競馬あれこれ 第189号

安田記念】ラスト1ハロンに世界レベルの脚を見た――香港馬ロマンチックウォリアーが日本でも躍動、3カ国目のGI・8勝目 

香港から参戦したロマンチックウォリアーが安田記念優勝、世界レベルの実力を見せつけた 

 春のマイル王決定戦・第74回GI安田記念が6月2日、東京競馬場1600m芝を舞台に争われ、香港から参戦したジェームズ・マクドナルド騎手騎乗の1番人気ロマンチックウォリアー(せん6=香港・シャム厩舎、父Acclamation)が優勝。好位5番手から力強く馬群を突き抜け、ワールドクラスの実力を見せつけた。やや重馬場の勝ちタイムは1分32秒3。

 ロマンチックウォリアーは今回の勝利で通算20戦15勝、GIは2023年香港カップ(香港)、同コックスプレート(豪州)などに続き8勝目。香港馬による安田記念勝利は2006年ブリッシュラック以来18年ぶり4頭目となった。

 なお、半馬身差の2着には武豊騎手騎乗の4番人気ナミュール(牝5=栗東・高野厩舎)、さらにハナ差の3着にジョアン・モレイラ騎手騎乗の2番人気ソウルラッシュ(牡6=栗東・池江厩舎)が入った。

「自分が今まで騎乗してきた馬の中でも特別な馬」

ロマンチックウォリアーの主戦・マクドナルド騎手はオーストラリアのシドニー地区で7度のリーディングを獲得する世界的名手 

 これが香港最強馬の脚――いや、昨秋にはオーストラリア最強決定戦の1つ、コックスプレートを制しているのだから「香港最強」と限定してしまうのは、もはやロマンチックウォリアーに対して失礼な形容詞にあたるのかもしれない。これが3カ国目のGIタイトルで通算8勝目。アジアを飛び越え、まさしくワールドクラスの能力をここ府中マイルで披露した。

「大変誇りに思っています。このような優れた馬と一緒に来日できたことを名誉に思いますし、日本の熱意あるファンの皆さんの前でロマンチックウォリアーの走りを見せることができて嬉しく思っています。また、調教師、スタッフはじめ陣営のみんながいい仕事をしてくれました」

 競馬の勝負服から薄いグレーのスーツ、白シャツにピンクのネクタイというスタイルにチェンジして共同会見に臨んだマクドナルド騎手。ニュージーランド出身の32歳、オーストラリアを主戦場に置きシドニー地区で7度のリーディングタイトルを獲得、GIレースも通算100勝が目前に迫っているという。日本のファンにとっては2015年豪州GIジョージライダーステークスリアルインパクトを勝利に導いた騎手と言えば、ピンと来る人も多いだろう。また、2022年にはライアン・ムーアウィリアム・ビュイックらを抑えてロンジンワールドベストジョッキーにも輝いた。

 そんな世界的名手をして「自分が今まで騎乗してきた馬の中でも特別な馬」と言わしめるロマンチックウォリアー。その強さは、競馬を見る目が肥えている日本のファンの脳裏にも鮮烈に焼き付いたに違いない。

残り1ハロンから末脚全開、一気に後続を突き放した

残り200mからが圧巻、一気の加速で後続馬をアッという間に突き放した 

 レースはハナを切る勢いでゲートを飛び出す好スタートから、スッと控えて好位5番手の馬群の中、折り合いもスムーズにリズムよくラップを刻んでいた。

「展開としては完ぺきだったと思います。レース前のプランでは中団よりも前に行こうと思っていました。すごくいいスタートを切れましたし、ポジションも良かったですね。レース前から馬はすごく気合が入っていたので『今日はやる気だな』と感じていましたし、道中は本当に上手く運ぶことができました」

 4コーナーから直線入り口にかけては、前週の日本ダービーを好騎乗で制した横山典弘騎手が手綱を握るステラヴェローチェから相当のプレッシャーを掛けられインに押し込められそうになった。だが、これを跳ね返してからの残り1ハロンが圧巻だった。

