競馬あれこれ 第30号

エリザベス女王杯】ジェラルディーナ超良血開花の裏に「福永の教え」 激しい気性と乗りやすさを〝両立〟

 

[GⅠエリザベス女王杯=2022年11月13日(日曜)3歳上(牝)、阪神競馬場、芝内2200メートル]

13日、阪神競馬場で行われたのは牝馬最強決定戦のGⅠエリザベス女王杯(芝内2200メートル)。朝から降り続いた雨により、9年ぶりの重馬場と混戦ムードが漂っていたが、制したのは国内外でGⅠ7勝の名牝ジェンティルドンナを母に持つジェラルディーナ(4歳・斉藤崇)父モーリスと合わせ13冠という超良血ゆえに背負ってきた十字架、まさかのアクシデント…。ここまでの道のりには多くのドラマがあった。

 母ジェンティルドンナも現役時代に担当した日迫助手(現平田厩舎所属)はジェラルディーナの〝今日〟を予言していた。「激しい一面も持った子みたいだね。でも、いいよ。ジェンティルの子はそうでなきゃ。あの子はきっと将来、大きいところを狙えると思う」

 この日もパドックでは大きく頭を上下させ、イレ込んでいるように見えた彼女。しかし、レースでは〝泰然〟。後方から鞍上と呼吸を合わせたままスーッと位置取りを上げ、抜群の手応えで4コーナーを回ると、まさに人馬一体の走りでグイグイ突き抜けた。

 テン乗りで最高の結果を出したクリスチャン・デムーロも「すごく乗りやすい。それと素晴らしい瞬発力が彼女のストロングポイントだ」と褒めたたえた。

 クリスチャンが挙げた「乗りやすさ」。それをジェラルディーナが習得できた裏には、ある〝事件〟があった。「決してあってはいけないことでしたが、(昨年の城崎特別=3秒5差8着で)手綱の尾錠が抜けてしまった時、福永さんが危険な中で馬にいろんなことを教えてくださった。その後から折り合いが良くなったので、それが今につながっています」と斉藤崇調教師は明かす。

 牝馬3冠、史上初のジャパンカップ連覇、年度代表馬2回…偉大過ぎる母から生まれ落ちた瞬間、大きなプレッシャーを背負った「さだめの子」。それに押し潰されず、レースでのアクシデントも糧に変え、ひたむきに走り続けてきた先に、栄冠が待っていた。

 これからも母の名前はずっとついて回るだろう。しかし、C・デムーロはこう言った。「父と母はすごくいい馬。でも、今はこの馬自身がいい馬なんです」。この後について斉藤崇師は「馬の状態を見てからになりますが、今年できればもう一戦したいですね」。親の名前に負けない光を放ち始めた彼女が、ここから新たな伝説をつくっていってくれることを、大勢のファンが願っている。