、やっぱり彼女は強い馬だなと思いましたし、手応えも良くて、コンディションも良さそうでした。前走の桜花賞は休み明けで18番スタートだったからずっと大外を回る残念なレース。でも、彼女のポテンシャルは高いと思っていたので、自信を持って乗りました」

ステレンボッシュの二冠を断ち切る豪快差し

チェルヴィニアは大外を豪快に伸び、先に抜け出したステレンボッシュをゴール寸前で差し切った 

 レースはヴィントシュティレとショウナンマヌエラの2頭がグングン飛ばす展開となり、前半1000mはなんと57秒7。2400mとしては超がつくハイペースにスタンドからは大きなどよめきの声が上がったが、離れた3番手以降は縦長とはならず団子状態。むしろこの3番手以降は「そんなに速くないペース」とルメール騎手も証言する中、戸崎圭太騎手に乗り替わった桜花賞馬ステレンボッシュは中団馬群のイン、その外をチェルヴィニアが追走する位置取りとなっていた。

「2400mだから軽く乗って、3、4コーナーまでは我慢したいと思っていました。ずっとハミを取っていましたが、前に壁があったので馬は落ち着いていましたし、息もよく入っていましたね」

 そうして迎えた最後の直線、ルメール騎手とチェルヴィニアは迷わず外への進路を選択。馬群をこじ開けてインからいち早く抜け出していた桜花賞馬目掛けて真一文字の伸び脚を繰り出すと、ゴール寸前でステレンボッシュの二冠の夢を断ち切った。

「直線はすごく良い脚で伸びてくれた。本当のチェルヴィニアの走りを見せてくれましたね。まずスタミナがあると思いますし、返し馬の時は柔らかいのに競馬の直線ではすごくパワフルな走りになる。このスタミナと走り方のコンビネーションでトップレベルの走りをする馬です」

ドバイでの落馬負傷から復活アピールの今年GI初勝利

ドバイでの落馬負傷を経て今年GI初勝利のルメール騎手、支えてくれた奥さんに感謝の言葉を送った 

 素質にほれ込んだパートナーの復活に目を細めたルメール騎手だったが、自身にとっても復活の舞台となった。3月30日のドバイターフで落馬負傷し、およそ1カ月にわたって戦線離脱。5月5日に復帰以降、NHKマイルカップヴィクトリアマイルとGI連続2着でさすがの存在感を見せていたが、今年のGI初勝利で完全復活をアピールしたと言っていい。

「奥さんとドクターのおかげで勝つことができました」と、ルメール騎手は支えになった人たちの名前を挙げて感謝の言葉を述べた一方、自身のケガそのものについてはことさら大げさに言うつもりはない。それは落馬事故のために4月10日に亡くなった藤岡康太騎手を思ってのことだった。

「自分のケガはあまり関係ないですね。これが騎手の生活です。藤岡康太くんと家族はもっと大変でしたから……。僕のケガはあまり関係ありません」

ルメール騎手&木村厩舎の黄金タッグ、ダービーでも

次週のダービーはレガレイラで挑むルメール騎手と木村厩舎、2週連続Vへ期待が膨らむ 

 人馬共に苦難の時期を乗り越えてつかんだ樫のタイトル。2016年のオークス2着だった母チェッキーノの無念も晴らした孝行娘は秋に向けて充電期間に入るだろう。「入厩して最初に動きを見た時から凄かった馬」と木村調教師が最大級に評価する素質馬のさらなる成長、そしてステレンボッシュアスコリピチェーノとの秋決戦が今から楽しみで仕方ない。

 一方、ルメール騎手&木村調教師の黄金タッグには次週、もう一つの大仕事が待っている。それはもちろん、レガレイラで挑む日本ダービーだ。皐月賞6着からの反撃を狙うシチュエーションはオークスと同じ図式にも見えるが、牝馬でのダービー参戦という高い壁を思えばより大きなチャレンジになることは間違いない。だが、昨年はイクイノックスで世界を席巻し、今またチェルヴィニアを鮮やかに蘇らせたコンビの手腕を目の前で見せられてはダービーも……と思ってしまう。

「来週のダービーはまた牝馬で頑張りたいです。ベストコンディションでいい結果を出せると思います」

 ルメール騎手のまっすぐな言葉が実に頼もしく聞こえる。