「確かに外からのプレッシャーは感じていたので、数歩待ってから追い出しました。ただ、ロマンチックウォリアーの最後の脚について来られる馬はなかなかいませんからね。最後の1ハロンは全力疾走で頑張ってもらいました」

 この言葉を裏付けるように、前方の視界がクリアになった残り300mからジワジワと前を行く2頭、ウインカーネリアン、フィアスプライドに並びかけると、残り200mの標識から末脚全開。一気に先頭へと突き抜けると、瞬く間に後続を引き離した。外からソウルラッシュ、さらに大外からメンバー最速の上がり32秒9の脚で昨秋のマイル女王ナミュールが強襲するも、半馬身まで迫るのが精いっぱい。内容としては文句なしの完勝と言っていい。

マクドナルド騎手、喜び爆発のウイニングラン

喜び爆発のウイニングラン、このシーンを見てファンになった人も多いはずだ 

「今回のレースで彼がチャンピオンだということが証明できたと思います。タフな状況でもしっかり対応してくれますし、オーストラリアのコックスプレート香港カップなど相手が強い中でも勝ち抜いてくれました。今回の1600mはベストの距離よりも少し短いと思いますが、そうしたいかなる状況にも立ち向かってくれる馬。本当にハートが強くて、能力がある馬だと思います」

 また、マクドナルド騎手自身にとっても日本での初勝利となるメモリアルな1勝。ウイニングランでは右手、左手を何度も突き上げ、「歓声をもっと聞かせて!」とばかりにハルク・ホーガンのように耳に手をあてるパフォーマンスも見せた。そんな喜び爆発のシーンを見てホッコリとしたファンも多いことだろう。

「名誉あるレースで勝てて、自分にとっても極めて特別な瞬間になりました。もちろん、これが最後ではなく何回も日本に来たいですし、もっともっと日本で勝ちたいと思っています」

 日本のトップマイラーをまとめて完封したロマンチックウォリアーの強さに、鞍上・マクドナルド騎手の確かな騎乗技術と満点のファンサービス。今回の安田記念でこのコンビのファンが日本でも一気に増えたのではないか。

宝塚記念は見送り、3連覇かかる香港カップを目標に

この後は宝塚記念には向かわず休養へ、暮れの香港カップでもロマンチックウォリアーは日本馬にとって強大な壁となりそうだ 

 となると、上半期のグランプリレース・宝塚記念にも登録があるだけに続戦を大いに期待したいところだが……同馬のオーナーであるピーター・ラウ氏、チャプ・シン・シャム調教師ともに、この後は休養に入って3連覇がかかる暮れの香港カップに備えたい意向を語った。

「レース後の状態を調教師、騎手と相談してからになりますが、安田記念を頑張ったことでかなり疲れを感じていると思いますし、今シーズンはすでに5戦走りました。おそらくこの後は休ませて、また香港での来シーズンに別のレースに参戦することを考えたい」(ラウ氏)

「香港のシーズンは9月からスタートしますが、9月、10月のレースに走らせることを今は考えていません。香港カップに直接向かうか、その前に1回使うことになるかもしれません」(シャム調教師)

 ロマンチックウォリアーが次に日本馬と相対するのは、総大将としてホームで迎え撃つ暮れの香港最大のレースとなりそう。とてつもなく強大なこの壁を日本馬は打ち破ることができるだろうか。ロマンチックウォリアーと日本トップホースが織り成す名勝負数え唄の続きがもう今から待ちきれない思いでいっぱいだ。

 ちなみに、オーナー、調教師とも日本にはゆかりのある人物。ラウ氏は日本の100円ショップを手本に「ジャパンホームセンター」を創業。馬主歴はまだ10年にも満たず、これまで所有した馬もロマンチックウォリアーを含めてわずか6頭だが、「日本で馬を走らせたい」という長年の夢を実現させて栄光をつかんだ。

 そしてシャム調教師は、2000年に安田記念を制して香港馬として初めて日本のGIレースを勝ったフェアリーキングプローンの調教助手として来日。「私自身、とても素晴らしい経験をしました」と、名トレーナーでもあったアイヴァン・アラン元調教師のもとで研さんを積んだ24年前の経験が今回の遠征に生きたことを語った。